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別れ

 カイの風邪は軽い物だったのですぐに治り、三人は再びプロデスト共和国へと向かって進み始めた。

 途中、何度か魔物に襲われたが、大トカゲほど厄介な敵は現れず簡単に撃退できた。

 しかし、出現する魔物は弱いわけではないので、剣や弓の腕を向上させるには丁度良く、主にカイは剣の、エレグは弓の、コルムは魔法のキレが増した。

 連携も上手くなっている。

 まず、コルムが砂を巻き上げて魔物の視界を奪い、エレグが弓矢で攻撃して動きを鈍らせ、カイがトドメをさすという一連の流れを自然に取れるようになっていた。

 そのため、プロデスト共和国へと近づく行くにつれて進行速度は増し、三人が当初予想していたよりも数日早く、プロデスト共和国の港町、アプトックへと入る事ができた。

「ようやくここまで来たな」

 エレグが感慨深く言う。

「ああ、お前らとの旅ももうすぐ終わりだな」

 コルムの言う通り、この町から首都アブリスまでは一日かからないほどの距離しかない。

 もうすぐ三人での旅が終わると改めて考えると、やはり少々寂しい気がした。

「帰りは一緒には帰れないのか? 俺達が姉さんを探し出す頃には君も用事を済ませていそうなものだけれど…」

 カイがコルムにそう問いかける。

 彼は当初コルムと話す際はやや畏まった話し方をしていたが、ここに来るまでの間ですっかり打ち解けて、今は砕けた話し方をしている。

「いや、俺の用事はこの国にいる領事のサポートだ。どうしても、かなり長期間の滞在になるだろう」

「そうか、じゃあ本当にアブリスまでで三人での旅は……」

 エレグの言葉を遮るように、

「今日はここで宿泊していかないか? 姉さんは国にいた頃も頻繁に旅に出ていたが、一度腰を降ろしたところには長期間滞在する。噂が立ってからまだそれほど経っていないから今日明日でいなくなることはないだろうし、そこまで急ぐ必要もないだろう」

 と、カイが言った。

 二人は彼の提案に同意したのでこの日はアプトックで宿泊する事になった。

 その後は三人ともずっと宿におり、そこでたわいのない話をするなどして過ごし、しばらくすると夕食となった。

 その夕食中、エレグが

「しかし、コルムが抜けるとなるとどうやって魔物に対処するかな。魔法で敵の視界を奪うってのが起点になっていたわけだしな」

 と、直近の問題を切りだした。

 実際、この一行の中ではコルムが最も強いので、それが抜けるとなるといささか不安にもなるだろう。

「いや、しかしカイの姉はちょっと考えられないくらい強いんだろう。それが味方につくならば、アブリスからオヅロッグまでの間だけの問題じゃないか? そんなに気にする事もないだろう」

 コルムは一呼吸置いた後、重ねて

「それに、俺もお前らもリペリアンを出た時と比べたら確実に強くなっている。俺の土魔法がなくても対処は充分可能なはずだ」

 と、言った。

「と、なるとエレグが弓で敵を鈍らせて俺が剣で突撃という事になるんだろうか。俺は動きが鈍ったところに突撃するわけだから今までとあまり変わらないが、砂の目潰しがなくなる分エレグが少し大変になるな」

「以前のエレグならば数撃って倒していただろうが、今のエレグは敵の動きを先読みしつつ狙った箇所に矢を打ち込む事ができる。敵の関節に打ち込んで動きを止める事くらい余裕じゃないか? ただ、矢が通らない敵も出て来ているからそこは注意する必要があるだろう」

 と、コルムの気の回し方は未だ変わらない。

 むしろ、アドバイスを付加するようになっていたのでこういったところも成長していたのかもしれない。

(本当にいい仲間だった)

 カイはここまでの旅を振り返りながらそう思った。


 翌日、朝早く三人はアプトックを出立した。

 彼らの進行速度ならば夕暮れ頃には着くだろう。

 しかし、途中で魔物が出てくる訳ではなかったにも関わらず、アブリスには予定よりもやや遅めの到着になった。

 ここからオヅロッグへと向かうには数日かかるため、今日はここで泊まっておいた方がいいだろう。

「どうやら、まだ別れには早いらしいな」

 とコルムはそう言い、領事の屋敷へ自分が到着した事を告げには行かず、この日もカイ達と共に宿に泊まった。

 彼のために用意されたという屋敷があるという事だったが、そちらには何も家財道具が運び込まれていない上に、かなり狭いらしく二人を呼ぶことができないため、あえてそちらに泊まる事にしている。

 その日の夜、コルムは自室に二人を呼び、カイには自身の剣を、エレグには自身の長弓を渡した。

「しばらくは俺は使わないからお前らが持っていた方がいいだろう。ただ、使い慣れているものの方がいいだろうから無理に使おうとせず予備としてでも使ってくれ」

 との事である。

 エレグの弓はそこまで劣化している訳ではなく、馬上ではやや取り回しが悪い長弓なので本当に予備になってしまうだろうが、カイの剣は既に切っ先が折れており、刃こぼれも酷かったので丁度いいタイミングであった。

「君は弓と魔法しか使っていない印象だったのに、俺の剣よりもいい剣を持っていたんだな。ありがとう」

「確かに落馬して折れる事もあるからいくつかあった方がいいかもな。使うかどうかは分からないがありがたく貰っておく」

 と、二人は彼に礼を言う。

「これで俺がお前らにしてやれる事は最後になるだろう。ただ、俺はこれからも常にお前らの旅の無事を祈っている事を忘れないでくれ。元気でな」

 コルムは笑顔で二人にそう言った。


 翌朝、カイとエレグがコルムの宿泊していた部屋に行くと、彼は既にいなかった。

 そこに置いてあった手紙によると、見送りをすると自分もついて行きたくなるだろうから、もう領事の元に行くと書いてある。

 その手紙をしまって、受付のところへと向かうと既に宿代が支払ってあった。

「彼に礼を言ってから行かないか?」

 カイはそう言ったが、

「いや、これはおそらく奴の心遣いの一つだろう。奴の手紙にはついて行きたくなるかもしれないと書かれていたが、どちらかと言えば俺達が名残惜しさにここに留まらないようにするために自ら去っていったような気がしてならない」

 とエレグが言ったので、カイが元々使っていた剣を鉄くず屋に売り払うと、そのままアブリスを後にする事にした。

 その後、数日間二人きりで旅をする事になり、時には魔物に襲われる事もあったが普通に撃退する事が出来た。

 ただ、エレグの矢の消費本数が多くなったり、敵の動きを止め切らないうちにカイが切り込む事も多くなったので改めてコルムの有り難みを感じる事となった。

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