力を求めて今日は休む
ナタリアのことを思い出してから約3ヶ月経った。
僕はこの三ヶ月の間ずっと力を求め続けていた。
朝は五時から体力作り。
肉体強化魔法の強化から単純な筋力トレーニングまでやれることはなんでもした。
昼からはアランさんに魔法学を教わった。
今ではもう、上位魔法もある程度のレベルで撃てるようになってきた。
もうすぐ、軍人学校の卒業レベルにまで達することができるらしい。
まだまだ、僕は自分の底が見えそうにない。
教わったことはすぐに出来るし、その精度も素人のレベルを逸脱してるものらしい。
しかし、これは今の僕には都合のいいことだった。
リブニアを滅ぼそうとしているのに、こんなところでつまずいてるわけにはいかない。
僕は少しでも早く強くなりたかった。
しかし、アランさん曰く焦りは禁物らしい。
魔法というのは使えば使うほど強くなるわけではないらしく、適度に体を休めなければならないらしい。
だから、僕は七日のうち一日を休日としてエレイン様とアランさんの三人で街に出かけていた。
今日はその休日で、二人と十時から出かけることになっている。
身支度を済ませて待ち合わせ場所に行こうと家を出る。
僕は絶対に二人を待たせまいと待ち合わせの三十分前には到着するようにしている。
相手は一応お姫様なのだ。いくら向こうが僕を気に入っているとはいえ、お姫様を待たせるわけにはいかない。
待ち合わせ場所で二人を待っていると、時間ぴったしに二人は現れた。
「お待たせ、ノーン。いつも待たせて悪いわね」
「いえ、エレイン様。時間ぴったしですよ。僕が少し早くに来ているだけです」
「そんなに私と出かけるのが楽しいの?」
「ええ、もちろんですよ」
「ふふふ。そう言ってもらえると嬉しいわ。私もいつも楽しみにしてるから」
そう言うとエレイン様は嬉しそうに笑った。
僕も、この休日はいつも楽しみにしている。
この三ヶ月の間、リブニアへの憎しみはずっと僕の中にあった。
それでも僕が焦らず、冷静に自分にできるを着実に進めることができているのもエレイン様とアランさんのおかげだ。
特に休日は僕を暖かい感情でいっぱいにしてくれた。
「今日はどこに行くんですか?」
「はい。今日は街ではなく少し遠出して、森の方に行ってみようかと」
「森…… ですか?」
「たまにはおいしい空気を吸いに行ってみるのもいいんじゃないかって私が提案したの」
「はい。私もノーン様には一度、大自然というものを味あわせてあげたいと思っていたので」
「自然ですか。いいですね。是非行ってみたいです」
「じゃあ決定ね。ちょっと遠いから馬車を使うわよ。ついて来なさい」
「わかりました」
そう言うと、僕たち三人は一旦宮殿に向かい、馬車に乗って街のはずれにある森に向かった。
馬車はアランさんが運転してくれて、馬車に乗っている間僕はずっとエレイン様のお話を聞いていた。
「いい、ノーン。私はお姫様といっても王になるのはお兄様だからずいぶんと気楽なのよ」
「エレイン様のお兄様は今、何をなさっているのですか?」
「ずっと帝王学を学んでいるわ。優秀なお兄様がいるから私は随分と気楽でいいのよ。じゃなかったら毎日あなたのとこになんて遊びに行けない。それに、自分で言うのも変だけどお父様は私のことを溺愛していて絶対他国に嫁がせたりはしないって。ずっとこの国に居させるんだーって聞かないのよ」
「エレイン様はそれでいいんですか?」
「いいに決まってるじゃない。知らない土地で知らない男に嫁ぐなんか絶対嫌よ」
「それもそうですね」
「私はこのスウィッツ王国で一生過ごすって決めてるの。結婚だって、この国でするわよ。そうそうシャロットさんもお父様の妹で私の叔母よ。あの人もよその国に嫁がずにガウェインと結婚したの」
「えぇ!? じゃあ、僕たちいとこだったんですか」
「そうよ。ガウェインの養子とはいえ、ただの国民に私が毎日会いに行けるわけないじゃない」
驚いた。どうやら僕はいつの間にか王家の人間になっていたらしい。
「じゃあ、どうして僕の家は宮殿の中にないんですか?」
「それはガウェインの意志よ。それに、そもそもシャロットさんは魔法の才能があったから魔術師になりたかったのよ。だから、一応シャロットさんは王家から離れたことになっているのよ」
つまり、僕も正式には王家とは関係ないのか。
「はぁ。なんだか無茶苦茶ですね」
「そう。無茶苦茶なのよ、あの人は。自分の生きたいように生きてるの」
「なんだか羨ましいですね」
「まぁ、私もシャロットさんのように生きてみせるけどね」
そんな風に話していると気づいたらだいぶ景色が変わっていて、いつの間にか森の中に入っているようだった。
「お二人とも、着きましたよ。馬車から降りてください」
アランさんにそう言われて馬車から降りると、そこは森の中の小さな広場ようなところだった。
来た方は大きな馬車から通れるような大きな道があるが、前方にはそんな大きな道はなかった。
「ここから先は歩きますよ」
「えー。歩くの〜」
アランさんがそういうとエレイン様は露骨に嫌がった。
「仕方がないじゃないですか。そもそも姫様が森に行きたいとおっしゃったのですよ」
「ん〜〜。わかったわよ~」
「あの、すみません。ここも森の中のように思うんですが、ここからどこに行くんですか?」
「ここは森ですが、正確にはまだ森ではありません」
? 何を言っているんだ、この人は。
「すみません。ちょっと言っている意味がわからないんですが」
「はは。そうですね。しっかり説明しましょう」
そう言うとアランさんは森の奥の方を指さした。
「あちらに向かって歩くとわかりますが、途中から生き物のいなくなります。そこから先は、神域と呼ばれ、一切の穢れのない空間になります。神域は森や洞窟などの自然の中にあるんですよ。聞いたところによると海の中にも神域はあるらしいですね」
「そんなところに簡単に入っていいんですか?」
「いいですが、神域を穢すようなことはしてはいけません。すぐに追い出されてしまいます」
「追い出される?」
「はい。本当に追い出されますよ。気づいたら森の外にいます。そして、一度追い出された人間はもう神域に入ることはできません」
「そうなんですか」
「だから、ノーン様も姫様も神域を穢すことのないように気をつけてくださいね」
「わかりました」
「わかってるわよ。私だってここに来るの初めてじゃないんだから」
「そうですね。では、参りましょう」
そう言って僕たちは森の中に入って行った。
森の中は街と違い空気が澄んでいた。
「結構空気がおいしいでしょ、ノーン。私、ここが大好きなの」
「はい。なんだか、体の中がドンドン綺麗になっていくようです」
「そうでしょ。そうでしょ。やっぱりここに連れて来て正解だったわね」
「神域はもっとすごいですよ。ノーン様。一度入るとこの森の中の空気ですらちょっと汚く感じます」
「それは楽しみですね」
神域への期待を膨らましながら歩いていると、急に森の中の雰囲気が変わるのがわかった。
「もうすぐ、神域です。二人とも先ほど私が言ったことを忘れずに」
アランさんがそう言うと急に体が軽くなり、まるで今まで押し付けられていた圧力から一気に解放されるようだった。
まるで自分が飛んでいるかのような感覚になり、目を閉じて深呼吸したら肺が柔らかく包み込まれるような感覚がした。
しかし、次に僕が目を開けたとき、僕は湖の上に浮かぶ船の上になっていた。
いくら周りを見渡してもエレイン様やアランさんはいない。
事情はよく分からないが、どうやら僕は
いい歳こいて迷子になってしまったらしい。
徐々に軽い感じの文章にしていきたいと思ってます。