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付与術士の再世界  作者: 二一京日
一章 王立学院入学
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入学決定

 ジルファはこれ以上《言霊》について説明しても仕方ないと思い、話を変える。


「それで、他に何か聞きたいことはありますか?できるだけ答えますけど」


「……そう言えば、お主は年はいくつだ?」


「あぁ、さっきそんなことを言っていましたね。一応、十六ですかね。詳しくは微妙ですけど……」


「む、そうか。ということは平民か?」


「はい、そうです」


 さすがに千年も生きているとは言えず、見た目の年齢を言うことになる。十六歳で肉体年齢が止まっていることが幸いした。


 ただ、曖昧な言い方をしたことにより、ゼーニスはジルファを孤児だと勘違いしたようだ。

 もっとも、そちらの方がジルファとしては都合がいいし、平民であることも嘘ではない。


「ジルファよ、お主、王立学院に入ってみぬか?」


「え、それは願ってもないことですけど……本当にいいんですか?」


 ジルファとしては、《使徒》や《巫女》と近づく機会が得られるのは、目的のためにも悪くない選択肢だ。


 それに、ここで出会ったということは、何か重要な意味があるのでは、とジルファは思っている。

 でなければ、いきなりあれほどの戦闘をする羽目になったことと釣り合いが取れない。


「あぁ、構わぬ。どうせなら、入学試験もパスでいいだろう。あれほどの実力があれば、大した問題はあるまい」


「大ありです、陛下!」


 とんとん拍子に話が進んでいくかに見えたが、またしてもアミスが突っかかってきた。


「陛下、他の入学者たちはしっかりと入学試験を受けて、入学を許されているのです。それは貴族も平民も変わりありません。それなのに、一平民が入学試験をパス?そんなことをすれば、生徒たちから不満が出ます。貴族からも平民からも」


「余が決めたのだ。それで十分だろう」


「確かに表向きは納得するでしょう。ですが、心の内では面白くないでしょう」


「王立学院は実力主義だ。しばらくすれば、誰もがジルファを認めるのではないか?お主も相応の実力があることは認めているだろう?」


「それは……最低限の力があることは認めます」


 アミスの言葉にジルファは苦笑する。


「まぁ、最近は少し鈍っててやりづらいんだよねぇ。確かに今の状態じゃ最低限度ではあるんだろうけど……だけど直に勘を取り戻すから、そこら辺は気にしないで。さっきの戦闘で感覚を掴みかけてたから、そう遠くないうちに、かな」


「ふざけるのも大概にして。本気でやればもっと強いって言いたいの?」


「今の本気はあの戦闘が限度だけど、でも本来の力を取り戻せばそこそこやれるはず、かな。少なくとも、《使徒》に負けるほど弱くはないと思うよ」


 ジルファは意図的にアミスを挑発するように言う。

 実際、《神格者》であるジルファが本来の力を使えれば、《使徒》に負けることはそうそうないのだが、それとは別にアミスを焚き付けたかったのだ。


 セリーヌは《使徒》が成長すべきと言っていた。だからこそ、少なからず対抗意識を持ってもらえれば、その分実力が伸びると考えたのだ。


 もっとも、焚き付けるからにはその分ジルファも本来の力を早急に取り戻す必要がある。

 だからこそ、こうして自分を追い詰めれば、その分感覚を取り戻しやすくなるだろうと考えたのだ。


「はははっ、随分と強気な発言だな。《使徒》は常人とは一線を画する。ジルファも相当強いが、おそらく魔術に特化しているだろう?それに対して、《使徒》はあらゆることをこなし、その中でさらに得意とするものがあるのだ。アミスのジョブは《賢者》、あらゆる属性の魔術を操る上級ジョブだ」


「《賢者》ですか。それはまたすごい。万能と強さを兼ね備えたジョブですよね」


 ゼーニスの魔術に特化している、と言う発言は正しくはないが、ジルファはあまり気にならなかった。

 どちらかと言うと、アミスが一体どういうタイプの《賢者》なのか、気になる所はあった。いくら万能と言えど、それぞれの属性の魔術に得意不得意が存在する。


 これは張り合いがある、とジルファは一人で嬉しくなった。


「ユリナは、ジルファが学院に入学するのはどう思う?」


「私は別に良いと思います」


「どうしてあなたはそうなるのよ。最初から好意的だし」


「ふふふっ、まぁ、一番は夢で見たから、ですけど」


「夢?それって《夢のお告げ》のことでしょ?それに何でこいつが出てきたのよ。というか、いつ?」


「ちょうど、昨日です。昨日の今日で会うことになったのは驚きました」


 ユリナの言うことに、アミスだけでなくゼーニスもラルクも驚いていた。

 その中で、ジルファだけが理解できていない。


(ユリナの持つ何かしらのスキルのことだとは思うんだけど……あぁ、《真理眼》で覗きたい)


 ジルファは自分の中の欲求と戦いながら、ふと思い当たった。分からないのなら、聞けばいいではないか、と。千年もの間、ほとんど一人でどうにかすることが多かったため、その考えが抜けていた。


「あの、先ほどから何の話をしているんですか?夢がどうとか言っていますが」


 正面の三人はまだ話し合っているため、隣のラルクにそっと聞く。

 すると、ラルクはすぐに答えてくれた。


「それはユリナのスキル、《夢のお告げ》だ。ごく稀に夢の中で、セリーヌ様からお告げが来るんだそうだ」


「なるほど……」


 ジルファはそこである程度納得できた。


(つまり、この状況は女神セリーヌの仕込んだとおりになっているということかな。まさか、そんなスキルがあるなんて。珍しい)


 そこでジルファはユリナに尋ねてみる。


「ユリナは一体、夢でどういう風に僕のことを見たの?」


「え?それは、王立学院でアミスと私、そしてジルファさんが一緒にいるところです」


「ちょっと、何よそれ!」


「ほう、つまり、彼が入学することはセリーヌ様のご意思ということか」


「陛下、それなら尚更入学してもらう方が」


「そうだな。ジルファもどうだ?」


「先ほども言いましたが、願ってもないことです」


「そうか、なら決まりだな」


「ちょ、陛下!」


 アミスがなおもゼーニスに文句を言いたそうにしているが、考えを変えそうにないと判断したのか、すぐにジルファへ顔を向け、睨みつける。


「陛下がこう言うから仕方ないけど、もし無様な真似をしたり、調子に乗るようなら容赦しないから」


「最初からそんなことするつもりはないけど……まぁ、了解」


「それと、ユリナに色目を使わないこと」


「ん?それは君が言うの?まぁ、別にそれ自体は良いけど……何で?」


「何でも何もない!」


「あ、はい」


 ジルファはちらりとユリナの方を見ると、どこか申し訳なさそうにしていた。その様子が可愛く見えるのは、ジルファだけの勘違いではないはずだ。


(なるほど。見た目が良いから、寄ってくる男どもがいるのか。そしてそれをアミスが牽制する、と。何ともまぁ、過保護なことで。僕が口を出すことでもないけどね)


 アミスはそれで言い切ったのか、ジルファから勢いよく顔を逸らす。

 そこまで思い切りが良いと、何かを思う気すらなくなり、まるで悟りを開いたかのように気にならなくなる。


(ひとまず《使徒》に近づくことはできたわけだし、ここまでスムーズに行ったことには感謝かな。千年ぶりの学院生活だし、少しくらい浮かれても罰は当たらないはず)


 千年前は、友人たちと楽しい学院生活だった。もう当時の学院や国はなくなってしまったが、ジルファの中で大切な思い出として残っている。それと劣らない物になることを、ジルファはこっそりと願った。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 セリーヌは玉に映りこむ様子に笑みを浮かべていた。


(久しぶりの下界ですからねぇ。最初くらいはサポートしてあげましたけど、結構うまく行きました。《巫女》の娘にお告げを出していたこともうまく働いたようですしね」


 しかし、そこから真剣な表情になり、セリーヌは少し前の映像に巻き戻す。そこにはジルファが敵と戦っている姿が映っていた。


 最後の最後で空間を切り裂く敵が現れた時はセリーヌも驚いたものだが、この戦いの中でジルファにミスはなかった。


(ジルファは確かに弱くなっているとはいえ、並みの人間では太刀打ちできるわけがありません。最低でも《使徒》レベルの実力がないとあそこまで拮抗できないでしょう)


 セリーヌは考え込むようにして悩む。


(ここまで強い人族が出ているなんて、私でも認識していませんでした。これは邪神を倒すだけという単純なものになりそうにないですね。そうなると、ジルファにはできるだけ早く本来の強さを取り戻してもらいませんと)


 セリーヌは映像を現実の時間に戻して、ジルファの様子を期待の思いを込めて眺めていた。


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