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姉×萌え×ショタ ~才色兼備な姉の弱点はボクなんです~  作者: とら猫の尻尾
第二章 鮫島花梨AAは女を磨きたい《高校入学編》
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策士は溺れない(参)

 生徒会長としての姉が、普段はどんな表情で、どんなしゃべり方をして、どんな会話を交わしているのかを、ボクはまだよく知らない。

 じっさいボクはこれまで花梨さんといっしょに二度生徒会室に呼ばれていた。ただ、そのときは互いの自己紹介とか活動方針の説明とかが主な内容だったので、姉はどこかよそよそしい感じに見えた。


 でも、今日はボクらが予想以上に早く来てしまっていたため、姉にとってはまさに不意打ち。――それは初めてみる、よそ行きの顔だった。


「さあ、みんなー、今日も生徒会活動を張り切ってがんばりま――へっ!?」


 家では見せない満面の作り笑顔で、拳を突き上げながら元気良く入って来た。

 でも、そのタイミングが最悪だった。


 部屋の隅でうずくまって泣いている男子高校生。

 舞台女優のように黒髪をなびかせて振り向いた状態で動きを止めた女子高生。


「かいちょー! 実らぬ恋の相手って誰なんですかーっ?」

 空気を読めない小さな芸能レポーター。

   

 そして、このカオスな状況に死んだ魚のような目になったボクを見て、姉は拳を突き上げたポーズのままフリーズしてしまった。


「ありゃりゃー、鈴木っちはまた泣いてるにゃー?」 


 ショートカットで先端が上にくるっとカールしている女の子が、固まったまま動かない姉の肩越しにひょいと顔を覗かせた。

 彼女は姉と同じクラスの名取照美(なとりてるみ)さん。

 姉曰く、『テルは生真面目な性格の人が多い生徒会役員の中で唯一のお調子者だけれど、時にはムードメーカーとして役に立つ』人材らしい。


「それに引き換えミキちゃんはとてもゴキゲンそうだにゃー、何か良いことあった?」


「えっ……い、いいこと!? うふふっ、そうねぇ、それはこれから起きるかもしれないわよ?」


 生徒会のムードメーカー名取さんに声をかけられたことで、ほっとしたように動きを取り戻した工藤さんは、ボクに向かって意味深な視線を送りつつ片目をつぶった。


 ――ん?

 今のはウインク?

 なんでボクに?


 あたふたと周りを見回してみたけれど、やっぱり工藤さんの視線の先にはボクしかいなかった。 


「んー? なんだか少し胸騒ぎがするけれど、まあいいわ。早速話し合いを始めましょー! みんな席についてねー!」


 よく状況が分からない姉は、会議の進行を優先させるという選択をしたようだ。首を傾げながらも、窓側の一番奥の定位置に座った。

 姉と一緒に来た他のメンバーたちもぞろぞろと入って来て、それぞれの席についていく。 


 生徒会室には九脚の事務机が向かい合わせになっていて、奥は工藤美紀さんと名取照美さんの女性陣が座り、入口側には男達三人が座っている。ボクと花梨さんは入口に一番近い机の前にイスを並べて座っていて、正面には赤く目を腫らした鈴木先輩が座っている。

 

 つまり、花梨さんは男四人に囲まれているわけで、これって彼女にとっては千載一遇のチャンス到来じゃない? まあ、そのうちの一名、ボクは最初から除外されているようだけどさ。

 ちらっと様子を見てみると、案の定正面にいる鈴木先輩をまん丸お目々でじっと見つめているようだった。 


「さて、私たち生徒会執行部は知っての通り『ワンダーランド計画』を柱として、ここ星埜守学園を〝あそび〟と〝まなび〟の両立した場に変革しようと動き出しました――」


 淡々と説明を始めた姉は、すっかりいつもの調子を取り戻していた。

 ワンダーランド計画の趣旨を要約すると、生徒会主催の学校行事の盛り上げと、生徒会を中心により快適な学習環境づくりの二本柱ということになるらしい。

 踏み込んだ内容については、どうやら現状では部外者であるボクと花梨さんがいる前では伏せられているようだ。


「それでは、さっそく一年生の二人にも協力してもらいましょう! ……と言いたいところなんだけど……」


 ここまですらすらと説明口調だった姉が急に口ごもり、斜め前の工藤さんをチラリと見る。すると工藤さんは軽く頷いてからボクらの方に顔を向けた。

 

「そうね。鮫嶋さんも夢見沢君も……もう少し他人とのコミュニケーションスキルを身につけないと……ね?」


 工藤さんがまたウインクをした。 

 窓から差し込む夕日が逆光となって、黒髪が絹の繊維のようにキラキラと輝いた。


 工藤さんの顔は死角で見えなかったはずだけど、ごくりと唾を飲み込むボクの反応を見て姉が不思議そうに首を傾けた。


「あ、そんな心配は無用ですよ? ショタ君はともかくカリンは大丈夫なので!」

「ど、どの口がそれを言う!? 花梨さんこそ、その空気の読めなさ加減をどうにかしなくちゃ――」


「はーい、そこまでよ、お二人さん! これはカエデと私で相談して決めたことなの! あなた達には、コミュニケーションスキルの特訓をしてもらうわ! 異論は認めないわよ!」


「えっ、かいちょーがカリンのために!?」

「特訓!?」


「そう。今から講師役の上級生とバーディーを組んでもらって、一週間みっちり特訓よ!」


「あ、じゃあカリンはかいちょーと組みたいです」

「ええっ!?」


 と驚いてみたものの、この話しの流れで花梨さんが姉と組みたがるのは充分予想できたことだった。

 それよりもボクは姉が心配だった。花梨さんのことだから、一週間も姉と一緒に過ごしたりしたら、さすがに波乱のひとつやふたつは必ず起こるだろう。 

 

 ところが、当の本人は鼻歌でも歌い出しそうな余裕の表情で、机の引き出しから何かを取り出していた。


「『ワンダーランド計画』は〝あそび〟と〝まなび〟と言ったでしょう? だから、カードで決めるのっ! 運命の相手をねっ?」


 まるでいたずらっ子のような顔で、姉は机の上にトランプを広げたのである。 


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