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姉×萌え×ショタ ~才色兼備な姉の弱点はボクなんです~  作者: とら猫の尻尾
第二章 鮫島花梨AAは女を磨きたい《高校入学編》
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春の嵐(陸)

「えっ、えっ、皆どうしてこっち見てんの? ねえショタ君……カリンたち何か変なことしていたかな? カリン、体育の授業ってあまり受けたことがないからよく分からないんだけど、柔軟体操ってこうやるものじゃないの?」


 不安げな表情でボクの体操服の袖をつかみ、キョロキョロと周りを見回す花梨さん。


 今、聞き流してはならない何か大切なことを耳にした気がしたけれど、ボクはその言葉の内容を分析するよりも先に、彼女の身体からふわっと漂ってきたイチゴミルクの香りに意識が集中してしまっていた。


 顔が近い。


 ピンク色のリップクリームが塗られた唇が、不意に艶めかしいものに感じてしまった。


 うー、邪念よ去れ!


 思い返せば、入試会場で初めて会ったあの時――消しゴムが足元に転がってきたあの時から、ボクはずっとこの子にペースを乱されっぱなしだったんだ。


 すぐ転ぶくせに身体は柔らかいし、家は裕福っぽいくせに食い意地が張っているし……、すぐ泣くし、すぐ怒るし。


 良いところなんて何一つ見つけられないのに……




 ――なぜか気になる―― 




 ボクはそんな(よこしま)な感情を吹っ切るべく首を振り、何か気の利いたことを言わなくちゃいけないと頭の中で必死に言葉を探していた。

 だけと、心臓の高鳴りは、いっこうに収まる気配を見せない。

 

「何だお前たち、男女で組んでいるのか? まあ、お前たちがそれで良いならオレは別に構わないけれど、嫌なら無理して組まなくてもいいんだぞ?」


 そんなとき、四月も半ばだというのに、季節外れにも上下に黒いウインドブレーカーを着た、若い体育科の先生が声をかけてきた。体育館内の測定機器を一通り点検し終わって、男女で組んでいるボクらのことを心配して声をかけに来てくれたのだろう。

 先生の姿がキラキラと輝いて、まるで救世主のように見えた。


 ボクは深く呼吸をしてから、口を開く。


「えー、でも……体格が同じ者同士で組まないといけないって、体育委員から説明をうけたんですけど?」


「んー? オレはそんなこと言った覚えはないけどなぁー……」


 わざとらしくボクは皆に聞こえるように大きめな声で返したら、先生はあごに手を当てて首をひねりながら疑問の言葉を返してきた。


 ボクらの会話を聞いたF組の生徒たちは、互いに顔を見合わせて落ち着かない様子。

 そんな女子集団の中心にいる、猫目の女の子と目が合うと、にやりと笑い返されてしまった。


 うん、もう確定だね。

 これはボクが推理した通りの事件。

 立派な仲間外しのいじめ事件だ。

 

 たけど、いじめ問題というものは簡単には解決しないものだ。

 探偵である両親から聞いたこともあるし、ボク自身も経験のあることだから、それはもう痛いほど分かっている。

 もしここで、ボクや花梨さんが先生に訴えても、集団でとぼけられてしまうに違いない。

 学校の先生といえども、事件を解決する専門家ではないのだから、どちらが嘘をついているかなんて見抜けるはずがないんだ。

 ならば、ボクたちはどうするべきか。

 ここは大人しく、体育委員からの説明をボクらが聞き間違えたことにして、やり過ごすべきではないか。

 勝手にボクらが勘違いしていたことにすれば、大事(おおごと)にならずに済むにちがいない。

 今、花梨さんを(ハブ)こうとしている人たちも、ここでボクらが大人しく引き下がればこれ以上のことはしてこないだろう。


 そう……時間が解決してくれる。

 ボクは、そうやって嫌なことから目を背けてきたんだ。



――それでうまくいっていたんだ――



「んん!?」


 ボクが一人で考え事をしているうちに、すぐそばにいたはずの花梨さんの姿が消えていた。

 見ると、彼女はすでに猫目の体育委員の間近まで迫っていたんだ。


エピソード『春の嵐』は、次回完結予定です。

どうぞお楽しみに!

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