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姉×萌え×ショタ ~才色兼備な姉の弱点はボクなんです~  作者: とら猫の尻尾
第二章 鮫島花梨AAは女を磨きたい《高校入学編》
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君子危うきに近寄る(壱)

「今日でショタ君はクビです!」


 昼休みの教室で、いつものように向かい合わせで弁当を食べていたとき、花梨さんが突然の解雇宣告をしてきた。

 ボクはゴクリと白米を喉の奥に流し込んでから、一呼吸置いて問いかける。


「ボクは誰かに雇われていたのかな?」

「べつに雇っていたわけではないけど、これはショタ君とカリンが交わした契約みたいなもの……血塗られた契約書だから……」

「何その、中二病みたいな設定は!?」

 

 思わず大きな声を出してしまったので、教室に残って弁当を食べている他の人たちの視線がボクに突き刺さる。

 当の花梨さんはイチゴ牛乳をちうーっと吸い、うつむき加減に視線をそらす。

 何だか今日の彼女はどこかよそよそしい感じがする。 


「で、ボクたちは何の契約を交わしたんだっけ? ボクには契約なんてまったく身に覚えがないことなんだけどさ」

「今やってるこれよこれ! お弁当をこうして一緒に食べることよ!」

「ええっ、これ契約だったの?」

「ボッチのショタ君と孤高のカリンが昼を共に過ごすという仮初めの契約――」

「やだなーその言い方! そりゃあ、最初に誘ったのは確かにボクだけどさっ」


 そう、あれは入学して間もないころ、一人寂しく自席でお弁当を食べていた花梨さんに、一緒に食べようってボクが声をかけたんだ。

 その日以来、ボクらは毎日、向かい合わせになって弁当を食べている。

 でもそれは約束したからとかそんな事ではなく、ただ何となく続けていることであり、契約を交わした覚えなどない訳で……


 彼女はそれを契約だと思っていたということなの?


 花梨さんはボクの戸惑いなど意に介せずという感じで、大きいエビフライにパクリとかぶりつき、もぐもぐと食べている。


「んー、つまり……、お昼のお弁当を一緒に食べるのは、もうやめようということかな? べ、べつにボクは構わないけどさっ! ど、どうして急に、そんなことを言い出したのかなぁー?」


 なぜかボクの声は震えている。

 理由は分からないけれど、その原因はアレしかない。


 鈴木先輩だ。 


 昨日の放課後に、鈴木先輩と花梨さんは生徒会企画のバディーとなった。

 くじ引きによりバディーとなった二人は、授業以外の時間を共に過ごし、助け合わなければならないのだ。

 で、今日がその初日となる訳だけれど、お弁当を食べるこの時間は今まで通りに過ごすのだろうと思い込んでいたボクが愚かだった。

 そして恐らく花梨さんも同様に愚かだったのだ。

 そして今、彼女はそのことに気付いてしまった。


「ということで、カリンは明日からセンパイと食べることにしたのよ! あぁーどうしよう。ねえ、こういうときって、男の子のお弁当も作ってきたほうが良いのかな? センパイの分も作ってきましたーって渡したら、センパイ喜んでくれるかな? きゃー」


 ボクの方が悲鳴を上げたい気分だよ。

 なんなの、この突然のイメージチェンジ。


「あ、もしかしてぇー」


  花梨さんは猫のような悪戯っ子の目で、ボクの顔をのぞき込んでくる。


「ショタ君妬いてんのかな?」

「ぼ、ボクが妬いてる!? 花梨さんに? はあーっ? そんなわけ――」

「ないよね? 分かってる。ちょっとからかっただけだから、あはははは」


 くっそー! これは完全にもてあそばれているぞ!


 ころころ笑う花梨さんがよほど珍しいらしく、クラスメート達はチラチラと彼女を見てはヒソヒソ話をしている。

 

 そんなとき、教室の後ろのドアがガラッと開いて、さらさらヘアーのイケメン男、鈴木先輩が爽やかな笑顔で登場した。

 

「鮫嶋さーん、食べ終わったかなー?」

「あ、はーい。今食べ終わりましたーっ、うぐぐっ」


 大きなエビフライを二本同時に口に放りこんだせいで、危うく喉を詰まりそうになった花梨さんは、ずびびーと一気に残りのイチゴ牛乳を吸い上げ、ごくんと喉の奥に流し込もうとする。


「あはは、急がなくて良いんだよ鮫嶋さん。昼休みはまだたっぷり残っているし、今日の放課後は生徒会の仕事はオフだからさー」

「ひ、()え、へンハイ(センパイ)と一緒に()ごすひ間(時間)は、ひち()秒でも()駄に()たくないのでっ、ぶはっ」


 花梨さんが口に入っていた物をボクに向かって吐き出した。

 イチゴ牛乳の甘い香りとエビフライの匂いがボクの身体を包み込む。

 机の上とかシャツとかにフライの衣の欠片とか、白米の欠片とか、イチゴ牛乳由来の白濁液とかが点々と付着している。

 もちろん、ボクの顔や首筋にもね……

 ボクの目は今、死んだ魚のように色が消えているだろう。


 教室内がざわつき始める。


「あっちゃー、ごめんごめん。ほらショタ君、これで顔を拭いていいのよ……」


 空気を読めない花梨さんとはいえ、さすがにこの状況はマズいと思ったらしくて、ピンクの花柄模様のハンカチをボクの顔に当ててきた。

 ここで怒るのも大人げないと思ったボクは、大人しくそれを受け取り、自分でゴシゴシと顔を拭く。

 すると花梨さんは自分の机をささっと前向きに直して、弁当箱を鞄に仕舞い込み、とととと鈴木先輩の方へと駆け寄っていった。

 

「え、彼……あのままで大丈夫なの?」

「大丈夫ですよセンパイ! カリンとショタ君はそんなんじゃないんで!」

「えっ、そんなんってじゃないんでって……どういう」

「いーですから、さ、行きましょう! 時間が勿体ないんで!」


 花梨さんは先輩の手を腕を握って、行ってしまった。

 呆然と二人の後ろ姿を見送るボクは――

 

「なにあれ!?」


 また大きな声で叫んでしまった。


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