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姉×萌え×ショタ ~才色兼備な姉の弱点はボクなんです~  作者: とら猫の尻尾
第二章 鮫島花梨AAは女を磨きたい《高校入学編》
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春の嵐(参)

 午後は新体力テストの測定である。

 これは握力や反復横とびなどの体育館で行う種目と、50メートル走やハンドボール投げなどの校庭で測定する種目に分かれている。

 ボクたちF組は、E組との合同で体育館からのスタートとなった。


 二クラスの体育委員男女一名ずつがステージに上がり、向かって左側に男子、右側に女子というふうに分かれて立つ。すると、誰の指示がある訳でもないのに、集団が男子と女子になんとなく分かれていく。

 高校の体育ともなれば中学以上に厳しいのかと思っていたけれど、さすがは星埜守学園。いちいち体育の先生の指示を待つこともなく、準備運動が始まった。


 生徒たちが自主的に活動している間、体育の先生はステージの脇で握力計をいじくっている。上下に黒いウインドブレーカーを着た、二十代後半ぐらいの若い男の先生だ。


「では次に、柔軟体操をしまーす。近くの人とペアを組んでくださーい!」


「あ、今日の測定ではそのペアで記録をとりあってもらうので、なるべく同じクラスの人で組んでくださーい!」


 ボクはE組の体育委員のその言葉を聞いて、違和感を感じていた。

 それはすぐ隣に立つ小柄な女子生徒、鮫嶋花梨さんも同じだったようで……


「あれ?」

「あれれ?」


 ボクと花梨さんは、男子集団と女子集団の境界線、つまり体育館のど真ん中でしきりに首を傾げている。

 そうこうしているうちに、次々にペアが組まれていく。

 そしてとうとう、ボクと花梨さんはぽつんと取り残されてしまったのだ。


 E組の生徒たちからは『あの二人どうした?』という感じの視線が向けられる。その一方で、F組の生徒たちはまったく無関心のようだ。


「おっかしいよね。あの子、身長と体格が同じ人でペアを組まないといけないって言ってたんだけど……ねえ、ショタ君も聞いてたよね?」


 花梨さんの言う〝あの子〟とは猫目の体育委員の女の子のこと。その彼女は早々にステージを下り、いつも一緒にいるグループの一人と柔軟体操を始めている。


「どうして、どうして、どうしてこうなっちゃったのかなぁー、ねえショタ君! 背丈が同じくらいの人同士で組まなくちゃいけないんじゃなかったの? カリンだけ、どうして男の子のショタ君と組まなくちゃいけないわけ? 説明してよー!」


「う……なんか、ごめん……」


 花梨さんは手足をバタバタさせて、ボクに迫ってくる。ボクは反射的に謝ってしまったけれど、これって理不尽な話しだよね? 


「イケメンの男の子とだったら喜んでペアを組むけどさー、ショタ君とじゃさー」


「ううっ、ほんとごめん……」


 本当に理不尽な話しだ。

 でも、ボクの学校生活ではこういうの日常茶飯事であり、珍しいことではない。

 良くも悪くも目立っていたボクの小中学校時代は、クラス替えのたびに少しずつ人が離れていき、最後にはいつも独りぼっちになっていた。

 どうしてそうなるのかは分からないけれど、その原因がボク自身にあることは確かなんだ。


 だからきっと、今回もボクが原因。

 ボクは花梨さんに迷惑をかけてしまったんだ。


「どうしたのショタ君? お腹が痛くなっちゃった?」


 花梨さんの声で意識が現実に戻った。

 ボクはほぼ無自覚に、腕をお腹の前で抱えるようにして、背中を丸めていたらしい。


「大丈夫だよ花梨さん……ボクは今、生きるということの無情さを感じていただけだから……」


「えっ、全然大丈夫じゃないじゃん、あんたマジ大丈夫? その若さでこの世の悲憤慷慨(ひふんこうがい)を悟っちゃったの?」


 くりっとした大きな目を開けてボクの顔を覗き込んでいた彼女は、顔の前で手をわたわたと大ぶりなアクションを加えている。その様子がとてもコミカルで、ボクの沈んでいた気持ちがフッと軽くなった。

 

「うん、本当に大丈夫だから!」


「そっか。ならいいけど、具合が悪いのなら保健室に連れて行ってあげてもいいのよ?」


「あっ……」 


 その手があったか! このどうしようもない状況から脱出する唯一の方法がそれだったとしたら、ボクは最初で最後のチャンスを逃してしまったことになる。


 けれど、花梨さんの肩越しに、ニヤリと笑う猫目の女の子を見つけたとき、そんな後悔は吹き飛んでしまった。



 これ、違うぞ……



 F組の女子集団は、ボクらに無関心でこちらを見ていないんじゃない。わざと視線を外しているんだ。



 ハブられそうになっているのは、ボクではなく花梨さんの方なんだ。



 たしかに花梨さんは高校入学早々に、あまりにも目立ち過ぎていた。

 イケメンの男子生徒に手当たり次第に声をかけて回ったり、初対面の人にいきなり上から目線で命令したり。

 彼女の空気の読めなさは常軌を逸していた。


 だから、F組はそんな花梨さんを外そうとしているんだ。


 もちろん、そのついでにボクも外されそうになっているのかもしれない。

 でも、眉根を下げた顔でチラチラとこちらを見てくる体育委員の男子の様子からして、今回の件は彼が主導者ではないような気がする。


 どうしよう。


 今なら、まだやり直せるかもしれない。

 花梨さんに背を向けて、男子集団に入っていけば、やり直せるかもしれない。

 人数が足りなければ三人組を作れば良いだけの話じゃないか。


 視線を泳がせているうちに、猫目の女の子と目が合ってしまった。

 彼女は、まるでボクの思考を読んでいるぞと言わんばかりに、口の端を歪めてニヤリと笑っている。


 ああ。そうだよ。

 その通りだよ。


 ボクは、本当に情けなくて、弱い人間なんだ。

 だからこそ、強い男になるために、この高校を選んだというのに――

 姉を守れるぐらいに、強い男になろうと心に決めたのに――


 ほら。

 優柔不断で情けないボクは、こんな時に――〝彼女〟に笑いかけるんだ。


 

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