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付与術士の再世界  作者: 二一京日
一章 王立学院入学
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いきなり戦闘

 ジルファは簡単に準備を済ませると、すぐに下界へと降りて行った。用事で別の空間に行くことはよくあるので、準備はそこまで手間取らない。下界へ降りるための空間の穴もセリーヌがわざわざ開けてくれたため、ジルファが労力を払うことはなかった。


 ただ、出た先に広がる光景にジルファは一瞬言葉を失い、先ほど通って来た穴を振り返った。そんなジルファを気にすることはなく、穴は目の前であっさりと閉じていく。

 それがセリーヌからのメッセージであるとジルファは捉えた。


(言うことはない、ということか。何かしらの便宜は払ってくれているんだろうけど、どんな意図があるかは説明なし、か)


 ジルファは改めて周囲を見渡して見るが、相変わらず映る景色に変わりはない。ただ木々が広がっているだけだ。


(どう考えても森の中なんだよねぇ。町とか街道とかに出ると思ってたのに、まさかこうなるとは……。ちゃんと確認取ってれば……取ってもはぐらかされただけかな)


 ジルファの頭の中には、意味深に微笑むセリーヌの表情が浮かんでいた。その顔の前では、もうジルファは何もできない。


(まぁ、仕方ない。最初から上手くいくとは限らないんだし。ハードモード過ぎなければ良いかな)


 ひとまず、自分が下界でどの程度スキルが使えるのかを試すために、左眼に魔力を集める。

 すると、左眼が黒から虹色に変化し、ジルファの視界の所々に、金色の煙のようなものが流れているのが見えた。


(神力が見えるってことは、ちゃんと《真理眼》は発動しているのか。これはありがたい)


 ジルファは次に自分自身へと意識を向け、今の自分を見る。



ジルファ・クウェール

《ジョブ》付与術士

《称号》神格者

《スキル》付与魔術

      刻印

      言霊

      無属性魔法

      真理眼

      神格化

      神術



 ジルファは見えた自分の情報に首を傾げた。


(あれ?使えるスキルに全く変化がない。変わらず全部使えるってことなのか?)


 少し試しに《真理眼》で見える神力を体の中へと取り込もうとする。いつもなら、すぐに成功して《神格化》できるのだが、今回は上手くいかない。

 神力はどれだけ力を込めたところで、操れないときはどうしようもなく操れないため、ジルファはそこで諦めた。


(いつもの何でも自分の思い通りになる空間に慣れすぎたかな。ここはセリーヌの世界。僕が自分勝手にできるわけない、か)


 とは言え、ジルファは千年前はセリーヌの世界でも神力を操り、《神格化》することはできていたため、慣れれば時期にできるようになるだろうと後回しにした。


(他のは……ひとまずやってみるか)


 ジルファは目を閉じ、いつもの感覚で魔力を使う。


「《スキル付与・探知》」


 すると、ジルファの頭の中に周囲数キロにわたっての様子が伝わってきた。

 何も問題なく発動したことに安堵しつつ、ジルファは周囲がどうなっているのか調べる。


(この森は歩けばすぐに街道に出そうかな。場所は、ベルリンデ王国の王都の近く、か。最初はどうなるかと思ったけど、なかなか良い場所に送ってくれたってことね。ただ、森の中もそうだけど、街道にも人の反応が全然……あ、あった。街道に十人……そこから一キロ位離れた森の中に一人、かな。魔獣は《探知》の効果範囲内にはいない、か。昼間だからかな?それとも誰かが定期的に討伐でもしているのかな?)


 魔獣が千年前も今も変わらず存在していることをジルファは知っている。そのため、生息するのに適している森の中に、一体もいないことが不思議だったのだ。


(まぁ、いないならいないで余計な面倒にはならないんだけど、どうせなら少し肩慣らしくらいはしたかったなぁ。準備運動くらいにはなったと思うけど。今の自分がどの程度戦えるのかも知らずに強敵と戦うのは、何か嫌だし)


 ジルファはこれ以上は何もないと思い、《探知》を切った。


(それにしても、《スキル付与》が問題なくできるのは助かったかな。それだけで十分に便利だからね。後は別の機会にでもやりますか。一気に何でも分かっちゃうのはつまらないしね)


 そう自分に言い聞かせ、ジルファは森を出ようと歩き出す。

 森はたびたび人が通っているのか、そこまで歩きにくくはなかった。むしろ、常人よりは身体能力の高いジルファは、森の中を楽しみながら進んでいた。

 森の中よりも面倒な場所で戦った経験が今まで何度もあったジルファにとっては、ただの森の中はちょっとした遊び場になる。


(まぁ、千年ぶりの下界なんだ。楽しくいかなきゃ損だしね)


 そうやって順調に進んでいると、先ほど《探知》で調べた十人との距離が近くなっていることにジルファは気付いた。


(もしかして、このまま森から出ればちょうどバッタリ会うくらいになるのか。いきなりこうなるってことは、女神セリーヌの狙いの内かな?まぁ、良いけど)


 《探知》を使わずとも、魔力を察知するだけならばできるので、一度《探知》で調べた人たちがどの辺りにいるのかはジルファにはすぐに分かる。


 ついでに先ほど森の中にいたもう一人の魔力も察知してみると、いまだに森の中におり、ほとんど動いていないように思えた。


(一体どういうこと……っ!)


 急激な魔力の高まりを感じたジルファは、一度足を止めた。魔力の発生源は、森の中の一人。ジルファはそちらの方向へ向き、《真理眼》を発動させた。

 《真理眼》には個人情報を見抜く力だけでなく、遠くを見通す力もある。その力で、魔力を高めているその人を見る。


 姿はローブに隠れて見えないが、魔力の高まりの正体は魔術だと気付いた。


(一体何が目的で魔術なんか。出来れば情報を見たいところなんだけど……)


 目に魔力を込めてその人を見ようとするが、ただ視界がクリアになっていくだけで、情報は見えない。


(これもか。前は遠くの対象の情報も見れたのに、ダメになってる。便利だったんだけど……やっぱり便利さに胡坐をかきすぎてたかな)


 今は力を取り戻すことが必要だ、とジルファは思った。

 千年前にこの世界に居た時にはできていたことなので、取り戻すことはできるだろうと思っている。


(とりあえずの方針はそれで良いとして、今はこの人がどんな魔術を使おうとしているのか、だよね)


 ジルファが注視していると、その人の周りに剣が次々と作られていくのが見えた。


(あれは土属性の魔術か。普通は剣をあんなに作るよりも、地面に直接干渉した方が効率は良いはずなんだけど、あの人は躊躇なくやってる。慣れてるのかな?ということは、剣を作ることに関する特別なスキルでもあるのかな?どうなんだろう)


 そう思案していると、その人は剣を作りながら、それらの剣を放ち始めた。何本もの剣がまるで矢のように飛んでいくのを見て、ジルファは一瞬珍しい光景に感心していた。


 しかし、すぐに剣が飛んだ方向に気付いた。


「ちょっ、嘘でしょ!?いきなりあんなのをくらったら、さすがにまずいんじゃ……」


 剣が飛んでいったのは、十人が固まって動いていた集団の方だ。

 街道をまっとうに進んでいることから、盗賊などの後ろ暗い連中でないことは推測でき、むしろ今魔術を使っている人の方が断然怪しかった。

 そう考えると、ジルファは急いで森から出ようと走る。


 かなりの速度で進んでいるが、木々が進路をふさぐように立っていて真っ直ぐ進めない。先ほどまでなら楽しむことができた状況も、今ではただの邪魔でしかなかった。


(あぁ、もう、何でいきなりこうなるかな?)


 もう少しで森から出られるという所で、ジルファの耳に何かの衝撃音が聞こえ、その後次々と混乱する人々の声や怒号が聞こえてきた。


「間に合わなかったのか。とにかく急がないと!」


 ジルファは勢いを緩めることなく木々を躱し、ようやく森から出ると、そこには倒れる高そうな馬車とそこから投げ出された様子の人々。さらにはその周囲を慌ただしく動き回る騎士のような人たち。そして、空から次々と降ってくる剣の数々。


 騎士たちは慌てて立て直そうとしているが、彼らにとっても予想外の出来事のようで、落ち着きがない。このままでは全滅もあり得る。


 そう思ったジルファは咄嗟に、剣が振ってくる空に手をかざした。


「《障壁》!」


 すると、途端に剣が上空で弾かれ始め、騎士たちに当たらずに周囲へ落ちていく。


 ジルファの上げた声に反応した騎士たちは一瞬警戒したが、直後に剣が防がれているのを見て、反応に困っていた。

 この状況で出てきたことは怪しいが、攻撃から守ってくれていることに間違いはなさそう。

 そういう理由だろう。


 ジルファは仕方なく、手っ取り早く済む方法を選び、騎士たちの方へ小走りに向かう。


「加勢します!」


 はっきりとそう言い切り、困惑している騎士たちを無視して《障壁》の維持に集中する。


 《障壁》はジルファの持つ防御の中で最も簡易的なものだが、その分発動まで時間がかからない。ジルファの実力なら、その強度も折り紙付きの物となる。


 このままの状況が続けば防ぎ続けることは可能だが、ジルファは一応警戒し、《障壁》の強度を上げておく。


 すると、それと同時に、先ほどまでただ弾かれていた剣が突然、《障壁》に当たると同時に爆発し始めた。


「はぁ!?」


 そんな予想外の光景に、ジルファは思わず声を上げる。


 降ってくる剣が土属性の魔術で作られていることは確実。にもかかわらず爆発するということは、そこに火属性が組み込まれているのだ。

 それはもはや並みの剣ではない。


「魔剣ってことか。魔剣を使い潰すって贅沢な使い方だな」


 ジルファが発した魔剣という言葉に周囲の騎士たちは困惑している。

 その様子から、ジルファは千年後の世界でも魔剣は希少なものだということが分かった。


 とは言え、今相手が放っているのは使い捨ての魔剣。ジルファの考えでは、今その場で魔剣を作って放っている。明らかにスキルによる力だ。

 一撃一撃は本来の魔剣には及ばないが、数が多い。《障壁》だけでは破られる可能性がある。

 そもそも、強度を上げていなければ、辺りはとっくに火の海になっていてもおかしくなかった。


「まったく、いきなりこんな戦闘になるなんて……。初戦にしては、ウォーミングアップの域を出過ぎてるとは思うんだけどなぁ」


 そう愚痴り、ジルファは剣を防いでいた《障壁》を解除した。


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