アボット伯爵
信頼する部下が捕らえられたと門番から聞き、ワシは我が耳を疑った。
雇って30年。これまで1度の失敗も無かった男だ。
それが捕らえられただけで無く、我が家の事まで喋るなど、考えられなかった。
しかし、屋敷の中に連れて来られたのは、間違いなく我が部下であった。
心身共に疲れ果てていたのか、ワシの顔を見るなり、
「申し訳ありません。しくじりました…」
と言い、すぐに気を失った。
すぐに医者を呼んでベットに寝かせ、スネークス伯爵に会う事となった。
噂は部下から聞いていたし、王太子の成婚パーティーでも、顔は見ていた。
どこにでも居そうな若者だ。
黒髪、黒い瞳は珍しいが、それ以外は至って普通の若者。
だが、国軍入隊して2年で中佐など聞いた事も無い。おそらく国軍史上初だろう。
陛下のお気に入り。
これはその通りだろう。
だが、それは実績有っての事だ。
あの陛下が気にいる何かがあるのだ。
ウェスティンの反乱。
あの件で、多大な成果を残した事。
また、実の親でさえ自分の手で始末するほどの忠誠心。
自領をあっという間に回復させた手腕。
調査させる理由に困ることが無いくらいだ。
当然調査させた。
我が家は狐と称されるくらい、狡猾に王国を生き延びてきた家だ。調査は欠かさないし、仕入れた情報は巧く使ってきた自負があった。しかし結果はコレだ。
謝罪をし、後日屋敷に招かれて、玄関ホールで度肝を抜かれた。
事前に説明はあった。
「デカイ蛇が居るので、驚かないように」
と。
だが、アレはデカイにも程がある。
しかもただの蛇では無い。
ギガントツリーバイパーだ。
猛毒持ちの凶暴な蛇の魔物だ。
アレを家で飼う?正気を疑った。
しかし、スネークス伯爵に、まるで甘えるように身体を擦り付け、頭を撫でられると、尻尾を振っていた。
これが噂に聞く魔物使いの技量かと感心した。
交渉も、対等な条件で締結できた。
我が領にはドワーフが多いので、酒は必須だ。
噂の新しい酒が有れば、ドワーフ達も喜ぶし、良い物を作ってくれるだろう。
持たせてくれた酒を飲んでみたが、かなり良い。
特にイネッシュとやらは、温めて飲むのも旨い。
寒い北では、重宝されるのは間違いない。
出だしは悪かったが、良い結果になった。
土産のチェスも高級品だ。我が領には量産品の木製の物しか流れて来てなかったからな。
一滴漏らしたの、バレて無ければ良いが…