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ボクらが目指すゴールはそこじゃない

 先生の不敵な微笑みとそれに応じる生徒の姿を見たとき、ふと工藤先輩から聞いた嫌な話題が頭をよぎった。

 このクラスにも風紀委員に属している生徒はいる。それ以外にも先生が根回ししている反対派がいるかもしれない。


 けれど、今回の投票は自分が参加するかどうかではなく、七夕イベントに賛同するかどうかの投票なわけで…… 

 過半数をとるのもそんなに難しくはないだろう。


 でも。

 ボクらが目指すゴールはそこじゃない。

 

 黒板の前に立って皆の顔を見回すと、明らかに昨日とは違って興味をもって聞いてくれようとしている仲間がいる。

 昨日の放課後に、ボクらが根回しした女子達と、その女子達から話を聞いたであろう人達だ。


「花梨さん。ゼッタイに全員の賛成を勝ち取ろう!」


 耳打ちすると、花梨さんはコクリと頷いた。 

 ゆっくり深呼吸をし、ボクは正面を見据える。


「えっと、今日は放課後の貴重な時間をくれてありがとうございます!」


 皆に向かってペコリと頭を下げると、その動きに合わせるように花梨さんもペコリと頭を傾ける。

 空気を読まない花梨さんにとって、これはすごい進歩だ。


 ボクが顔を上げると、皆は一瞬にして教室がぽかぽか太陽の下に飛び出したような錯覚を引き起こす。向日葵(ひまわり)のようなボクの笑顔が皆のハートを直撃するんだ。

 なぜか花梨さんは腕を組んでシラッとした顔をしているので、対比効果によりボクの笑顔がより一層引き立っている。

 これも計算の内なのだとしたら、花梨さんは天才少女なのかもしれない。


「あのね……実はボク、皆に謝らなくちゃいけないことがあるんです……」

 

 そう言いながら胸の前で指を合わせる仕草をすると、一瞬にして教室中が静まりかえる。


「この学校の生徒会長の夢見沢(かえで)はボクの姉なんです! 今まで黙っていてごめんなさい!」


 深々と頭を下げる。

 案の定、何を今さらという反応がざわめきとなって返ってくる。


「ボクは思い上がっていたんです。姉の力なんか借りなくても、自分の力だけでやれるって……。でも、それじゃいけないって最初に教えてくれたが星埜守先生でしたね。先生! あの時は本当にありがとうございました!」


 『え!?』という感じで皆の視線が先生に集中する。

 先生は戸惑いを隠せない。


「初めての日の自己紹介のとき、早々にボクの正体を暴いて下さったのはそういうことだったんですよね? ボクのような凡人は、どう足掻(あが)いても姉と同じ所に立てるはずがなかった。最近になって、ようやくそのことを理解できました!」


 ボクが満面の笑みで笑いかけると、先生はハッとした表情になってから口の端をニヤリと上げた。


「あなたもようやく身の程というものを理解できたようね。そうです。力の無いものは――」

「一人だけでは何も成し遂げられない――ですよね?」


 先生の言葉を遮り、ボクはやや語気を強めて言い放つ。

 先生は口を半開きのまま固まっている。


「それに気付かせてくれた人がいます。ボクの親友、鮫島花梨さんです!」

「うぇ!? わ、わたし!?」


 ざわつき始める生徒たち。

 突然名前を出された花梨さんも、自分のことを『私』と言ってしまうほどに戸惑っている。


「はんっ、親友ですって? 笑わせないでよ。あー、やだやだ。あなたたち高校生は、本当に青臭いわ……」.


 先生はわざとらしく鼻をつまんで、もう一方の手のひらを顔の前でパタパタさせている。こういう仕草をしている時の先生は生き生きとしている。


「あ、青臭い……ですか?」

「そう。青臭いのよ。そもそも男女の友情なんてものは……」

「…………」

「友情なんてものは……」

「……なんだっていうんです?」


 先生が途中で言い淀んだので、ボクはその後に続く言葉を催促した。……というか、ボクは少しむかついていた。

 いつもだったら呼吸をするようにボクに対して悪口を言ってくるのに、なぜこのタイミングで止まってしまうのか。


 隣から腕をグイッと引っ張られたので、少しムッとした顔を花梨さんに向けた。

 見ると彼女は頭上の時計を指差している。

 そこでようやくハッと我に返った。

 これは、ボクらにプレゼンのための時間を5分間与えた風を装いながら、時間切れに持ち込むという先生のいつも通りの嫌がらせだったんだ。



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