採寸
さて、玄関から食堂に移動し、ソーナリスとお茶をしながら会話する。
ぴーちゃんも何故か食堂に移動し、パトリックとソーナリスの間を行ったり来たりしている。
前回、趣味の話になった時、パトリックは、ぴーちゃんの世話と言ったが、ソーナリスは裁縫が趣味との事であった。
で、今回話の流れで、
「パトリック様の服を作ってみたいのです」
と、言われた。
「服ですか?」
「はい! 普段着もそうですが、軍服や、式典用や、行進用の鎧なども作ってみたいのです」
普段着や軍服はまあわかる。式典用も理解できる。
「行進用?」
とは、何ぞ?
「はい! 4年に1度の軍事行進がありますでしょ? 確か来年に。アレに私の作った鎧で出て欲しいのです!」
軍事行進
王都の1軍から3軍が王都を行進し、そのまま王都周辺の魔物を一斉に駆除するお祭りである。
駆除した魔物の肉は、屋台などで格安で振る舞われ、毛皮などの使える物は、孤児院や戦争で夫を亡くした女性達に配られる。
パトリックはまだ参加した事はないが、おそらく来年は8軍も参加になるだろう。
確かに行進の時は普段とは違い、いわゆる高級軍人は、鎧で行進する。
「確かに私はまだ鎧を持ってませんが、よろしいのですか? 大変でしょう?」
「良いのです! パトリック様に手作りの鎧を作りたいのです! デザインはもちろん、私が考えます!」
少し鼻息の荒いソーナリスに、若干の不安を覚えるが、断るわけにもいかず、
「では、よろしくお願いします」
と、答えるしか無かった。
一年後、あの時断れば良かったと後悔するのだが、この時はまさかあんな鎧が出来上がってくるとは、思いもしなかったのだから。
「それよりも先にお兄様の結婚式用の服が必要ですわね! 1ヶ月後ですから、今から作れば間に合います! お任せ下さい!」
確かに王太子の結婚式に参加しない訳にはいかないし、相手は顔見知りの侯爵令嬢である。
お世話になっているから、お祝いの品も贈ってある。
「あの、間に合うので?」
普通、貴族の式典用の服などは、オーダーメイドなら、半年は掛かるものだが。
「裁縫は大得意ですから!」
まあ、嬉しそうだから良いかと、了承する。
その場で体の採寸をされ、解放された時には、すでに夕暮れ時。採寸の時に何か匂い嗅がれてた気がする。
パトリックはソーナリス一行にお土産として、お酒やチェスも渡し、お見送りし、屋敷のソファで1人、
「つかれたぁ〜」
と、ため息が漏れた。
が、それ以上に使用人達の顔には、疲労感が出ていた。
近衛や国軍に、飲み物や軽食を振る舞い、野次馬の整理にと、少ない人数でてんてこ舞いであったのだ。
「今日は、皆お疲れ様。後でウイスキーを料理長に渡しておくから、夕食後に一杯やってくれ。飲めない人には、葡萄水を用意するよ」
と、使用人を労った。