ナイトメアヘルの正体
撤退後、私達はまず最初に会ったデモービルの女性住民をを探すことにしました。
「……いませんね」
「一体どこに……?」
あの女性住民が持っていた青い魔石がないと私達がナイトメアヘルにダメージを負わせることが出来ない。
「………ぅ……ぅぁ……」
「シロウさん、また随分と魘されてますね」
「早くどうにかしないと……!」
シロウさんの魘されようが時間が経つにつれて酷くなってきた。
マシになってくる気配がないので、早めに手を打っとかないと手遅れになるかもしれない。
それからしばらく探していると、夜の闇の中に見覚えのある人影が見えた。
——間違いない、あの時の女性住民です……!
「やっと見つけた!」
「………」
「すみません、あの時にもらった青い魔石をまだ持っていませんか?」
「……………」
さっきからずっと話しかけているのに対して、女性住民は無言で下を向いている。
明らかにあの時と何か様子がおかしい。
「……クククククククク!」
しばらく様子を見ると、突然笑い始めた。
「……何がおかしいんですか?」
「ん?あぁ、君達か。まだ起きていたのか」
「……どういうこと?」
私たちに気付き、こちらに振り向いた女性住民の顔は笑っていた。
私達が出会った時とは、まるで別人のような表情だった。
「いやぁー、君達がここに戻って来るのは予想外だったな〜。と言っても、一人はやられちゃったみたいだけど」
とても残念そうには見えない笑顔で女性住民は言った。
あの言いようは、私達がこの状況になることがわかっていたかのような言い方だ。
落ち着いて考えてみるとおかしな点ばかりだ。
まず、何故この女性はナイトメアヘルの弱点が青い魔石と知った上で持っていた?
数億以上ある魔石の内の一つが弱点と知るためにはナイトメアヘルの研究が必須だ。
そして、何故この女性が今笑っているのか。
「……貴方……まさか……!?」
「あ、気付いた?」
「え?何が?」
エレナは全く理解していないが、私は女性住民の言葉から推測を確信へと変える。
「そう、そこの銀髪の君が察する通り、私はナイトメアヘルの研究者であり、発見者でもあるハオリ サインメアだよ」
「発見者?」
だとしたら、ナイトメアヘルは人の手によって今の姿を手に入れた魔物だと言うのだろうか?
「貴方は、ずっとこの時を待って……」
「鋭いね。君の思ってることは正しいと思うよ」
理由はわからないが、この女性住民……ハオリさんはナイトメアヘルの魔臓が破壊されるのを待っていたのだ。
魔臓があるのがハオリさんからして都合が悪いのだとしたら、私達は彼女に利用されたのだ。
「騙したの!?」
「騙したとは人聞きの悪い。利用させてもらったと言ってほしいね」
私達は脅され訳ではなく、自らハオリさんの願いを聞いたのだ。
私達の優しさの感情を利用されたのだ。
「長い間この時を待っていた。私がこの世界の支配者になる時を」
「何を言っているのですか?」
ハオリさんが何を言っているのかがわからない。
ナイトメアヘルの魔臓が破壊されることが、何故彼女をこの世界の支配者になることに繋がるのか。
「よくわからないって顔してるね。仕方ないから教えてあげるよ」
(完全に勝ちを確信していますね)
そして、ハオリは自身がしようとしていた事の説明を始めた。
「私は元々はただの研究者だった。でも、それはとあるモノを見つけた時に変わった」
「それが、ナイトメアヘルですか?」
「その通り。と言っても、正確にはナイトメアヘルの本体とも言える核だけどね」
今、彼女はナイトメアヘルの魔臓ではなく核と言った。恐らく、私達が破壊したのは核ではない魔臓で、体のどこかにある核を破壊しなければナイトメアヘルは倒せない。
「私はその核を十年間研究してきた。そして、少々わからないところもあるが、ついに解析の九割が完了した。その瞬間に私は驚いたよ、まさかナイトメアヘルが自ら体を作り、私を呑み込もうとするとは予想していなかったからね」
「それで、この街に放つことで貴方は助かったのですか?」
「そうさ。それに、放ったお陰で解析出来なかったことの正体がわかったからね」
「それは?」
「人を悪夢の世界へと誘い、そして人からでた恐怖などの感情がナイトメアヘルを強くした……が、ナイトメアヘルにはその力の使い方を知らない」
ハオリさんは狂気に満ち溢れた笑顔で言う。
「だったら、私がナイトメアヘルと融合し、その力を有効に使ってあげようと考えたんだよ!!」
たったこれだけの理由で、街にナイトメアヘルを放って自分は危機から逃れるが、代わりに街の住民を悪夢の世界へと連れていく。
こんなのは、まるで街一つを実験に使ったということだ。
——なんて酷いことを……!
「ま、今みたいな状況に陥った時のためにナイトメアヘルには少し細工をしておいた。しかし、私の細工の発動はナイトメアヘルの体を作った時と一緒に作られた魔臓を破壊する必要があった」
「…………」
「そして、君達は私の思惑通りに魔臓を破壊してくれた。つまり、私とナイトメアヘルが融合する時が来たのだ!」
ハオリさんは服のポケットから何かの機械を取り出し、スイッチを起動させた。
「ハハハハハッ!!これほど嬉しいことは無いよ。なんって、長年の研究成果が身をもって体感でけるからね!!」
スイッチが起動したと同時に、街の中にいたナイトメアヘルがハオリさんに向かって勢い良く飛んで行く。
そして、ハオリさんはナイトメアヘルに呑まれる。
「どういうつもりですか……?」
ナイトメアヘルの体であるスライムの全てがハオリさんを覆い尽くす。
普通なら、ハオリさんは悪夢の世界へと意識を飛ばされる筈だが——。
ゴゴゴゴゴゴゴッ!
「な、なに!?」
「地震……という訳ではなさそうですね」
これは地震ではない。とてつもない量の魔力がハオリさんを覆ったナイトメアヘルから溢れ出す。今起きている揺れもこの現象が原因だろう。
揺れが始まって数分後、ハオリさんを覆っていたナイトメアヘルのスライムが消えていく——否、これは消えているのではなく吸い込まれている。
スライムが完全に吸い込まれると、そこには先程と様子が変わらないハオリさんの姿があった。
そして、閉じていた瞼が開く。
「……ククククク……なんて素晴らしいんだ!どんどん力が溢れてくる!」
開かれた目の瞳は真紅に光っていた。
そして、先程にはなかった雰囲気がハオリさんは纏っている。
「この力、是非とも試してみたい……そこで君達に提案だ。私と一戦交えないか?」
「……もし、嫌だと言ったら?」
「大人しくやめる、とでも言うと思うのかい?」
ハオリさんの興味を直ぐに実行するという性格上、私達に拒否権はない。
勝機はあるかと聞かれれば、私は即答でNOと言っているだろう。
「最強の力を得た私と戦えるのだ。光栄に思うがいい!」
ハオリの言葉を放つと同時にハオリさんの姿が消えた。
「ぐ……か……っ!!」
「エレナさん!?」
消えたと思った時にはハオリは既にエレナさんの前まで移動しており、ハオリさんはエレナさんのお腹を殴っていた。
殴られたエレナさんは、普通の人間では有り得ない勢いで吹っ飛ばされる。
殴られた衝撃が少し離れている私のところにも届いた。
元々ただの人間だったハオリさんがここまで強くなるのは予想外だった。
「なんて威力……」
ハオリさんの圧倒的な力を前に、私はレジェスの時以来あまり感じたことの無い恐怖が込み上げてくる。
ハオリさんが私を見る。
いつ殴りかかって来てもおかしくない。それを避ける術を私は持っていない。
「ぐっ……!」
「ホォ……」
ハオリさんの攻撃を両手をクロスさせて防御する。
避けれないなら守るしかない。しかし、これがいつまで続くかはわからない。幾ら守ろうと、それが限界になるのも時間の問題。
シロウさん……貴方なら、この状況をどうやって打破しますか?
防御するために地面に置いたシロウさんを見ながらそう考える。
次回がどっちsideになるのかはまだ決まってません。




