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付与術士の再世界  作者: 二一京日
一章 王立学院入学
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付与術士

「この度は救ってくれたことに感謝する。余はゼーニス・ベルリンデ。ベルリンデ王国の国王だ」


 ジルファは老人の紹介に目を見開く。


「……なぜ国王陛下がこのような場所に?」


「それはこちらの二人に関係している。ほら、二人も自己紹介せよ」


 ゼーニスにそう促されると、赤髪の少女の方から口を開いた。


「アミス・スルト。よろしく」


 いかにも不機嫌そうな雰囲気にジルファは反応に困り、スルーすることにした。


「私はユリナ・シクロンと言います。ジョブは《神官》、《巫女》の称号を持っています。今年王立学院に入学する十五歳です」


 金髪の少女、ユリナの方はアミスと違いジルファに対して否定的ではない。しかし、いきなりいくつもの情報が入ってきてジルファは頭を抱えた。


「えっと、《巫女》で王立学院入学で、しかも十五歳」


 ジルファは一瞬視線が下に向かいそうになるのを堪えたが、視界の端でしっかりと捉えていた。


(十五歳でその大きさって……こういう人が普通なのか?それともこの娘だけ?アミスっていう娘の方は普通だけど……)


 そうしてちらりとアミスの方を見ると、ジルファを睨んでいるのが見え、ジルファは肝が冷えた。


(よし、やめよう。不躾だし、今はそれよりも気になることがあるし)


 ジルファは一つ咳払いして、再びユリナへと視線を戻した。


「《巫女》の称号を持っているなんて、珍しいね。あまりいないんじゃないの?」


「はい。そうですね」


「我が国では、《巫女》の称号を持つのは彼女だけなのだ。君は《巫女》というのがどういう存在か知っているか?」


「はい。確か、《使徒》の称号を持つ者をサポートする存在ですよね?女性しか持つことのできない称号で、《使徒》に及ばないとはいえ、相当な力を持っているとか」


 ジルファの言葉に、アミスは眼光を強くして睨みつける。


「ちょっと、あなた。いくら何でも失礼でしょ?及ばないって何よ!それを気にする人だっているかもしれないじゃない!」


「……確かに、それは無神経だった。ユリナ、申し訳ない」


 アミスの言い分はもっともだと思うジルファは、ユリナに頭を下げた。

 そんなジルファにユリナは苦笑いしていた。


「だ、大丈夫ですよ。私は気にしていませんから」


「ちょっと、ユリナ。そうやって優しくするからこいつが勘違いするんじゃないの」


(何が勘違いだよ、おい)


 つい、心の中でアミスにツッコミを入れるジルファだが、決してそれをは表には出さない。面倒になることが目に見えているからである。


 そしてジルファには今一つ気になっていることがあった。

 それはアミスのことだ。


 《巫女》であるユリナの魔力が特殊なのは気付いていたが、それは解決した。

 問題はアミスの方からも特殊な魔力を感じているのだ。むしろ、その特殊さはジルファと近かった。


(まさか《神格者》、はないか。《神格者》ならあの程度の襲撃で気絶とかはならないはず。《真理眼》を使って調べられたら手っ取り早いけど、それは無理かな。こうやって向かい合っている以上、使えばすぐバレる。そうなれば面倒だ)


 ジルファは心でそっとため息を吐くと、アミスへと問いかける。


「間違ってたら悪いんだけど、アミスって《使徒》だったりするの?」


「おぉ、よくぞ分かったな」


 そう答えたのはゼーニス。


(なぜあんたが答える、のは別に良いとして……これは想像以上にまずい)


 ジルファが《使徒》という言葉を出し瞬間から、ただでさえ強かったアミスの眼光がさらに強くなった。


(これ、僕が全面的に悪いなんてことはないはず。ないはずだから、誰か助けてほしい)


 そう思い、ジルファは隣で静かにしているラルクを思い出し、そちらへ向く。

 楽しそうな顔をしているラルクに、ジルファは念を送る気持ちで助けを求める。


 すると、すぐさま助け船が来た。


「ところで、ジルファ殿。私は君のことを詳しく知りたいのだが」


(うわぁ、強引すぎる~。正面の三人の視線も痛い)


 だが、それらの苦痛を無視して、ラルクとの会話に繋げた。


「えぇ、聞きたいことがあればどうぞ」


「陛下は何か聞きたいことはありますか?」


 ラルクはそうゼーニスに問いかけると、ゼーニスは少し考え込むようにしてから答えた。


「そう言えば、ジルファ、お主のジョブを教えてもらってよいか?あれほど強力な魔術が使えるのだ。まさか、上級ジョブなのか?それなら相当な逸材だ。出来れば我が国の王立学院に入ってもらいたいが。見た所アミスとユリナとも同じような年齢だしな。どうせなら国から支援を出してもいい。余や《使徒》、《巫女》を救ったのだ。報奨金もたんまりと出るだろう。褒美をもとらせるぞ」


「陛下、ひとまずその辺で。聞きたいことは一つずつの方が良いのでは?」


「そ、そうだな。つい興奮してしまった。それで、まずはお主のジョブについてだ。どんなジョブだ?」


 興奮を隠しきれないゼーニス、目を輝かせるラルク。アミスは相変わらず不愛想な表情だが、ユリナは興味を持っている様子。


(こんなに期待されても困るんだよなぁ。ジョブだけで言えば、僕って最弱だからなぁ)


 それでも言わないわけにはいかないし、嘘をついても、あとでバレた時にどうなるか怖い。

 ジルファはため息を吐いて、はっきりと言った。


「僕は《付与術士》ですよ」


 その一言で、空間が凍り付いたようだった。

 しかし、それは一瞬で、すぐに驚きがそれぞれの中を満たした。


 そんな中、真っ先に声をあげたのはアミスだった。


「どういうことよ、それ!あなたが《付与術士》?ふざけるのも大概にしなさい!《付与術士》と言えば、付与魔術しか使えない最弱のジョブじゃないの!それが一体どうしてあれだけ戦えるって言うのよ。何?嫌味?私には《使徒》は不釣り合いだって言いたいわけ?馬鹿にすんな!」


 まくし立てるように言い切るアミスに、一同呆然としていた。

 しかし、それだけ言われてもジルファにはどうしようもないことだ。ジルファは嘘をついていない。むしろ、アミスが一人で暴走しているようだ。


 ただ、《付与術士》がなぜ、という疑問は他の三人も持っているようなため、ジルファはしっかりと説明することにした。


「ふざける、馬鹿にする云々はひとまず置いておくとして、さっきの《テンペスト》について、あれがどういう魔術なのか説明しますね」


 ジルファが冷静にしていることも、自分が言ったことも流されるのも気に入らないのかアミスはムッとするが、説明すると言うジルファの邪魔をすることはなかった。


「改めて言いますが、僕のクラスは《付与術士》です。冗談ではなく、本当に。そして、使える魔術が付与魔術だけだというのもその通りです。ただ、少し特殊なスキルは持っていますよ。とは言え、魔術から派生した後天的なものですけどね」


 ジルファは人差し指を突き立てる。


「《風よ吹け》」


 すると、馬車の中を軽くそよ風が吹いた。


「これは《言霊》です。自分が口にした言葉を、この世界の事象に強要するスキルです。簡単に言えば、言った言葉がそのままその通りになるってことですね。《テンペスト》もこれと同じです」


 ジルファの説明に、いきなり四人ともが唖然としていた。

 それも無理はない。

 《言霊》はジルファの《付与術士》としての極地だ。そう簡単に納得できるものではない。千年前も、ジルファが初めてそれをやった時は、仲間たちに驚かれたものだ。


「《言霊》はつまりは状態の付与なんですよ。今の、風よ吹け、の言葉は周囲の空気に吹いている状態を付与したんです。そうすることで、結果として風が吹く。《テンペスト》も空気に渦巻く状態を付与することで、竜巻を作っているんですよ」


 そう説明しながらも、ジルファは手応えの無さに苦笑する。仕方ないと思いつつも、理解されないのは勿体ないと思ってしまう。


 困惑の空気の中、ユリナが問いかける。


「それが付与魔術の一種ってことは、誰でもそれはできるということですよね?なら、ジルファさん以外にも使えていいはずですよね?でも、そんな話は聞いたことがありません」


 ユリナの言葉には他の三人も同意見のようで、ジルファに目で訴える。


「まぁ、確かに難しいかもしれませんね。そもそも《言霊》を習得すること自体が、他のクラスの人たちにとっては無駄が多いんですよ。はっきり言って、同じ結果になるなら魔術よりも《言霊》の方が威力が低くなるんですよ。かなりの無理を通している分、そうなるのは当然なんですけど。なので、《言霊》は《付与術士》に向いている、というか《付与術士》しか使えないスキルです。とはいえ、こんなことは付与魔術を極めるくらいでないと難しいです」


 ジルファの言葉から一同は察した。


 《付与術士》は初級クラスの中で最弱と言われており、戦いには全く向かず、最低限出来ればそれで十分、むしろできないことの方が多い、という認識が強い。

 それは千年前も今も変わらない。


 そもそも付与魔術は誰でも使える魔術であり、《付与術士》の利点は付与魔術の効果が他のクラスより少し強い程度だ。これで鍛えようとする人の方が少ないし、いたとしても大抵は挫折する。


 千年前も、強さに直結するほどに付与魔術を扱えていたのはジルファだけだった。


「それに、《言霊》って少し面倒なんですよ。普通に魔術を使える方が楽なんですから、そっちの方が良いです。《言霊》を使っていれば、他の魔術が使えなくなる可能性だってありますから」


「何だと?それは真か?」


「はい。そもそも他の魔術と《言霊》では作用の仕方が全く違うので、《言霊》に慣れると、他の魔術が使えなくなってしまいます。僕も最初は単純な付与魔術の方が使えなくなりましたし。今は大丈夫ですけど」


 ゼーニスに問われ、ジルファは苦笑しながらその時のことを思い出す。


 付与魔術が使えなくなり、焦って練習し、また使えるようになった。その後、また《言霊》を何度か使ったら、また付与魔術が使えなくなり、再び特訓して使えるようになった。


 その時ジルファは自棄になり、両方とも使えるようになろうと毎日毎日特訓していた。

 あの時が一番大変な特訓だったな、とジルファは思った。


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