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ノーン物語〜記憶のない復讐〜  作者: さ上
第0章
6/16

記憶の断片

 基本的に僕はいつも家で一人だ。


 ガウェインさんだけでなく、シャロットさんも軍のお偉いさんらしくずっと宮殿に籠っている。


 アランさん曰く、本来はこんなことはあり得ないことで僕がここに来たあたりからリブニアとファランサの戦争が激化し、ファランサの隣国のスウィッツも巻き込まれるのではないかとずっと軍は大慌てらしい。


 軍人生であるアグラヴェインも寮に住んでいるし、三人と同時にあったのは僕が初めてこの家に来たときの一回だけだった。


 家は宮殿から近く、いつでも帰ってこれるはずだが、それほどみんな忙しいのだろう。


 僕は変に気を使うことがなくて安心しているが、どこか寂しい。

 今の心の支えはエレイン様とアランさんの二人だけだった。


「おーい。ノーンいるか?」


 などど考えているといきなり玄関の方からガウェインさんの声が聞こえた。どうやらちょうど帰って来たようだ。

 2階から降り、玄関に向かった。


「すみません。2階にいて遅れました。何か用ですか?」


「ああ。とりあえず来てくれ」


「どこに行くんですか?」


「火葬場だよ。お前も、過去とお別れしてこい」


 そう言うとガウェインは僕を置いて先に歩き始めた。


「ちょっ、待ってくださいよ。僕何も準備が」


「いいから早く来い。ここいうのはパッと済ましちまうのが一番だ。長引かせるべきじゃない」


「……」


 しばらくガウェインさんの後ろを歩いていた。


「お前、あの子について何か思い出せたのか?」


 あの子というのは抱きかかえていた女の子のことだろう。

 僕はあの子が死んだと聞いて泣いたあの日からあまりあの子ことは考えないようにしていた。考えると悲しい気持ちになり、過去に囚われてしまいそうになったから。

 だから、何も思いだせていない。けど、今の僕はそれでもいいと思っている。


「いえ。あの日以来、あの子ことはなるべく考えないようにして来ましたから」


「そうか、それは正しい判断だな。それがいい」


 ガウェインさんはそういうとまたしばらく黙り込んだ。


 それから5分ほど歩いただろうか?

 森の入り口に大きな小屋があり、どうやらその隣で死体を焼くらしい。

 すでに大量の落ち葉の上であの子は仰向けに横たえていた。


「ここなんだが、実はもう、準備はほとんど出来てる。あとは俺が火をつけるだけだ。せめて燃えてる間くらいあの子をことを見ていてやれ」


「はい。そうします」


 そう言うとガウェインさんは早速魔法で火を付けた。


「ファイラ」


 ガウェインさんが使ったのは簡単な火の魔法だった。とくに攻撃に特化したものでもない火を出すだけの魔法だ。


 火が女の子の周辺の落ち葉を燃やし、徐々に女の子も燃えていった。

 彼女は本当に可愛いらしく、燃やされている今でも死んでいるとは思えない見ているこちらが癒されるような少女だった。


 ビシッ!


「あっっ!」


 そんな様子を僕が見ているときだった。


 急に頭が痛み、脳が忘れたがっていた記憶が蘇って来た。

 見たことない場所で楽しく僕と食事をしている彼女。彼女は満面の笑みで僕と食事を取っていた。

 しかし、彼女はすぐ、どこかに連れ去られその可愛らしい笑顔はリブニアというバケモノに歪められてしまった。


 そうだ思い出した。


 この子は僕の妹だ。

 この子の名前はナタリアだ。

 僕の妹は、ナタリアはリブニアに攫われてしまったんだ。

 そして、僕の妹はリブニアに殺された。


 思い出したことはそれだけだった。


 だが、それだけで僕の中で消えかかっていたリブニアへの憎悪は爆発的に増大した。


「おい。どうした、大丈夫か?」


「あぁ…… はい大丈夫です。やはり少し悲しい気持ちになりますね。けどもう大丈夫です」

 

 嘘だ。大丈夫なはずがない。

 しかし、ここで僕がまたリブニアを恨み始めたことがバレるわけにはいかない。

 ガウェインさんは僕に本物の恨みがあるからこそ僕を信用してくれたが、信用した上で恨みを忘れろと言ってくれたのだ。

 ここでまた僕が強い憎しみを感じていることがガウェインさんにバレてはいけない。


「すみませんガウェインさん。僕、先に帰ってもいいですか? アランさんやエレイン様がそろそろ家にやってくる頃です。二人を待たせてはいけないので」


「そうか。お前はもういいのか?」


「はい。もういいです」


「わかった。お前がそう言うなら先に帰ってもいいぞ。片付けくらい俺がやっといてやる」


「すみません。ありがとうございます」


 そう言うと僕はすぐに振り返り、家まで走った。


 走って走って、走った。


 家に着いて一人になった途端、僕は怒りを抑えられなくなった。


 ぶっ潰す。リブニアをぶっ潰してやる!

 僕の妹を殺した国をぶっ壊してやる!

 やってやる。僕一人ででも、リブニアを滅ぼして見せる!


「アァァァァっ!!!!」


 僕は叫んだ。

 喉切れてしまそうになるまで叫び。

 気づいた頃にはまた泣いていた。


 結局僕は、いつまでも覚えていない過去に囚われ続けるのだ。




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