覚悟は出来た
——何も無い。
目が覚めてから言った最初の言葉がそれだ。決して真っ暗ではない。だからと言って真っ白な空間でもない。一言で言うなら、色々なものが混じった宇宙空間、と言ったところだ。
「……ん」
周りを見渡していると、すぐ横で意識を失っていた父さんが意識を取り戻す。起きた途端、なんだここ、とほざいていたがつい数分前のことを覚えていないのかこの男は。
「ここは恐らく、空間の狭間ってところだ」
「どっかで聞いたことある名前だな」
「……創z——」
「わかった、わかったから! 剣を創造して俺を殴ろうとするな!」
「……はぁ」
一つため息をついて創造を中止する。
こんなことをしても無駄だってことはわかっている。しかし、自分でも分からないくらい焦っているのか冷静な判断力がない。
兎に角、今は落ち着くことにしよう。
「それより、ここをどう出る? 見たところ出口はないみたいだが」
「そりゃそうだろ。邪龍みたいに空間移動が出来なきゃここからは出られないだろ」
「空間斬ってもか?」
「空間を斬っても無理……は?」
今父さんはなんと言った? 空間を斬ると俺には聞こえたんだが。
「は? って、ただ空間を斬るだけだぞ? そんなに驚くことじゃないだろ」
「驚くだろう普通! 空間斬るんだぞ!?」
「ああ、それが?」
「なんなんだこの父さんを名乗る化け物は」
空間を斬るだと? 冗談も程々にしろ、と言いたいところだが、ここまで来てしまえば父さんは空間を斬れて当たり前と思ってしまう。
それに、父さんがここに来て嘘をつく理由がない。ないにも関わらず嘘をついているのならばただのノーテンキだ。
「はぁぁぁ……」
すると父さんは、剣のようにも斧のようにも見える謎の武器を創造し、その武器に何やらエネルギーらしきものを溜めている。
何かすごい迫力のようなものを感じる。
「俺式マジ必殺『仕方なく空間ぶったぎんよぉお!?』」
「なんだそのネーミングセンスの欠けらも無い技名は!? それに何で上から目線なんだよ!」
何だよそのふざけた技名は。声出す時に若干裏返ってんじゃねぇかよ。
そして、父さんは壁一つ内この空間で武器を一振りした。しかし、何も起こらなかった。
「本当にこれでいいのか?」
「まあ見てろって」
本当に大丈夫なのかという疑問を抱きながらしばらく待っていると、急に何も無いところからピシッと音が聞こえた。音のした方を見てみると、そこには壁を綺麗に斬り開いたかのような切れ目が宙に浮いていた。
いや、マジかよ。
「ほら、さっさと行け」
「父さんは先に行かないのか?」
「バーロー、親は子を優先するもんだろ」
「そ、そうか」
向こうの世界でもそんな扱いを受けたことは無かったので、正直言って父さんの言うことは理解出来ないが、取り敢えずは先に行ってもいいということだろう。
そう思い、俺は開いた空間の中に入ると先程いた空間よりも明るい所に出た。しかし、その先に見えるのは赤く染った光だ。良くないことが起こっている気がする。
「ほら、父さんも早く来いよ」
「……残念だが、それは出来ない」
「……は?」
来れないだと? 何を言っているんだこの男は。
開いた空間の入口はまだ開いている。空間の狭間から出られない理由はない筈だ。
「何でって顔してるな」
「……何で」
「簡単だ。この空間が今も開いているのは俺がこの状態を継続させているからだ。だから、ちょいとでも力を抜けば瞬時に空間の修正力がこの扉を塞ぐ」
「だったら、継続させながら出れば——」
「言っただろ、もうこの体は長くはないって」
「………」
父さんの体はもう長くはない。確かにそう言った。
そんな体の中、父さんは空間を斬って開くなんて荒業をした。そんなことをして体に負担が掛からないわけがない。
「空間の扉を維持するだけの力は流せる。だがな、残念なことに、ほら、体が固まって小指一つ動かせない」
「……こうなるってわかってたんだろ? だったらなんで何も言わずにそれを実行した?」
「言ったところで止めるだろ?」
止めない、と言えば嘘になる。大切な人の命がなくなるってのに、そうどうぞどうぞと簡単に承諾できるものか。
しかし、俺がどうこう言ったところでこの状況がどうにかなる訳では無い。父さんが空間を斬った時点で父さんの死は確定されていた。
だからって、こんな別れあるかよ……。
「よく聞けシロウ。俺はアイツとの決着はつけられない。だから、お前が奴——邪龍を倒せ」
「……言われずとも……わかってるよ」
「それと、ちょい手を貸せ」
「——?」
父さんに言われた通りに、俺は右手を父さんの肩に置いた。一体何をしようというのか。
——するとその瞬間、俺が置いた手を伝って何かが流れて来るのを感じた。
「これは……」
「今、俺の持つ全てをお前に渡した。これでお前一人でも邪龍にも勝てるはずだ」
「………」
「そんな悲しそうな顔をするな。何だ? お前には生命を与える能力でもあるのか?」
「それは慰めのつもりか?」
「え………なんの……こと……やっべ、口まで動かなくなって……きやがった」
段々と父さんの動きが鈍くなってくる。その様子は、まるで機械がエネルギー切れで機能が停止する時に似ていた。
「真っ直ぐ進め。そして、お前の仲間を……助けるんだ」
「ああ、わかってる」
「……その決意に満ちた目。やっぱり……変わってねぇな」
父さんの目の輝きが無くなってくる。もう既に父さんの意識は朦朧としているだろう。
すると父さんは、もう動くのがやっとの頭を上げて俺を見る。
「じゃあな、シロウ……。そして、こんな……父親を……許してく……れ……よ……」
「ああ、許す。色々めんどくさい事になったが、結果的には俺を助けてくれたんだ。許さない訳にはいかない」
「そう……か。なら、安心だ……」
そして、父さんは完全に動かなくなる。それと同時に空間を開いていた扉がジッパーを閉めるような感じで閉じた。
——今この瞬間、デュオン サクラギは空間の狭間にて死亡した。
「……泣くな俺……男だろうが……っ」
目から涙が出てくる。何度も拭き必死に抑えようとしても出てくる。
また俺は、大切な人を失った。
「……先に進んで邪龍を倒す。それが俺のやるべきことであり、父さんとの約束だ」
涙を払い、元いた世界に続く空間の道を歩き始める。
もう泣いた。もう失うものは十分失った。これ以上失ってたまるかって程に。
覚悟は出来た。
行こう、邪龍との戦いに決着をつけに。
何週間ぶりの更新です。恐らく次の更新もかなり遅くなります。




