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付与術士の再世界  作者: 二一京日
一章 王立学院入学
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王立学院入学

 ジルファは真新しい制服の着心地を確かめながら、鏡で自分の姿を見る。


(制服を着ると、学生だなっていう感じがするなぁ。同級生とは年が離れすぎてるけど、一周回ってそれはそれでいいか)


 制服は男子は黒、女子は白と分かれており、非常に分かりやすい。

 ただ、ジルファが確認するのは制服で動きやすいかどうかだけだ。


 実際に体を軽く動かしてみると、感覚は悪くなかった。


 ジルファが初戦闘の末に国王たちを守った後、王立学院入学の話は瞬く間に進み、その日のうちに寮の空いている部屋に入ることが決まった。入学手続きに関しても、ジルファが知らないうちにあっさりと決まり、気付いたときには全ての準備が終わっていた。


 もっとも、何か面倒な手続きがあった方が困るため、簡単に済んだことはジルファにとっては助かった。


 アミスとユリアもちょうど同じ段階で寮に入ったが、男子と女子で寮が違うことと、ジルファがあまり外に出なかったこともあり、二人とは会うことはなかった。


 入学までに会った人と言えば、国王の使いとやらで来た数人の男たちくらいだ。


 寮にいる間、ジルファは特訓のためにずっと引きこもっていた。生活のほとんどに魔術を使い、感覚を取り戻すことを最優先にした。


 そのおかげもあってか、神力はまだ操れないが、それ以外に関しては大分マシになっていた。


(さてと、そんじゃ初登校と行きますか)


 ジルファは部屋から出る時に、改めて部屋を見回した。

 本来なら貴族のような金持ちの子どもが入るような部屋で、平民の部屋はもっと質素らしいが、特別にジルファに当てられた。


 その広さと豪華さにジルファはため息を吐き、そっと扉を閉めた。


 平民と貴族の寮は棟が違うため、ジルファは棟を出るまで貴族たちに囲まれなくてはならない。


 ジルファが平民であることはすでに広く伝わっているようで、無遠慮な視線がジルファに突き刺さる。


 貴族たちは自信にあふれ、堂々としていた。その様子は途中からさらに顕著になった。

 学院までの道のりの途中で、貴族と平民は同じになる。


 その時、貴族たちは平民を見下し、より自信に満ち、平民たちは縮こまるように貴族たちを避けている。


 平民の彼らもそれなりの覚悟をして学院に入っているはずだが、それでも雰囲気に当てられることはあるだろう。

 むしろ、そんな中でも堂々としていられる方が少数だ。


 ちなみに、ジルファは遠慮して道を譲ったり、縮こまったりすることはない。ただ、周囲の視線にうんざりするだけだ。


 ふと、視線を先に向けるとジルファは見知った顔を見つけた。

 向こうも気付いたようで、アミスは一度睨みつけると顔を背かせ、ユリナは微笑みながら会釈した。

 ジルファはそれに対して手を上げて返す。


 ユリナが足早にアミスの後を追うの見ると、ジルファは相変わらずだなと思った。


「これはちょっと難題かな」


 そのまま学院へと足を踏み入れると、人がひと際集まっている場所に向かう。そこには新入生の組分けが書かれていた。


 とは言え、その組分けがほとんど決まり切っていることをほとんどの者が知っている。


 組分けは、それぞれのジョブと基本的には同じだ。

 初級ジョブは一組、中級ジョブは二組、上級ジョブは三組。


 だが、そこから実力によってクラスが変化する場合がある。そんなことはほとんどないらしいが、ジルファは初級ジョブの付与術士にもにも拘らず、上級ジョブと同じ三組に属することになった。


 他に特例で三組に入る人はいないらしいので、ジルファの周りは全員が上級ジョブとなる。

 もっとも、上級ジョブは人数が少ない。百人ほどの入学者に対して、上級ジョブはたった十人しかいない。


(千年も戦い続けてたんだ。学院で最強くらいにはなってみせないと、《神格者》は名乗れない)


 ジルファは三組に自分の名前があることを確認すると、そのまま自分の教室へと向かう。

 その最中もジルファに視線は突き刺さるが、構わず進む。


「ここか」


 ジルファは教室の前にたどり着くと、戸を開いて中に入る。


 教室内は静かで、不思議な空間に感じていた。

 外は喧騒で包まれているが、教室に入るとそこから隔離されている感じがする。話をしている人はいないわけではないが、少ない。


 そんな中、ジルファに一人鋭い視線を向けるアミスだけは、異様な圧力を放っている。窓際の一番前に座る彼女の視線は、真っ直ぐにジルファを射抜く。


(ここまでされる心当たりがない……いや、前に挑発したか。すっかり忘れてた)


 ジルファはそのままアミスの視線を流し、指定された席に座る。席はアミスからは一番遠い入り口側の一番後ろ。

 その隣にはユリナが座っていた。


 アミスの視線がきついのは、ユリナと石が隣同士になったことも関係しているのでは、とジルファは推察した。


「おはようございます、ジルファさん。お久しぶりですね」


「うん、久しぶり。元気にしてた?」


「私は元気にしてましたけど……アミスはちょっと張り切りすぎていて、特訓も前より過激になっていまして……ジルファさんが挑発したからそんなことになったんですよ」


 ユリナが小声でそう言うと、ジルファは困ったような表情をする。必要なことだったとは今でも思っているが、ここまで顕著に効果が出てしまえば、他の人にも迷惑がかかるのでは、と思ってしまった。


 実際、ユリナはどこか疲れている様子だ。


「もしかしてだけど、昨日も特訓してたの?」


「はい。昨日の夜遅くまで。《巫女》なので、《使徒》であるアミスをサポートしなくてはいけませんし」


「それは……大変だったね」


 ジルファが同情すると、ユリナは首を横に振った。


「いいえ、一番大変なのはアミスだって分かっていますから。私が弱音を吐くわけにはいきません」


 そう言うユリナの目には、しっかりと意志が宿っていた。


 こうなれば、他人がいくら言ったところで聞きはしないだろう。


「そうか。ならいいや。頑張って」


「はい」


「……話は変わるけど、ユリナのその、さん付けとかです、ますって口癖なの?」


「いえ、そう言うわけではないんですけど……その、夢でちょっと」


 その言い方に、ジルファは一つ思い当たることがあった。


「もしかして、女神セリーヌから何か言われたの?敬語を使え、とか」


「いえ、そこまで直接的ではないんですけど……その、私よりもよっぽどすごい人だと。だから、敬え、と」


「それ、十分に直接的だよ。まったく、どうしてこんなことに……」


 ジルファは女神セリーヌがいたずらでそんなことをしたわけではないだろうな、と思った。

 しかし、それでは少し居心地が悪いのは事実だ。


「あの、そう言うことは気にしないで、普通に接してくれていいよ。敬語はなしでいいし、名前も呼び捨てで。ユリナが良ければ、だけど」


 ジルファの言葉に、ユリナは安心したような表情をしていた。


「それは良かった。緊張もしていて、ジルファに会うのが少し怖くなってたし」


「それは……本当にごめん」


 ユリナのいきなりの砕けた口調は、違和感を感じるどころか、ジルファは心地よさを感じた。


 女神セリーヌがユリナに敬うことを強制したわけは、きっとジルファを思ってのことだろうが、それでユリナに迷惑がかかったことに、ジルファは少なからず責任を感じていた。


 しかし、それはユリナからしたらよく分からない謝罪だった。


「どうして、ジルファが謝るの?」


「いや、まぁ、何となくかな?僕がいることで緊張させちゃったみたいだし」


「あぁ、もう気にしないでいいよ。だいぶ楽になったから」


「そう?それは良かった」


 ちょうどその時、教室の戸が開き、教師が入ってきたため、そこで話はおしまいとなった。

 ジルファがユリナと話していた時、終始アミスから視線が来ていたことにはジルファは気付いていた。もう視線だけで射殺せそうなほど強かったが、教師が来て、その視線は教師へと向き、ジルファは解放された。


(この状況はできるだけ早めにどうにかしないとまずいかな。出来れば《使徒》を直接育ててみたいし)


 何かアミスと和解する方法を模索したいが、今は教師の話だ。


「諸君、入学おめでとう。君たちは栄えある三組として入学することが認められた。一人を除いて、皆優秀な者たちだろう」


 その教師は外見がサディスティックに見える若い女性だった。

 鞭でも持ったら似合いそう、などとジルファは一瞬考えた。


「さて、ここで諸君らにちょっとしたオリエンテーションをしてもらう。安心しろ、簡単なことだ。三組では毎年やっていることだからな」


 その教師は安心しろと言いながら、ジルファの方へと嫌な笑みを向けていた。

 ジルファはそのあからさまな様子に嫌悪感を示すが、どうしようもない。


(まぁ、黙らせたければ実力で、が通用するのがこの学院だ。一泡吹かせる気概を持っていれば、どうとでもなるか)


 ジルファは強い眼差しで教師を見返すと、教師はその態度に嫌そうな反応を示し、ジルファから視線を逸らして全員に向けて言う。


「三組のオリエンテーリング、それは……模擬戦だ」


(入学早々で、そう来るのか。面白い。下界に降りてからの特訓の成果を見せてやる)


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