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姉×萌え×ショタ ~才色兼備な姉の弱点はボクなんです~  作者: とら猫の尻尾
第二章 鮫島花梨AAは女を磨きたい《高校入学編》
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春の嵐(壱)

 星埜守学園高校に入学してから二週間が過ぎていた。その間、とくに大きな波乱もなく、入学初日を除いてボクの高校生活は意外なほどに順風満帆な出だしと言ってもいいくらいだった。

 星埜守高校は教室のある古い校舎と、新しく作られたお洒落な外観の建物が丘の上の敷地内に隣接している。  

 正門から長い坂を上って最初に見える白亜の建物は、大きなガラス張りの図書館とカフェテリア風の学生食堂があるお洒落な方の建物だ。

 午前の授業が終わると、50分間の昼休憩となる。チャイムと同時に多くの生徒たちが、売店と学生食堂のあるお洒落な建物へ向かって一斉に移動するのだから、廊下は人でごった返すわけだ。


 ――ところで、そんな状況に巻き込まれない唯一の方法があるのだけれど、知りたい人はいるかな?

 ふふっ……それはね、お弁当を持ってきて教室で食べることなんだよ。 




「ショタ君、また独り言が口に出てるよ?」

「えっ、ほんとに!?」




 これは最近になって気づいたことなんだけれど、どうやらボクには頭の中で考えていることを独り言のようにしゃべってしまう(くせ)があるみたい。 

 それを今、向かい合わせになってお弁当を食べている花梨さんに言われて、ボクは慌てて口をふさいだ。


「男なんて、この世界には腐るほど存在するはずなのに、カリンにふさわしい相手となると、ほんとに少ないのね。ショタ君には分かるかなぁー、このカリンの苦労が……」


 花梨さんはため息を吐いてから、イチゴ牛乳をちうーっと吸った。




 あー、そうそう。ボクは延々と続く花梨さんのグチから現実逃避している真っ最中だったんだ。




星埜守高校(ここ)に来たら、頭が良くて将来性のあるイケメン君の一人や二人は、あっという間に見つけられると思ったんだけど、はあーっ、この世界はとんでもなく間違えているの! 分かる?」


 イチゴ牛乳のパックごと拳をバンッと叩き付ける花梨さん。

 ストローからピュッと中身が飛び出して、ボクの机の上が汚れた。


 たぶんそれ、間違っているのは世界じゃなくてキミの方だよ――なんて言える雰囲気ではないから、ボクはポケットティッシュを取り出して無言で拭く。


 1年F組の教室には、黒板のある前の方に女子の集団六人が楽しそうにお弁当を広げているんだけれど、花梨さんは一切声をかけられることはないし、自分から入ろうともしない。

 男子は、後ろのドア付近にアニメやゲームの話をぼそぼそとしゃべっている三人組がいるのだけれど、そこに割り込んでいける自信がボクにはない。 


 そんな花梨さんとボクは、最初は黒板に向いてそれぞれが食べていたのだけれど、すぐ斜め前にいる花梨さんの哀愁漂う背中を見ているうちに、いたたまれなくなったボクが彼女に声をかけたのだ。




 その結果がこれ。




「べ、べつにカリンは一人で食べることに、なんの抵抗もないのだれど、可哀想なショタ君のために一緒にたべてあげるわよ! か、勘違いしないでよ、これは慈善事業みたいなもんなんだからっ」


 こんな感じで刺々(とげとげ)しかった花梨さんも、弁当箱の体積の半分を占領しているほどの大っきなエビフライをパクッとくわえたとたんに、『にまっ』と笑った。


 小柄なボクと同じぐらいの彼女には、ちょっと不釣り合いなほどに大きな弁当箱の中身は、数の子やアワビなどの高級食材がふんだんに使われている。

 喜多さんが腕によりをかけて作ってくれたボクのお弁当に匹敵するぐらい、花梨さんのお弁当も気合いが入っている。

 

 この二週間、ボクらは放課後に生徒会執行部の人たちとの会議に参加したり、部活動の見学にいったりと、なにかと一緒に行動することが多かった。それなのに、ボクはまだ、彼女のことを何も知らない。


 彼女が意外にも食いしん坊であることは分かった。

 そんな彼女は、いったいどこに住んでいるのか、どんな暮らしをしているのか。

 なぜ『いい男』を執拗に求めているのか。


 知りたいことは沢山あるのに、何一つ聞き出せないまま、二週間が過ぎていた。

 探偵一家の長男として、情けないの一言に尽きるよね。


「はあーっ」

「ショタ君、ため息を吐くと幸せが逃げるんだよ? ばあやが言ってた!」

「あっ……」


 高級食材をふんだんに使用したお弁当、そして『婆や』の存在……

 ボクの推理に間違いがなければ、彼女の家はお金持ちなんだ!


 小さくガッツポーズをするボクを、花梨さんは不思議そうに見ている。

 もぐもぐと口を動かしながら、少し首を傾げている彼女は、普通の可愛らしい女の子だ。





 そんな風に油断したボクがいけなかったんだ。今度は自分の順番といわんばかりに、延々と彼女のグチを聞く羽目になってしまったのだから――



 


 


 

 

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