僕の身元
泣いてるとき、僕はリブニアとかいうものへの怒りでどうにかなりそうだった。しかし、その理由がはっきりしない僕にはその怒りをどこにぶつければいいのかわからなかった。
どれぐらい泣いていたのだろうか。
僕が泣いている間、ずっとお姫様は僕を抱きしめてくれていた。
優しくて柔らかい感触だった。いい匂いがして、僕はずっと安心して泣くことができた。
僕が落ち着いたのを確認してからお姫様は僕から一旦離れた。
そうすると、あの男はまた僕に質問してきた。
「質問の続きだ。お前がリブニアから来たことはわかっている。ならどうしてお前はリブニアと聞いた瞬間、泣き出した。何か心当たりはないのか?」
僕がリブニアから来た? 一体どうゆうことだ。
「すみません。僕は自分がリブニアから来たという記憶はありません。どうしてリブニアから来たとわかったのですか? 」
「これは驚いた。本当に何もわかってないんだな。仕方がない。話してやろう。まず、どうしてお前がリブニアから来たかわかったかだったな」
「はい」
正直、僕はリブニアや少女のことはおろか自分のことさえ何もわかっていない。なのに、どうしてこの人は僕がどこから来たのかわかるんだろうか。
「いや、大したことじゃない。お前が来ていた服がリブニアのものだったんだよ。しかも、鎧そのものはなかったがお前さんはギリギリまで鎧を着てたはずだを背中の傷を受けたとき脱げたのかもしれないがな」
リブニアの鎧? まったく心当たりがなかった。
もしかして、僕は軍人だったのだろうか?
「けどなぁ。見た感じ、お前のように若僧が着れるような服じゃない。リブニア軍でもかなり高位の者が着る鎧の下着だよ。俺らが今もお前を殺さない理由はそれだよ。お前は何かリブニアにとって重要な人物だったんじゃないか?」
僕がリブニアにとって重要な人物? ありえない。
僕の中に唯一残されているのは、あの女の子への思いとリブニアへの恨みだけだ。リブニアと聞いた瞬間、こんなにも激しい怒りが湧いてきたのだ。
「僕のリブニアへの恨みは本物のはずです。こんな僕がリブニアの重要人物とは思えません」
「嘘はついていないんだよな?」
そういうと男は僕ではなく、お姫様とは別のもう一人の少女に話しかけた。
少女は小さくうなずいて、
「はい」
と返事をした。
少女の声は弱々しく、とても緊張しているようだった。
こんな少女に聞いたところで僕の言葉が信用されるなんて思ってもいなかった。
しかし、男はその弱々しい言葉を信用した。また僕の言っていることを信じてるようだった。
僕にはわからないがこの少女はこの男を信用させるだけの何かがあるらしい。
「じゃあ、お前は記憶を失っていてるがリブニアを恨んでいる。しかし、リブニアについて何も知らないというのだな」
「はい」
そう言うと男は少しの間考え込んだ。
「……嘘ではないらしいが、どうにも怪しい。姫様、申し訳ありませんがここでこやつとはお別れです」
「やめなさいガウェイン!」
「いいや、やめません!」
その刹那。男、いやガウェインと呼ばれた男は自らの腰から剣を抜き、僕に襲いかかってきた。
彼からは本物の殺意が感じられた。
は? やばい、死ぬっ!
そう思った瞬間、僕はいつの間にか自分の腕を突き出し何かを唱えていた。
「フレア!」
僕が「フレア」と唱えた瞬間、僕の手から棒状の炎を飛びだした。
炎はまっすぐガウェインにまで伸びていき、ガウェインに触れた瞬間、炎はガウェインを包み込んむ。
「っあ! 」
炎に包まれたガウェインはとっさに後ろに飛んだ。
ガウェインが腕をあげると、腕の先に水の塊ができた。
そして、ガウェインが腕を下ろすとその水の塊はガウェインに降り注いだ。
そうして、ガウェインは自らを渦巻く炎を消化してみせる。
僕には何が起きたが理解できず、呆然としているとガウェインが立ち上がった。
やばい。殺される。
そう思った瞬間。
「やめなさい! ガウェイン!」
お姫様が僕の前にふさがり庇ってくれた。
「いえ、もうそいつを殺そうなどとは考えません。いや、殺すなんてもってのほかです。そいつは明らかに私を超える逸材。リブニアへの恨みは本物。このガウェイン、こやつを養子として我がアベル家に招き入れたい!」
ちょっと何言ってるかよくわからなかった。