宿の中での一日 2
「よし、休憩!」
一体木刀を振り始めてから何時間だっだろうか。
数十分振っては数分休憩、数十分振っては数分休憩の繰り返しだ。
「今何時だ?」
今の時間が気になって部屋にある時計を見た。
長い針は一で短い針は五に向いていた。
つまり、今の時刻は午後五時五分。木刀を振り始めたのは午前十一時半。
約六時間ずっとこの繰り返しで木刀を振っていたわけだ。
「どうりで腹が減るわけだ」
昼ご飯を抜いたら腹が減るのは当たり前だな。今までよく耐えたな俺の腹。
と言うか、約六時間は振り過ぎだろ!どんだけ集中してたんだよ俺!!
「あれ……?」
ヤバい、何故か体に力が入らない。やっぱり昼ご飯を抜くのはまずかったか?
俺はそのまま床に倒れた。その瞬間……。
「シロウさーん、ただいま戻りm——」
ぐぅぅぅぅ………
リアラが部屋のドアを開けるのと同時に俺の腹からかなり大きな音が鳴った。
「「…………」」
……ヤバい、超恥ずかしい。
何でリアラが帰ってきたと同時になるんだよ!
偶然なのか、ただ運が悪かっただけなのか。偶然なら仕方がない。
しかし、運が悪かったのなら俺は死ぬまで……いや、死んでもこの不運スキルを呪ってやる。
「……あ、あの……お腹が減ったんですか?」
この気まずい雰囲気の中でリアラが俺に聞いてきた。よくこんな雰囲気で話し掛けて来れるな。俺なら絶対無理だ。
「……超減りました」
俺の顔が熱くなる。絶対赤面してるな。
こんなにも恥ずかしい経験は生まれて初めてだ。
「あの、これ食べますか?」
そう言って、俺にたい焼きのようなものを渡してきた。
とてもいい匂いがする。
「美味しそうだな。じゃあ、お言葉に甘えて」
リアラが渡してきた、たい焼きのようなものを手に取って一口食べた。
「おぉー、美味いなこれ」
「そうですか。この町で有名なお菓子らしいのですが、美味しかったようで何よりです」
味はたい焼きと同じで中にあんこが入っている。
見た目は魚だが鯛ではないので多分名前はたい焼きではないだろう。
「ところで、これの名前は何なんだ?」
「この食べ物ですか?売店では『アユ焼き』と言うらしいです」
たい焼きじゃなくてアユ焼きか。
この世界にもアユがいたんだな。そう言われてみれば確かに見た目がアユだな。
……て、俺が魚の見た目なんてわかるか!!
専門家じゃねえしそんなに詳しくもねぇよ!
「……ごちそうさまでした」
「……毎回思うのですが、その『ごちそうさまでした』とは何なんですか?」
そう言えばこの世界にはこの言葉がなかったっけ。
毎回何も言ってこないからリアラからして既に聞きなれた言葉かと思っていた。
「『ごちそうさま』って言うのは、この食べ物を用意してくれた人、つまりリアラとこの食べ物への感謝の気持ちを表す言葉のことだ」
「へぇー。では、『いただきます』と言うのは何ですか?」
「『いただきます』って言うのは、食べ物は動物や植物の命から出来ていると言っても過言ではない。だからその命をいただくという感謝と敬意を表すことばのことだ。二つとも、俺の故郷の言葉でな」
ここで、前の世界の日本の言葉なんて言ったら信じてもらえないと思うので故郷の言葉として言っておく。
「いつか、シロウさんの故郷に行ってみたいですね」
「……あぁ」
すまないリアラ、その願いは叶えられそうにない。
何たって、この世界とは別の世界にあるのだからな。
「それよりリアラ」
「はい、何でしょうか」
「その手に持っている大量の袋は何だ?」
ずっと気になっていたが、多分今日一日で買い込んだものが入ってるんだろうが、何故か嫌な予感がする。
「フフ、明日のお楽しみですよ」
絶対あの袋の中身はヤバいやつだ!
リアラの今の笑い方は、俺の世界で昔に会って散々なことになった原因であるいたずらっ子の笑い方と瓜二つだ。
「あ、もしこの袋の中身を覗くのなら……わかってますよね?」
「は、はい。わかっております」
急な殺気でビビってしまった。実は俺よりもリアラの方が強いのではないだろうか?
そして、そのまま宿が用意した夜ご飯を食べて部屋に戻って寝た。
あの時、袋の中身から感じた嫌な予感が的中しないことを祈って。
リアラさんは覇〇色の覇〇でも使えるのかな?




