瞬閃竜の襲撃
俺達がデモービルを出発してから一日が経過した。
所々で休憩しながらタルベスに向かっているが、まだ街は見えない。
だが、地図を見る限り、今日中には到着するだろう。
「それにしても、ここは今までいた所とは違って上り坂が多いですね」
「そりゃ山道だもんな」
今、俺達が進んでいる道は少しだけ整備されている山道だ。勿論、崖には柵はないので、一度バイクの運転を誤って崖に落ちれば助かったとしても戻るのにとてつもなく時間を使うだろう。
「まさか、あの店長の改造にここまで助けられるなんてな」
「衝撃や揺れがないお陰で振り落とされることもありませんしね」
さっきからエレナの声がしないと思いリアラに聞いてみると、どうやらぐっすり眠っているらしい。
呑気な奴だ。
「お、もうすぐ山道も終わるぞ」
「と、言うことは……ついに街に」
「ついてないんだよな〜」
山道を抜けると右手側に滝と川、そして、左手側に森がある道に出た。
先程とは違い、道幅も広く直線の道になっている。
「地図通りなら、この先にタルベスがある」
「なら、そろそろエレナさんを起こしておきますね」
「頼む」
リアラがエレナを起こしている間に、俺はバイクの燃料となる魔力をある程度補給しておく。
補給が終わると、再び動かそうとバイクに乗ろうとする。
「——?」
乗る寸前で空を飛ぶ鳥の様子がおかしいことに気付いた。普段群れで行動する鳥ならまだしも、全ての鳥達が同じ方向へ飛んでいる。
——それはまるで、何かから逃げるように。
途端……。
「ギギャオォォォォォォッッッ!!」
森の方から咆哮のようなものが聞こえてきた。
「なななな何!?」
「あ、エレナさんおはようございます」
「ああ、うん、おはよう……って、そうじゃなくて今のは何!?」
むにゃむにゃだったエレナが飛び起きた。
それと同時に、ドンドンと足音が聞こえる。それに、その足音はこちらに向かって来る。
「……すげぇ嫌な予感がするのは俺だけか?」
「それはないかと思います」
咆哮の聞こえ様からして、結構な距離はある筈だが、足音の音からしてかなり大きいだろう。
「取り敢えず、早くここを離れよう」
「それが一番ですね」
俺はバイクに乗り、急いで発進させる。
発進してから約一分が経過した。俺は運転に集中している為、後方を見ることが出来ないので、後方の様子はリアラとエレナに教えて貰っている。
そして、それからまた数分が経過した。
すると……。
「後方に何か大きな影が物凄い速さで接近中です」
「まさか、さっき咆哮をあげた奴か?」
そして、間もなくその影がハッキリと見える辺りまで接近される。
「あれは……竜……なのかな?」
「あれはまさか……」
二人は姿を確認出来たらしいが、前を向いている俺は姿の確認のしょうがない。だが、竜というからにはかなりヤバい奴だろう。
「シロウさん!もっとスピードを上げてください!」
「どうした急に!?」
「あれは、邪龍の続いて強いと言われている四天竜の内の一匹——瞬閃竜『ファス・ブラド』です!」
「なんだそりゃ!?」
名前からして明らかにヤバい竜だということはわかった。二つ名が付いてるくらいだしな。
「魔物か?」
「魔物と竜はまた違う種族です。知能がない魔物とは違って、竜は知能が高いんです。ファス・ブラドは地上に特化した竜で、後ろ足と前足の筋力が異常発達していて足の速さと飛力がこの世で一番優れている種です」
「リアさん詳しいね」
「私の知識量を舐めないでください」
こんな呑気に会話をしているが、その後方からはドシドシと足音が聞こえてくる。
足の速さと飛力がこの世で一番優れているのなら、全速力で走っていても追いつかれるのも時間の問題。
「エレナ、運転変われるか?」
「えぇ!?」
このバイクは運転手がバイクに流す魔力によって速さが変わるが、既にこのバイクにはある程度俺の魔力を貯めている。魔力量が少ないエレナでも運転さえ出来れば今と同じ速度で走れるだろう。
「魔力をそれに流す。後はバランスを取れば何とかなる」
「……わかった。やってみる!」
エレナはサイドカーで立ち上がり、俺が乗っているバイクの後ろに乗り移る。その後、俺はサイドカーに飛び移り、手が離れたハンドルをエレナが掴む。
「……あれが竜なんてな」
黄色の鱗に人間の数十倍の大きさはある鉤爪。長い尻尾に鋭い牙。どれもまともに受ければ即死、良くても致命傷だ。
「なんか……ティガ〇ックスに似てるな」
あれに青いの模様と少し口を大きくすれば完全にそれだ。走り方なんてまんま同じだしな。
「さてと、取り敢えず足止めしますか。リアラ!」
「なるほど、魔力量の多い私と運転を交代しなかったのはそういうことですか」
「今この状況なら、エレナの攻撃手段は皆無だからな」
エレナの戦闘方法は高速移動をして相手を斬るのだが、今回の場合は行動範囲が限られているのでエレナの高速移動とは相性が悪過ぎる。
「と言っても、俺も剣を射出するくらいしか攻撃手段はないけどな」
「降りて戦うというのは……」
「このバイクの速度より速い相手とまともに戦っても勝算はゼロに近いからな。それに……」
「それに……何ですか?」
「いや、何でもない」
ファス・ブラドは一度立ち止まり、地面にある大きな岩を前足で殴り、その岩を飛ばしてきた。
「やめろォ!それ以上のティ〇レックスと同じ攻撃をするんじゃねぇ!」
飛んできた岩をストックしていた剣で細かく斬りながら言う。
それ以上、そいつの真似をしたら全知全能の神なんて関係なしに謎の強大な力でこの世界が消えてなくなってしまう。
俺が岩を斬ったことを確認すると、再び猛スピードで接近し始めた。
それと同時に、魔力解放スキルを発動させる。
「何とかタルベスに着く前に撃退しないと……」
そんな緊張感の中で、俺達三人による時間制限付きの瞬閃竜撃退戦が開始された。
実はこの竜、シロウ君の不運が呼び寄せたものです。




