少年の価値
目が覚めたら、馬車の隣に立っていた。
空気がまずい。やはり神域の空気は外とは違うんだな。
二人のもとに行こうかと思ったが、二人はすぐに戻ってきてくれた。
「ノーン! あなた、どこに行ってたのよ!」
エレイン様は息を切らしながら、こちらに走ってきた。
どうやらかなり心配してくれたようだ。
「すみません。あの……まず、何から説明すればいいか……」
自分でもあまり状況を理解していなかったので、何から話せばよいか戸惑っていると、アランさんが何かに気づいたようだった。
「ノーン様。その、手にもっている剣はなんですか」
「はい。よくわかりませんが、神剣アロンダイトだと言われました」
「「神剣!?」」
二人は驚いて目を見張っていた。
「何があったの、ノーン。詳しく話しなさい!」
「あっ、えーっと、まずは……」
「いえ、とりあえず馬車に乗りましょう。話は帰りながらにいたしましょう」
僕が困惑していると、アランさんは冷静に対応してくれた。
とりあえず、僕たちは馬車に乗り、僕は起きた出来事を出来るだけ事細かに説明した。
***
「つまり、あなたはその神剣アロンダイトの持ち主に選ばれたってわけね、ノーン」
「はい。そういうことだと思います」
「あなた、すごくあっさりしてるけど、それってとんでもなくすごいことなのよ。神剣を持っているのなんてこの国では3人だけ。あっ、あなたを合わせて4人目ね。どの国でも神剣を持っているだけで、もう軍のトップになることができるわよ」
軍のトップ……
この神剣は僕の復讐を進める上で大いに役に立つことは間違いなさそうだ。
「とりあえず、ノーン様には宮殿に来てもらいます。王に謁見していただきます。そこで、あなたのこの後について話し合います」
いきなり王に会う? お姫様には毎日会っているが王様に会うのは緊張する。
神剣を手に入れるというのはそんなにすごいことなのだろうか。
「神剣というのはそんなにすごいんですか?」
「鞘から抜いてみればわかるでしょうが、選ばれた器自身が神剣を持つとその者の魔法量は飛躍的に増大します。魔法が戦いの勝敗を大きく左右する現在では、神剣を持つものが一人いれば戦局は大きく変わります」
「つまり、あなたはもうこの国でもトップクラスの戦士になってしまったのよ!」
「姫様、それは違います。ノーン様の今の魔法力では神剣を使いこなすことができません。肝心の魔法が実践で使いこなせるレベルじゃないと、いくら魔法量が増えたところで強くはなれません。ただの一般兵が神剣の器に選ばれても意味がないのです」
「はぁ。やっぱりそうなんですか……」
「はい。ですがおかしいです。神剣はそれを使いこなせるような人間にしか渡されません。あなたに才能があるといっても、渡されるのが早すぎる」
早すぎる、か……。
やはり、僕の過去と何か関係があるのだろうか。
「まぁいいじゃないアラン。ノーンが神剣を使いこなすまであなたが面倒を見ればいいだから」
「ですが、神剣使いとなると私にも手が負えません……。一度ガウェイン様と相談しないとなりませんね」
「あらそうなの。そこらへんはお父様とも話し合わないといけないわね。なんといってもこの年で神剣を持つなんて歴史的みてもそうそういないだろうしね」
「姫様の言う通りですね。この話は宮殿に着いてからというこで」
アランさんはそう言うと鞭を打って馬車の速度を上げた。
***
宮殿についてから、アランさんが王様にまずある程度話を先にしてくれたらしい。
待っている間、僕は宮殿の応接室というところに連れてこられた。
王様に会うのに、さすがに普段着はまずいと言われ急いでメイドさんが僕に服を見繕ってくれた。
記憶にある限りでは初めての正装で、なんだか胸が躍った。
「ノーン様、準備ができたそうです。どうぞこちらへ」
しばらく鏡の前で自分の正装姿を見ていたらメイドさんがそういって案内してくれた。
鏡の前でクルクルとターンなんかしてしまったが見られてないか心配だ。
メイドさんに案内されるがままついていくと、金色の大きな扉の前に案内された。
「ノーン様。こちらです」
「わかりました。もう入っても大丈夫ですか?」
「どうぞ。すでに殿下が中にいらっしゃいます」
「そうですか。ありがとうございます」
そういって扉を押し開けると、中は意外とこじんまりして、大きな長机があるだけだった。
中にはエレイン様とガウェインさん、それともう一人見たことのない人が椅子に座っていた。
どうやら、その見たことない人が王様のようだった。
王様と思われる人の斜め後ろにアランさんも立っていた。
僕はてっきり、玉座のある大きな広間にでも呼ばれるのかと思っていたので少し驚き、キョトンとしていると、
「来たのね、ノーン! お父様、あの子がノーンよ、ノーン・アベル」
エレイン様が立ち上がって王様に僕を紹介してくれた。
「そうか、君が神に選ばれたという少年か。それ、早く席に着いてくれ」
王様は席に着けというが、王と同じ机を囲んで座ってもいいものなのだろうか。
「あのっ、僕はどうすれば……」
「いいからここに座りなさい、ノーン」
僕が困惑していると、エレイン様が自分の隣の席を叩いてくれた。
「すまないね、ノーン君。私は堅苦しいのが嫌いなんだ。公式の場以外では楽にしていたいんだよ」
「いえ、めっそうもございません。僕……私などが殿下のお近くに座ることができるなど光栄の極みでございます」
緊張する……
僕はできる限りの敬語を使って見たが正直使い方が正しいかもわからない。
しかも、想像していたのとは違って随分と砕けた雰囲気の空間にどう対処すればいいのかわからない。
「はははっ。無理に敬語を使わなくてもいいんだよ。何と言っても君はエレインの初めての友人だ。無下に扱うわけにはいかない。それに、血は繋がってないが君は僕の甥っ子なんだよ?」
「はい、わかりました。ありがとうございます」
忘れていたが、シャロットさんはこの人の妹なんだったな。
それでも、王様の甥っ子というとはどうも実感がわかない。
「そうよ、ノーン。遠慮しないで早く座って。話が進まないじゃない」
「はい。失礼します」
僕は言われた通り、エレイン様の隣に座った。
僕が座るなり、ガウェインさんが口を開いた。
「早速だが、ノーン。お前は神剣使いになった。俺とお前を含めてもこの国にいる神剣使いはたったの四人だ」
ガウェインさんも神剣使いだったのか。ガウェインさんと僕を含めて四人ということは、この国にはあと二人神剣使いがいるということになる。
「神剣使いのチカラは絶大だ。すぐにでもお前を使いたい。しかしアランの話では、お前はまだ神剣を使いこなすレベルには至ってないらしいな」
「はい。僕自身そう思います」
アランさんのいう通り僕は神剣を使いこなせるレベルには到底に至ってないだろう。僕はまだ軍人学校を卒業するレベルにも至っていないんだから。
「そこでだ。お前には一年間、六回生として軍人学校に編入してもらう」
僕もそれがいいと思っていた。そもそも軍人以外は魔法を使ってはいけないのだから、魔法を学んでいる以上いつかはそうするようこちらから頼むつもりだった。
「それはいいのですが、いきなり六回生ですか?」
「それはアランの判断だ。お前なら、あと半年真面目に勉強すれば卒業する実力ぐらいなら身につけられるという見込みだ」
「わかりました」
思っていたよりも早い。
あと半年でその卒業できるレベルに達するなら僕としてはこのままアランさんに教わっていきなり入隊したいところだが、そういうわけにもいかないだろう。
「神剣使いであるお前のために軍にお前のポストを用意しておく。本来ならこれは戦いで功績を上げないとなれるものではない。そのために、お前にはこの一年間で、軍人学校の首席にまで昇りつめてもらう」
軍人学校の首席……
アグラヴェインは確か、今は次席とアランさんから聞いた。
つまり、僕はアグラヴェインよりももう一つ強いやつに勝たないといけないらしい。
しかし、僕には神剣があるし学校で一番くらいならすぐになれるかもしれないな。
「あと、悪いがお前が神剣使いということはしばらくの間はこの部屋にいるものだけの秘密ということにしたい」
「……!」
ちょっ、それはおかしい。これは僕が神剣を使ってパパーッと学校最強の地位を得て、重役ポストにスンッと入るだけの最強系物語じゃないのか?
思っていた展開と違うぞ。
「どういうことですか? いきなり言われても納得できません」
これだけは簡単に、「はいそうですか」というわけにはいかない。
せっかく手に入れたチカラだ。復讐の近道にさせてもらわないといけない。
「神剣は戦局を大きく左右する切り札だ。自分で言うのもなんだが、俺一人だけでスウィッツ王国の中隊なら3つは壊滅することができる」
中隊がどれくらいの規模かはわからないが、とりあえず話しを合わせるか。
「はぁ。それで」
「つまり、スウィッツ王国に神剣使いが一人増えたと世間に広まれば、お前を潰さんと他国から刺客が送られてくるかもしれん」
刺客……
潰すって絶対暗殺のことじゃないか! それだけはマジで勘弁してほしい。落ち着いて夜も寝れない。
「だから、お前には神剣を使いこなせるまで、出来れば初陣の時まで隠していたい」
なるほど。敵国からしても使いこなせないのに神剣を手に入れた少年が現れたとなれば、強くなる前に殺しておきたいということだろう。
生き残るためなら喜んでその提案を受け入れよう。とりあえず、まだ死にたくない。
「わかりました。では、僕が首席になれなかったらどうなるんです?」
「簡単なことだ。卒業後、しばらくは一般兵として入隊してもらう。そもそも卒業していきなり戦いに出るというのはそうそういない。それに、首席で卒業できないような奴は神剣なんて使いこなせないぞ」
神剣なんてロクに使いこなせないか……
それもそうだ。聞いている感じじゃ、神剣の価値は僕が思っている以上に重いらしい。
生意気言ってる場合じゃなかったな。
「あと一ヶ月すれば、年が明ける。他の連中の進級に合わせてお前も一ヶ月後から入学してもらう」
「わかりました」
一年後にはこの国の学生最強か……。
いや、リブニアを倒すためにはこれくらいすぐに乗り越えてやる。
この国の同世代の中で一番になれなくて何が神剣使いだ。
僕は必ず首席で卒業してみせる。
そして、妹ナタリアの無念を晴らすんだ!
ここから、僕の長い長い戦いの物語が始まろうとしていた。
とりあえず、1章はこれで終わりです。
説明ばかりになりがちでしたが、ここからはノーンもどんどん活躍していき
ノーンという真っ白な人間もいろんな人と出会い、ノーン自身の性格も変わっていくのでその辺も楽しみにしていただければ幸いです。