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姉×萌え×ショタ ~才色兼備な姉の弱点はボクなんです~  作者: とら猫の尻尾
第一章 才色兼備な姉の弱点はボクなんです《高校受験編》
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喜多の引退宣言(前編)

「私、家政婦の喜多(きた)は本日をもって引退致します。お二人の健全な成長のためとはいえ、これまでの数々の無礼をお詫び致します。お元気で、さようなら――」


「は、はいーっ!?」


 朝、いつものようにリビングダイニングへ降りていくと、いきなり喜多が引退宣言をしてきたのだ。


「ちょっ、ま、待ちなさい! 突然の引退だなんて、一体どうしたの? ……はっ! もしかして私のファーストキスを奪った責任を感じて!?」


「お嬢様のファーストキス…… あー、そういうこともありましたねー」


 喜多はボーッと遠い目をして答えた。


「え、違うの? ――というか、あんなに衝撃的な出来事を、まるで遠い過去の話のように言われると、軽くショックなんだけど!」

「私はお嬢様が口づけを未経験だったことに軽くショックを感じていますが」

「はっ!? そ、そこ? そこを突いてくるの? ……そんなこと言ったって、私は(しょう)ちゃん一筋だし、(しょう)ちゃん以外に好きな人はいないし、でもでも(しょう)ちゃんは弟だし……」


 そこまで言いかけて、思わず言葉を飲み込んだ。

 喜多のつり上がり気味の目が見開かれていることに気付いたからである。


「えっ……私、何か変なこと言ったかしら?」

「ええ、お嬢様がその様なまともな貞操観念をお持ちであることに、この元・家政婦の喜多(きた)は驚きを隠せません」


「はあーっ!? そこ? 今度はそこなの? ねえ、喜多は私のことをどういう人間だと思っていたの? 私がそんなに貞操観念が欠如した女に見えていたというのかな?」


 喜多のつり上がり気味の目が更に見開かれた。

 おまけに今度は口が半開きになっている。

 

 それを見た私はムッとなる。

 だってそうでしょう?

 これで彼女が私のことをどう思っていたかが分かったのだから。


「いいわ! もうアナタはクビよ! 今すぐこの家を出て行きなさい!」


「いえいえ、私の雇用主はあくまでも旦那様ですので、お嬢様にとやかく言われる覚えはありません。でもまあ、これで気兼ねなく出て行くことができますね」


「ぐぬぬ……」


 私はすぐに後悔した。

 一時の感情にまかせて、喜多にクビだなんて言ってしまったことを。

 私は喜多の腕をガッと掴んだ。

   

「い、今のは無しだからっ!」

「は?」

「だーかーらー、……つぅーッ、分かったわ、ごめんなさい! 謝るから辞めるなんて言わないでぇー」

「お嬢様……?」


 彼女の顔を直視できない私は、俯いたまま、思いつく限りの謝罪を口にする。


「きっと……あれでしょ? (しょう)ちゃんを守るためとはいえ、結構きわどい犯罪ギリギリの行為を命じたことを怒っているのよね」

「あー、確かに。建造物不法侵入に器物破損の数々、そして未成年者略取ですからねー。あれ、ギリギリどころか完全に犯罪ですよねー」


「えっ、完全犯罪? ……な、なんか格好いいかも」

「それではことばの意味が全く異なりますけど、まあ、それでもいいです。忍びは時代の暗闇に潜む存在。ゆえに、そのような命令など私にとっては赤子の手をひねるように容易(たやす)いことなのです」


 喜多は私の予想を完全否定した。

 ならば……私は彼女に何を謝ればいいのか……


「はっ! もも、も、もしかして、私が(しょう)ちゃんとラブラブだから!? アナタはそれが気に入らなくて? で、でも、そのことに関しては謝る訳にはいかないの!」

「はあーっ、私はどこからツッコんでいけば良いのでしょうか」

「くっ――、な、何を言われても私は屈しないわ!」

「お二人が仲良くされているご様子は、私は微笑ましく感じていますよ? ただ、少々度が過ぎることはございますが……」

「いいえ、私と(しょう)ちゃんに限って、度が過ぎるなんてことはないわ! いつかは姉弟の壁を突き破り、私たちは結ばれるの……んふ」


「……(かえで)お嬢様なら、本当にやりかねないことに、元・家政婦の喜多は驚愕するのですよ」


 喜多は嘆息し、ジト目を向けてきたけれど。


「やりかねない? それは違うわ。やるのよ! 夢見沢(かえで)の本気を甘く見ないで! 私はこの日本の法律を変える女になってみせるんだからぁー!」


「はいはい、頑張ってくださーい」


 喜多は手をぱちぱち叩きながら棒読み口調でそう言った。

 彼女は知らないのだ。その日のために私がどれほどの努力を積み重ねているのかを。


「はいはい、そんなお嬢様に朗報でーす。私、家政婦の喜多(きた)は本日をもって引退致しまーす。壁が一つ無くなる訳ですからちょうど良かったですねー」


 ……話が振り出しに戻ってしまった。

 それどころか、事態は悪化してしまったかもしれない。

 喜多の態度はますます硬化していく一方であった。


 そんなとき、私の目の前に白馬に乗った王子さまが颯爽(さっそう)()けつけてくれたのだ。



「えっ……、喜多さんが辞めちゃうの?」


 パジャマ姿の(しょう)ちゃんが、ウサギの抱き枕を抱えて、ドアの前に立っていたのだ。

  


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