シロウの正体
「ハァ………ハァ………」
英雄に一撃与えた俺は、一度距離を置く。
至近距離からの龍属性武器による射出だ。あいつが英雄でも、流石にただではすまない筈だ。
「…………」
「フッ、お前もボロボロじゃねぇか」
先程の攻撃による煙が晴れるとそこには、着ていた鎧の殆どが剥がれている英雄の姿があった。
——ここまでしても、まだ正気を取り戻さないとは……。
何とか英雄に意識を取り戻させれば、この戦いはすぐに終わるのだが。
「ま、一度死んだ人だ。意識なんて取り戻す筈ないよな……」
英雄は再び俺に攻撃を仕掛けようとするが、先程とはかなり遅い速度で向かって来る。
片脚の骨が折れているのか、片脚を引きずりながら近付いてくる。
「……解除」
その英雄を見た俺は魔力温存の為に魔力解放を解除する。
そして、剣を床に刺さった一本の剣を抜いて英雄に近づいて行く。
「これで最後だ……!」
お互いに剣を構え、俺は走り出す。それに対して英雄は、どういう原理なのか超低空飛行をして猛スピードで近づいて来る。
「はぁああああ!!」
「…………!!!」
お互いに切れる間合いに入る。
そして、ほぼ同時に剣を振るい刃同士がぶつかる。
英雄は片腕の骨が折れている為か、全身の体重が剣を持っている方の腕にかかっている。
——このチャンスを逃す手はない!
俺は英雄の剣とぶつかっている刃を流し、自然と英雄の体勢を崩させる。
「ここだぁああ!!」
刃を流した勢いを利用し英雄の背後に回り込む。
そして、回転した勢いで英雄の腹を切り裂く。
「……ぁ………ぅぁ……!!」
「…………」
腹を切り裂かれた英雄はフラフラとした足取りで壁際まで移動し、壁を背に向けてゆっくりと倒れる。
それと同時に、俺も膝を着く。
「まだ、やることが残ってるっていうのに……」
体に傷がなくてもダメージは入るし疲労も溜まる。
ここに来て、俺のそれが限界を迎えようとしていた。
「エレナを……助けるんだ……!」
剣を杖にして立ち上がり、塔の階段に向かって歩き出す。
「………ま……て……」
「——!?」
歩き始めてから間もなく背後から声が聞こえた。
今この場にいるのは、俺と倒れた英雄だけ。そして勿論、俺は喋ってはいない。
つまり………、
「……結構……深く切りやがって……」
「……英雄?」
「よせよ、その呼び方は……」
後ろを振り返るとそこには、先程とは違って目に光が灯っている英雄がいた。
一度死んだ人に意識が戻ることはないと思っていたが、まさか自らその考えが否定せざるを得なくなるとはな。
「……お前は……シロウか……」
「……何故俺の名を知っている?」
「何故って、そりゃあ……いや、そういや……お前の記憶は封じてあったな」
「は?」
——俺の記憶が封じてある、だと?
そんなことを言われても、俺自身の記憶はしっかりある。
忘れている記憶なんてものはそもそも……いや、あるにはある。
ずっと、俺の中で霧がかかったものが。
「こっち来い」
「……わかった」
そして俺は、英雄に近づいて行く。
一体、何をする気なんだ。
俺が英雄の元に着くと、英雄は俺の頭を片手で掴む。
「ちょいと痛むが、我慢しろよ」
「何を——!?」
その瞬間、何かが外れる音が聞こえ、かなり痛い頭痛が俺を襲う。
「うっ……が……!」
だが、それと同時に俺の頭の中で様々なことがフラッシュバックする。
『これが、俺達の子供か!』
『そうよ、貴方と私の子供よ』
とある室内の風景と共に、二人の人が見える。
一人は黒髪が特徴の男、もう一人が銀髪が特徴でリアラそっくりの女。
この二人以外に子供がいないことからすると、この二人が言う子供の正体が俺であることはまず間違いない。
ところ変わって、次は辺り一面真っ暗な風景と共にあの黒髪の男と女神様がいる。
『シロウは器だ。もしかしたら、邪龍に狙われるかもしれない』
『だから、別の世界に送れる私に頼むのですか』
『ああ』
『……わかりました。ですが、脳への負担を減らすために記憶を封じさせてもらいます』
『ああ、わかった』
そう言うと、黒髪の男は子供の俺に背を向けて歩き始める。
『さて、英雄としての最後の役目を果たしますか!』
そして、そのまま黒髪の人——英雄が姿を消した。
* * * * * * * * * * * *
「………なるほどな」
俺が邪龍の器であること、俺の頭痛と謎のフラッシュバック、これで全てが繋がった。
「思い……出したか?」
「ああ、全部思い出したよ英雄——いや、父さん」
俺の正体——それは、英雄とその恋人である邪龍の器から産まれた子供だ。
女神様が言っていた元々はこの世界の住民というのはこのことで間違いない。
「何故、大昔の体のままなんだ?」
「簡単だ。女神に別世界に送って貰うように頼んだ時に、送れるのは魂だけって言うからよ。体は女神に成長速度を止めて貰っていた」
だから、俺の体は長い年月を経ったのに腐ってもいなければ十七歳のままなのか。
「それで、どうして大昔に死んだ筈の父さんがここにいる?」
「さあな、俺も気が付いたらこの有様だ」
やはり、あの時の記憶はないようだ。
ま、意識があるなんてことは絶対にないと既に思っていたしな。
「だが、どちらにせよ俺はもう時間が無い」
「…………」
「だから、これをやる」
父さんは自分の胸に手をやると、シルバーやレオンが持っていた俺の力の一部の光が出てくる。
「少し借りていたが、元々はお前の力だ」
「大丈夫なのか?」
「安心しろ、俺の力とお前の力は別物だ。俺はただ借りていただけだ」
「……よくわからないが、取り敢えず大丈夫なんだな」
俺が力の一部を手に取ると、いつもの様に光が体の中に入っていく。
すると、今までにない以上の力が溢れ出てくる。
「これは……!」
「どうやら、力を全て取り戻したようだな」
恐らく、先程までは断片的な力だったが全て揃ったことにより別々ではなく三つの力が合わさった、という所だろう。
「疲労とダメージが無くなってる……?」
「なら、さっさと先に行け」
「ああ!」
完全に全回復した俺は塔の階段に向かう。
「——父さん」
「なんだ?」
「久しぶりの再会がこんな形なのはあれだけど、会えて嬉しかった。ありがとう」
「こちらこそ」
俺はそう言うと、塔の階段を登って行った。
わかってた人いるのかな?




