兵士のお仕事5
「うーん、どうするかな?」
「リードン大佐、どうされました?」
「いやな、一個中隊で調査を命じたまではいい、だが、夕方に森に入るか? スコット少尉は何を考えておったのやら。普通は森の前で野営して、早朝から森に入るだろう? 夜の森の夜戦など、死にに行くようなものだ。奴の戦闘経歴書を持ってきてくれ」
「はっ!」
「ゴブリンばかりだな…こないだのオークの時は別の中隊だったしな。トロールをデカイゴブリンとでも思ったのか? 全く」
「申し訳ございません、奴に出撃命令を出したのは私の落ち度でございます」
「いや、奴が空いていたからだろう? むしろ奴を少尉に上げた奴が問題だ。まあ、それはそれとして、今回の戦闘で無事だった兵士を何人か呼んできてくれ、聞き取り調査を行う」
リードン大佐の言葉に副官は、
「は、直ちに」
と言って退出していく。
証言1
「少尉殿が、トロールなど一個小隊でも倒せたのだから、恐るるに足らん。こちらは一個中隊だ、しかもバリスタまであるんだ、負ける要素はない! と言われまして…」
証言2
「森の夜戦とは本気ですか? と、尋ねたら、奴らは図体のデカいノロマだ! 走ればこちらの方が早い! しかもデカイからバリスタの良い的だろ? 当て放題だ! と笑われまして…」
聞いていて頭を抱えたリードン大佐。
キラキラした軍服に身を包み、金色の長髪と緑の瞳を持つ痩せ気味のヒョロっとした男。顔には傲慢な性格が滲み出ているような、そんな男、スコット少尉は大佐からの呼び出しに、機嫌よく向かった。
なにせトロール2匹を殲滅したのだ。多少怪我人は出たが、戦いとはそういうものだ。
「これは中尉に昇進かもな」
小声で口の端を持ち上げて声を漏らす。
「スコット・パジェノー少尉! 君は一体何を学んできたのかな?」
リードン大佐の第一声はコレだった。
何が言いたいのかわからなかったスコット少尉は、
「いかに敵を倒すかですが?」
と、聞き返した。
「バカモノっ! 負傷者15名うち死者3名も出しておいて、ぬけぬけとそんな事、よく言えたものだな!」
重傷者3名は、助からなかった。
怒鳴られたスコット少尉は、ムッとして言い返す。
「魔物との戦闘に負傷や死はつきものでしょう! 敵を早く倒すのが重要です!」
「作戦も立てずに突っ込んでいくのが戦闘か? ふざけるな! それは自殺行為と言うんだっ!」
「あれは戦死した者が未熟だっただけで、私に責任はありません! 他の怪我人も、走って転んだバカ者までいたのです! 鍛え方が足らんのです!」
「夜の森で戦闘すれば、石や枝で足を滑らすのは常識だっ! だからこそ森の夜戦はするなと教育されたはずだろうがっ!」
「私は転んでませんが? 鍛えてますので!」
「たまたまだろうがっ!」
「いえ、私は転びませんし、死にません」
「話にならんっ! もういい! 下がれっ!」
「はぁ、で、誰があのバカを少尉に推挙した?」
「はい、ジョナサン・ニューガーデン少将です。どうも、少将の親戚らしく」
「あのブタ少将か。どうりで顔がムカつくと思った」
「どう致します?」
「ペンスキー中将に連絡して、押さえて貰え。あのバカ使ってたら、兵士がいくらいても足りなくなる! あのバカは軍曹に降格だっ!」
「くそっ! 何が大佐だっ! 俺の事を見てもいないのに、偉そうにっ! あんなカス部下、何人死のうが、何人怪我しようが、かまうもんか! どうせ平民のロクデナシどもなんだから、減ってもすぐに増えるんだ、貴族が有効に活用して何が悪い! 俺は将来少将に、いや、大将になる男だぞ! 大佐ごときがっ! 今に見てろよ、叔父様に頼めばあんな奴、すぐに降格だっ!」
翌日、
「パトリック・リグスビー曹長を、少尉に昇進。
金貨5枚を褒賞とする」
「ウェイン・キンブル軍曹を、曹長に昇進。
金貨3枚を褒賞とする」
「スコット・パジェノー少尉を軍曹に降格する」
辞令が交付された。