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祖国へ

 ラヴィスヴィーパ王国に入ってきっちり一週間で再出航の準備は整った。

 カイとエレグは一週間ずっとアトモ・フィリオにいたので遅れるという事はなかったが、残りの二人も遅れる事なく何処からともなく集まって来た。

 それどころか、元々アトモ・フィリオにいた二人よりも女二人の方が先に乗船しているまである。

 ただ、しばらく会わない内に、サヨからは以前とはまた違う危険な雰囲気が漂うようになっており、サンドラはいつもの男装ではなく何故か女王然とした格好をしていた。

「お前ら一体何処行ってたんだ? それに何か二人とも変じゃねぇか?」

 と、エレグが二人へと言った。

「即効性のある薬草を採取して来たんですよ、ついでに人助けもしました。……そう言えばその時使った狼の気配を解くのを忘れていましたね」

 そう言うとサヨが纏っていた危険な雰囲気は消えたが、

「男装は町での男絡みのトラブルを避ける為のものだ。今日で離れるのであればこの格好でも問題なかろう」

 と、サンドラはその動き難そうな格好をしばらく続けるつもりらしかった。

 この格好にも、どれだけハロルドが流言飛語を飛ばしてくれているのかを確認するという意図があったが、動き難い衣装など彼女の好むところではないのでラヴィスヴィーパを離れてしばらくしたら着替えるつもりである。

 が、実際に出航するとなったら港には彼女が美人であるという噂に釣られて集まって来る者が多かった。

 一応、ガル国との戦いの際に強大な魔法使いを撃退しているという実績があるので、彼女に期待を寄せる者も多く集まっていたが、魔王を倒しに行くというでっち上げた仮初めの善意よりも、美貌見たさに集まって来た者の方がそれ以上に多いのである。

(まぁ、印象が向上したのであれば結果的に同じ事だが、まさか顔貌の良し悪しというのがここまで影響力があるとは考えた事も無かったな。たかが眼や鼻の位置や形の違いではないかとしか思っていなかった)

 今後何かに使えそうだ、と彼女は新たな可能性を感じたが、同時に美しさを売りにするだけで良いと分かった以上何だか詐謀をするのが馬鹿らしくなってきた。

「手でも振ってやったらどうだ? 悪評を払拭するいい機会かもしれないぜ」

 と、彼女の考えを知ってか知らずか、エレグがからかい気味に彼女へと言う。

「味方からも悪評などと言われるようでは、私の評判は相当悪いらしいな」

 そう苦笑しながらサンドラは甲板の上から手を振った。

 海上に出るとサンドラは

「やはり、動き難いな」

 と言っていつもの服に着替えるために船内に入って行ったので、彼女が戻って来た後四人は何処から島へ入るかの相談をした。

「俺がラヴィスヴィーパに向かい始めた時には既に水の国は突破されていたし、黄金の国から入るしかないだろうな。兵の国は海に面していないし、そもそも既に魔物の手に落ちている可能性が高い」

 と、カイが言う。

 兵の国や黄金の国の近況を事細かく知っているのはこの中では彼しかいない。

「黄金の国が敵の手に落ちていないとも限らないぞ」

 エレグも実際に見た訳ではないが一端を聞いていたのでそう答えた。

「とはいえ、水の国は落ちた事が確定しているんですから、やはり黄金の国に向かう方がいいのでは? 確かにそっちから上陸すれば意表は突けるでしょうけど、多分それだけですよ」

 サヨがそう言うと、

「それなら航路の変更は不要だな。ただ、船長曰く、黄金の国が既に魔物に乗っ取られていて、そいつらが沿岸を固めていた場合はそのまま魔の国に直行したいとの事だった。一応頭の片隅にでも留めておいてくれ」

 とサンドラが話をまとめ、四人は各々の部屋に戻って行った。


 ラヴィスヴィーパを後にして二十日と少し経った頃、四人を乗せた船は黄金の国近くの海域へと入った。

 ここに来るまでの魔物はそこまで強力な個体は出て来なかったので、カイとエレグが同乗していた船員達と協力して全て倒している。

 サンドラは元々戦いの際には前線に出て士気の向上を図るタイプの王だったので今回もそうしようとしたが、船長から

「貴女の戦いを見慣れていない船員達は逆に萎縮してしまう可能性があります」

 と言われたため戦いには参加せず、サヨも船員達の治療に徹しているため戦闘には参加していない。

 ともあれ、ここまでは問題なく来る事が出来たが、だからと言って黄金の国も同じように無事かは分からない。

「エレグ、沿岸に魔物はいるか?」

 と、カイが見張り台にいるエレグへと問い掛ける。

 見張り役は別にいたが、今回に限っては船内にいた人間の中ではずば抜けて視力が良かった彼が見張り役を担っている。

 エレグは

「いや、まばらだが人が見える。黄金の国はまだ無事なのかもしれん」

 と言った後、シュラウドを降りて来た。

 降りて来たという事は魔物や海賊の類もいなかったという事だろう。

 事実、その後は何の問題もなく黄金の国の港に入港する事が出来た。

 出航した際よりも船がでかくなっている事や、船員が変わっている事などを説明するために、一行は入港早々領主の館へと呼ばれることになった。

 そこには黄金の国領主ヨシナリ・フジタの他に、兵の国領主ケンゾウもいた。水の国領主ヘイザブロウ・ヒョウドウもいるとの事だったが、体調を崩して床に伏せっているとの事である。

 カイは二人に仲間を紹介し、これまでの経緯を説明すると、

「現在の三国の状況を教えて頂けますか?」

 と言った。

「ああ、実はお前が出航した後に……」

 ケンゾウはここ数ヶ月の間に起こった事を一通り話してくれた。

 カイが出航してから数ヶ月間は持ちこたえていたものの結局兵の国は突破されてしまった事。その後すぐに黄金の国を対魔物の本拠地とし、三国の人間の生き残りが一丸となって魔物への抗戦を始めたが徐々に押され始めていた事。黄金の国も一時は壊滅寸前までに追い込まれたが、突如兵の国に駐屯していた魔物のリーダー格が変わって途端に侵攻も無くなった事。

 それを聞き終わると、

「そのリーダー格の魔物凄まじく強いですよ。兵の国から数十里は離れているここでもその気配を感じる事が出来ます」

 と、サヨが言った。

 彼女は撃退した相手の成長を期待して長所を褒め称えつつアドバイスを入れると言うような事はしょっちゅうしており、それはケンゾウも知るところだが、今回のこれはそれとは意味合いが違うのは彼にも分かった。

「凄まじく強いとは正確には如何程だ? お前よりも強いのか?」

 と、彼は少し不安になりながら彼女に尋ねる。

「分かりませんよ。ただ、決闘に用いる力を使わなければ確実に負けるでしょうね」

 そう彼女は答えた。

 普段よく使っている護身用の戦い方でも一人で百人以上を相手にできる力があり、軍隊や強力な魔物相手に使っている戦争用の戦い方にはそれ以上の力があるが、それでは勝てないと言うのである。

「とにかく、決闘用の力は周りを巻き込むどころか、周辺の地形も変えかねないので兵の国には私一人で行きます。カイ君達と皆さんはその間水の国の奪還の方を進めておいてください」

 サヨはそう言うと一人で兵の国へと向かって行った。

 こう言われてしまっては彼女に頼る他ないが、一方で水の国奪還に彼女を使う事が出来なくなってしまった。そちらにも兵の国とはまた別のリーダー格の魔物がおり、千体近い数の魔物を従えているため一筋縄ではいかないのである。

「以前は同時に二箇所にはいられないという姫の弱点を幾度となくついたものですが、まさかここに来てそれがこちらを苦しめる事になるとは思いもよりませんでした」

 ヨシナリが溜息をつきながら言うが、

「何も一騎当千はサヨだけではありませんよ。私の魔法と、カイの英雄の力、数々の魔物を仕留めて来たエレグの弓があります。我々が見事水の国を奪還してご覧に入れましょう」

 と、サンドラが自信ありげに言った。

 一応、一国の女王であったため彼女の名も遠く離れたこの国に聞こえてはいるが、功績よりも胡散臭い話の方が多かったため、ケンゾウとヨシナリは疑心暗鬼であった。

 何より、協力するという姿勢を見せておきながら連れて来たのが船員数十名だけだという状況が彼女の胡散臭さに拍車をかけている。

「ガル国との戦いで貴女が最強と名高い魔法使いを撃退した事は聞き及んでおりますが、それは、難攻不落と言われていた城や、軍があってこそのもののはずでございます。いくら貴女がいるとはいえ流石に三人だけで一国を奪還する事は無理でしょう」

 ケンゾウがそう言うと、

「私もその魔法使いの端くれです。私の魔法はあらゆるものを呼び寄せる事が出来ます」

 と、サンドラは答え、カストゥルム国の城内にある食料庫から大量の兵糧を呼び寄せた。

 さらに重ねて、

「今は軍勢を呼ぶ意味がございませんので食料を呼び寄せましたが、軍を呼ぶ事や、我が国の城を呼ぶことなど造作もありません。国を奪還できるというのもあながち嘘ではないと信じて貰えましたでしょうか」

 と言ったが、カストゥルム国内で彼女は、軍を率いて戦ったのであれば勝って当然くらいに思われているので、自身の印象を向上させるためにも兵を召喚する気などサラサラ無い。

 あくまで三人だけで全て倒すつもりであった。

 ただ、召喚された大量の食料を見た二人は

(軍勢を船旅の危険に晒さないためにわざと連れて来なかったのかもしれない)

 と、認識を改め始めていた。

 さらに、今召喚されたものは今のこの国にとって最も必要な物である上に、先程のカイの説明には兵の国や水の国を救ってから魔の国に入る事を提案したのは彼女であるという事が含まれていたので、彼女の事を

(本当はいい人間なのでは?)

 とまで思い始めている。

 結局、ヨシナリは

「分かりました、貴女方に全てお任せいたします。差し支えなければ、国内にいる私の国の兵士を連れて言ってください。何かの力になりましょう」

 と、言ってしまっている。

 サンドラは

「いえ、黄金の国の防衛力をこれ以上減らすわけにはいかないでしょうし、一朝一夕で黄金の国の兵の特性を見極めて指揮を執るというのは至難の技でしょう」

 と断った後、

「では私達も水の国へと向かいます。何かあれば船長に連絡してください。定期的に魔法で彼を呼び出してお聞きいたしますので」

 と、言ってその場を後にした。

 カイとエレグもその後に続いて退出する。

 その後、三人は水の国に向かう事になったがその際、

「何が一騎当千だ。王家の剣があるカイと魔法があるお前はともかく、俺は弓と馬だけが取り柄の一介の騎兵に過ぎないんだぞ」

 と、エレグが文句を言った。

 彼は作法というものに疎いのでヨシナリの館にいる間はずっと黙っていたのだが、ここに来て鬱憤が爆発している。

 カイもサンドラの事だから何か作戦があっての事なのだろうと思って先程は聞き流していたが、どういった考えがあるのか急に気になって

「水の国にいる魔物は千体を超えているらしいが、どうするつもりなんだ?」

 と、尋ねてみた。

 それに対して彼女は

「心配するな。一騎当千の働きをするのは私だけだ」

 と、微笑しながら言った。

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