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リベンジマッチ

 ダライを出て約半月後、一行はダライとアトモ・フィリオの丁度中間地点あたりにある島へと到着した。

 このまま順調に行けばあと十日程でそこに到着するだろう。

 が、その日の夜サヨが、

「明日は止めておいた方がいいかもしれませんよ。結構強い気配を感じます。十中八九魔物でしょうね」

 と、言った。

 彼女には達人が気配を消しているといったケースのような例外を除いて、強い力を持った者を察知する事ができるという特技があり、周囲に遮蔽物が無い絶海の孤島という今のような状況だとその特技を最大限に発揮できる。

 彼女はその能力を使って常に索敵し、何か気になった事があれば逐一報告するようにしていた。

 ただ、彼女は仲間に気を使ってこんな報告をしているものの、正直なところ、できれば出航してその強い気配を持った魔物と戦ってみたいと少し思っている。

「俺はカイの一存に任せるがどうする?」

 サヨの報告を受けてエレグはそう言うが、できればカイには二回も沈没を経験して欲しくないので、どちらかと言えば明日は出航を見送って、サヨが安全だと判断した日に出航して貰いたかった。

「私もどちらでも構わないが、強い魔物に襲われて不必要に修繕費がかかるのはできれば避けたいな」

 と、サンドラも判断をカイに任せた。

 もっとも、彼女にとっては本当にどっちでもよく、仮に魔物に襲われて修理が必要になっても、ラヴィスヴィーパ国王に会いに行ったり、修理期間を使ってアトモ・フィリオ以外のラヴィスヴィーパの都市や、その周辺にあるサヴルム国などに行き視察でもするつもりであった。

 とにかくこれで判断はカイに一任された。

 彼にはその魔物に少し心当たりがある。

(もしかしたら、俺が乗って来た船を沈めたやつかもしれない)

 と、思ったのである。

 だとしたら是非とも船頭たちの仇を討ちたいという気持ちが彼にはあった。

 今なら心強い仲間もいる上に、彼自身も退魔の力を持った王家の剣を持っているため負ける気がしない。

「明日、出航しよう。ダライに来るまでの途中に失った仲間の(かたき)かもしれない」

 カイは以前彼の仲間を壊滅させた巨大烏賊の魔物に対する怒りを心に浮かべながら静かにそう言った。


 翌朝、四人は敵の気配が最も弱くなっている時間帯を狙って出航した。

 魔物は昨晩よりはやや離れたところにいるとの事である。

 ただ、サヨ曰くどの時間帯で出ても、向こうが気づいてこちらに寄って来るはずなので、たぶん鉢合わせる事は避けられないとの事であった。

 しかしカイは、今日はむしろ魔物に出て来てほしい気持ちでいる。

 その雰囲気は周囲に漏れていたのか、

「雰囲気が普段より姉に近くなっているぞ。戦闘狂の弟くん」

 と、彼はサンドラにからかわれた。

「君もそういった事を言うんだな。君の側近の話や、ダライの現状を見てもっと恐ろしい人物だと思っていた」

「どちらも私の女王時代の影響が反映された結果だろう。自分で言うのも何だが今は少し丸くなっているつもりだ」

「本当に? だとしたら、エレグの前でそれを言ってやってくれ。彼は俺の姉と君に恐怖心を抱いている気がする」

「奴は果たして私の言う事を信じるかな?」

 二人が甲板で話していると、突如何かがぶつかるような音がして直後に甲板が揺れた。

 旅続きだったカイとは違い、サンドラはここ数年町の中しか移動していないのでやや体力が衰えている。

 その所為か、振動でややふらついた。

 カイは転倒仕掛けた彼女を支える。

「済まないな」

 と、一言いうと彼女は音の発生源と思われる所へと小走りで向かって行った。

 カイもそれを追って行く。

 音と振動の発生源に到着すると、そこには巨大な烏賊の魔物がいた。

 カイが乗っていた船に積まれていた銛が、魔物の身体の至る所に刺さっていたので、黄金の国の船頭達を殺したものと同一個体であるらしい。

 サヨと、エレグは船内にいるからかまだ出て来ていないので、しばらくは二人で戦うしかないだろう。

「サンドラ、魔法でのサポートをよろしく頼む」

 そう言うとカイは王家の剣を鞘から抜き放つ。

「サポート? 私一人で事足りるのにか?」

 と、サンドラも槍を構えた。


 サンドラは槍を構えはしたもののいきなりそれは振るわず、まずは海中にプランクトンを大量に召喚し、赤潮と同じ状況を作り出した。

 一般的な烏賊と目の前の魔物が同じだとは彼女も思ってはいないが、もしかしたら窒息するのではと思ったのである。

 が、効いていないらしい。

 このままプランクトンを放置してしばらく様子を見てみようとも思ったが、

「環境を変化させるような技はできれば控えてくれ」

 と、カイに指摘されたのですぐに魔法を解除して元の場所に戻した。

 が、水質汚染等を控えるとなると、どうしても攻撃方法が限られてしまう。

 エンペラの上から溶岩をかける等いろいろ試してみたいものだったが、そうした場合液体から固体に変化してしまって魔法を解除しても消す事が出来なくなる上に、近くに魚でもいた場合多数死んでしまうだろう。

 槍も海上を移動する巨大烏賊には基本的には届かないので、専らゲソが甲板に振り下ろされた際にそれを突く時以外は使えない。

 仕方ないので船内にあった大型弩砲を甲板に召喚するとそれを使って攻撃し始めた。

 ただ、それも有効打にはなっていなそうだった。

 カイの方も王家の剣でゲソを攻撃していき、着実にダメージを与えているが、いくら王家の剣であってもゲソの先端にかすり傷をつけたくらいでは退魔の力も通っていかないらしく苦戦を強いられている。

 しばらくしてエレグとサヨが合流し、エレグは長弓で毒矢を放って、サヨは超音速の速さで棒手裏剣を投擲して攻撃するがどちらも一撃必殺にはなり得ない。

「また毒が効かない敵か……しかも今回は地の利は向こうにあるっておまけ付きだな」

「船から離れているってのが厄介ですね。かと言って私は海中では剣をまともに振れませんし、棒手裏剣も少なくなってきました」

 と、合流して早々二人はそんなことを言った。

 今はまだないが、これ以上の長期戦になってしまったら船の下に潜り込まれて転覆させられる危険性もあったためできれば早く倒したい。しかし、このままでは長期戦にならざるを得ないだろう。

 ただ、毒矢、魔法、馬鹿力がさして効かない中、退魔の力は少し効いている。

(やはり、胴体に王家の剣で攻撃を加えるしかないな)

 そう考えたサンドラはゲソの対処を一旦全てサヨに任せて、カイを呼ぶと

「お前を魔物の胴体の目の前に召喚して、一撃斬撃を加えたら魔法を解除して再び甲板に戻すという作戦をとりたいのだができるか?」

 と、彼に尋ねた。

「分かった、やってくれ」

 そうカイは即答したので早速二人はその方法で攻撃をし始めた。

 ヒットアンドアウェイではあったが、流れ込む退魔の力はゲソを攻撃していた時とは比較にならないほど多く、巨大烏賊は急激に弱っていく。

 最終的に魔物は頭に王家の剣の突きを食らって消滅した。

 トドメを刺したカイが、甲板へと戻ってくる。

 海の藻屑と消えてしまった仲間の仇を討った彼の顔はすこぶる晴れやかであった。

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