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ノーン物語〜記憶のない復讐〜  作者: さ上
第1章 軍人学校篇
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ランキングテストその②

 クラスのみんなは疲労困憊という様子だった。

 ただでさえ筆記試験で疲れていたのに、魔法量の八割を持っていかれるのはさすがにつらいだろう。

 僕は八割になる前に満点を取ったから、余裕だけど。


 僕が帰るころにはほかの四人も教室に戻っていた。


「おっ、有名人のお帰りじゃん」


 アクトルがそんなことを言う。

 

「アクトル、急になんだよ」


 急に有名人なんて照れてしまう。


「あなた、もう学校中で有名よ。謎の編入生が装置壊して満点取ったって噂になってるわよ」


 もうそんな噂が回っていたのか。

 人数が多いと噂が回るのも速いな。

 

「謎の編入生って大げさだな。それに、ここに来る途中別に誰からも声をかけられなかったぞ」


「それは当たり前ですよ。この学校には二万人の生徒がいるんですから。ノーンさんが編入生だってわかる人が少ないですから」


 なるほどな。

 みんな僕の顔を知らないし、知らない顔があってもこの学校じゃ普通なんだったな。


「そんなことより、みんなはどうだったんだ?」


「みんないつも通りですね」


「アグラヴェインも満点だったのか?」


「ああ、そうだな。今までで一番楽に満点が取れた」


 今までで一番楽……。

 アグラヴェインはまだまだ成長の途中なのだろう。


「ところで、実技テストはいつから始まるんだ?」


「まだまだよ。今から三時間休憩してから」


「三時間も? えらく長いんだな」

 

 流石に三時間は長くないか?


「そうね~。あなたみたいな余裕で満点の人にはわからないかもだけど、普通の人はもっと休みたいくらいなのよぉ~?」


 僕がそんなを言うと、ワクナがわざとらしく嫌味を言ってきた。

 ワクナは可愛いから、それも別にいやじゃないが。

 断わっておくが、僕が変態だからというわけではないぞ。


「悪い悪い。それで今から三時間、みんなは何するんだ?」


「とりあえず食堂に行きましょう」


「何食堂に行く?」

 

 アクトルがそんなことを言う。


「何食堂? どういうことだ?」


「ああ。この学校は広いから、寮エリアには何個も食堂があるのよ」


 はぁ、本当にすごいな。この学校は。


「そういえば、ノーンは寮エリアにはまだ行ってなかったな」


「そうだな」


「ノーン、寮エリアはやばいぜ。あれは街だ。そこら辺の村よりよっぽどでかい」


 街か。

 二万人も人がいればそうなるのか。


「それに、食堂は学生なら全部タダなのでお金の心配もありませんしね」


「全部タダ!? そんなんで経営は大丈夫なのか?」


「大丈夫だからやってんでしょ。国の運営でやってるんだから軍事費用みたいなもんなんでしょ」


「そうそう、しかもそこそこ高い学費払ってるからな」

 

 学費か。

 軍人になるにはやはり、そこそこいい家に生まれないといけないんだな。


「はいはい、金の話はもうなしだ。ノーンの編入祝いも兼ねて早く食堂に行くぞ」


「おっ、そういうのいいじゃんアグラヴェイン」


「そうね、アグラヴェインにしては気が利いてる」


「一言余計だ。わかったらさっさと行くぞ」


 アグラヴェインがそう言うと、僕たちは寮エリアに向かった。

 アクトルの言った通り、寮エリアはまさに街だった。

 

 入り口のマップによると、寮は全部で四階建てのものが各学年一つずつ、計六個ある。

 また、その六個が三つずつの二列にわかれその間に三つの食堂がある。

 さらに、その奥には学校エリアとは別にグラウンドが一つと、その周りに四つの訓練場があるらしい。


 これは王都の半分くらいに匹敵する広さなんじゃないのか?

 実際に歩いてないからまだわからないがそんな感じだ。

 

「広すぎるだろ……」

 

 思わず声が漏れてしまう。


「ああ、俺も初めてここに来てこのマップを見たときは度肝を抜かれた」


「ここに来てしばらくは寮エリアの探索だけで休日が何日も潰れたよな」


 何日もかかるのか、僕がここに慣れるのにも時間がかかりそうだな。


「寮エリアの案内は夜にでもしましょ、私おなか空いちゃった」


「俺も腹減ったし、そうしよ~」


 その後、僕たちは食堂に向かった。

 とりあえず、食堂の構造は全部同じらしいので一番手前の食堂に入った。


 食堂は側面ガラス張りのドーム状で二階建て。

 各フロア、外側に八か所のカウンターがあり、内側や外側のカウンターじゃないところなどに机やいすが置かれている。

 広すぎて、中で待ち合わせなんかしたら確実に会えないだろうな、と僕は思った。


 僕たち五人は席を確保し、カウンターに並んだ。


「ノーンは初学食だけど、何を食べてみるの?」


「いや、何があるかもわからないし今回は適当に選ぶよ」


「それならいいのがあるな」


「なんだ? 教えてくれ」


「今日のおすすめという品がある。悩んだら大抵の奴はそれにする」


「六年も同じ食堂だと、結構被るんだよ。だから、結構悩んじまうんだ」


 なるほどな。

 六年もここにいたらそうなるよな。


「じゃあ、今回はそれにする」


「夜はせっかくだしちゃんと選んでみなさいよ。ここの食べ物は結構おいしんだから」


「ああ、そうさせてもらうよ」


 僕たちは昼ご飯を食べた後も、試験まで食堂で時間をつぶした。


 その間、アクトルとアグラヴェインに実技の内容を聞いた。

 戦士志望の千八百人は四十人いる試験官のうち好きな一人を選び、一対一で戦う。

 その際のルールとして、攻撃魔法は禁止。

 また、試験官が終了を告げるか、どちらかがしりもちをついた時点で試験は終了。

 そこまでの戦いを試験官の独断で点数をつけるらしい。

 また、四十人の試験官にもランクがあり、高得点を狙いたいならランクの高い試験官のもとに試験を受けに行かないといけない。

 しかし、高得点を狙いに行ったが、すぐに返り討ちに合い悲惨な点数をつけられることもよくあるらしい。

 自分の身の丈に合った試験官を選ばないといけないということだそうだ。


 魔法量が満点だった僕は、アグラヴェインやアクトルと同じ最高ランクの試験官を受けてみることにした。


「魔術師志望の私たちとはここでお別れね」


「ああ、二人も頑張って」


「ノーンさんも頑張ってくださいね」


「ありがとう、パルテノペ―」


「パルテノペ―ちゃん、俺は俺は?」


「はい、アクトルさんとアグラヴェインさんも頑張ってくださいね」


 パルテノペ―が少し微笑みながら言った。

 それを聞いたアクトルも満足そうな表情をしている。

 魔術師志望の二人とはいったんここでお別れだ。


「しゃあ! じゃあ、行きますか」


「おうっ」


「ああ、僕たちでトップを独占だ」

 

 僕たち三人はトップの試験官がいる会場に向かった。


          ***

 

 会場にはすでに三十人くらいの生徒が集まっていた。

 他に比べて少し少ないが、アグラヴェイン曰く、ここに来るのは相当自分に自信がある奴だけらしい。

 つまり、ここにいる奴らが僕のライバルたちだ。


「俺がここの試験官のダニエルだ。早速だが、堅苦しいのはなしで一人ずつかかってこい」


 ダニエル先生がそう言うと、一番前に並んでいた奴が立ち上がった。


「十八組、ノエル・シモンです。よろしくお願いします!」


「よし、かかってこい」


 ダニエル先生がそう言うと、ノエルはダニエル先生に向かっていく。

 二人とも肉体強化魔法をかけているので、動きが早い。

 ノエルは積極的に攻めているが、ダニエル先生が軽くあしらってしまう。

 しかし、ノエルもここに来るだけのことはあり、ダニエル先生に反撃のスキを与えない。


 ノエルが攻め、ダニエル先生がしのぐ。

 この攻防がしばらく続いた。

 しかし、勝負は一瞬でついた。

 ダニエル先生が戦いの途中にいきなり加速したのだ。


 今までノエルの攻撃を避けることなく、払うことに専念していたダニエル先生がノエルのパンチを体の右半身を反転させることで避ける。

 その瞬間、ノエルに一瞬のスキができ、ダニエル先生はそれを機に懐に入り込み、ノエルを突き飛ばした。

 後方に数メートル飛んだノエルはたまらずしりもちをついてしまう。


「ノエル、前のテストよりは成長していたぞ」


「はい、ありがとうございます」


 ノエルはその場から離れ、ダニエルはその間にメモを取っていた。


「なぁ、アグラヴェイン。どうしてあの教師は一瞬であんなに加速したんだ?」


「ああ、あれは戦闘の途中で肉体強化に使う魔法量を戦闘中に増幅させたんだ」


 あれ? ちょっと言っている意味が分からない。


「どういうことだ?」


「お前、肉体強化魔法について何も知らないのか?」


 そんなことも言われても、最初から肉体強化はできたからろくに勉強していない。

 仕組みなんてさっぱりだ。


「恥ずかしながら、使えるんだが仕組みは何もわからない」


「はぁ!? なんで仕組みもわからずに肉体強化できるんだよ!」


 アクトルが大声をあげて驚く。

 その声にみんなが反応する。


「ちょっ、あまり大声で言わないでくれ。聞かれたら恥ずかしいだろ」


「聞かれたら恥ずかしいというか、そんなこと言っても誰も信じないぞ……」


「まぁいい、俺らの番まで肉体強化魔法について軽く教えてやる」


「すまない」


 それから会場の隅の方に行き、肉体強化魔法について二人に聞いた。

 とりあえず、使い方はわかっていたので応用を聞いてみることにした。


 聞いた話をまとめると、肉体強化の強度はその魔法量に依存するらしい。

 多くの魔法量を使うとその分、肉体の強度が増す。

 具合的には、攻撃力・防御力・素早さの三つが強化される。


 普通は肉体強化魔法を自らにかけるときに、魔法量を設定しその最初の魔法量をかけ続ける。

 しかし、 訓練すれば戦いの間にも魔法量を調整し緩急をつけたり、魔法量を温存できるとのことだ。

 ちなみに、そんなことができるのはこの学校の教員の中でもそう多くないらしい。

 それができるということは、さすがトップランクの試験官ということだ。


 大体聞いた話はそれくらいだ。

 後はまた今度教えてくれることになった。

 説明を受けているうちに他の大体の生徒は試験を終えてしまったようだ。


 途中、一度だけ歓声で会場が沸いた。

 なんと、一人の生徒がダニエル先生にしりもちをつかせたらしい。

 そいつの名前はルーカン。

 この学校の首席だ。

 ルーカンは試験が終わるとつまらなそうに会場を去ってしまった。


「じゃあ、俺もそろそろ行くわ」


 アクトルが立ち上がり、ダニエルのもとに向かう。


「七組、アクトル・デュメイです。よろしくお願いします!」


「よし、かかってこい」

 

 ダニエルの言葉にあわせて、アクトルは肉体強化魔法を自らにかける。

 アクトルもノエルと同様に積極的に攻める。

 だが、アクトルはノエルより少し上手のようだ。

 魔法量の調節によって緩急をつけることはできないが、フェイントを織り交ぜることによって相手をかく乱させようとしている。


 しかし、ダニエル先生は甘くなかった。

 フェイントと判断して見切るをつけるのがうまい。

 結局は狙った攻撃を確実にあしらわれてしまう。

 ノエルよりは健闘したものの、アクトルもダニエル先生の加速の前には何もできずにしりもちをついてしまった。


「あ~あ、やられちまった」

 

 アクトルが悔しそうにこちらに戻ってきた。

 しかし、アクトルは健闘した方だろう。

 他の連中よりは長く戦えていたはずだ。


「前より良くなっていたと思うぞ」


「俺はそういう慰めがきらいなんだよ、アグラヴェイン」


「そうだったな。じゃあ、次は俺が行かせてもらう。最後は謎の編入生とやらに残してやろう」


 そう言うと、アグラヴェインも試験を受けに行った。


「アグラヴェイン・アベルです。よろしくお願いします」


「アグラヴェインか。俺も本気を出さねばな。よし、かかて来い」


 アグラヴェインは肉体を強化し、ダニエル先生に襲い掛かる。

 アクトルたちとは違い、ヒットアンドアウェイ戦法で落ち着いて相手のスキを窺う。

 おそらく、アグラヴェインもルーカン同様、ダニエル先生を倒すつもりなのだろう。

 ダニエル先生も、アグラヴェインの攻撃をあしらうだけでなく反撃を試みる。

 何度かアグラヴェインは吹き飛ばされそうになったが、しりもちはつかずに何とか持ちこたえた。


「いいぞ、アグラヴェイン。今までより格段に成長している」


 ダニエル先生がアグラヴェインを褒めるがアグラヴェインはそれに答えない。

 ここぞとばかりに攻め入った。

 その攻撃に対し、ダニエル先生は肉体強化の強度を上げ加速し、アグラヴェインに反撃を仕掛ける。

 ここまでかと皆が思ったその時だった。

 アグラヴェインもダニエル先生ほどではないが加速し、その攻撃を受け流す。


 アグラヴェインも魔法量の調整に成功したのだ。

 しかし、ダニエル先生は攻撃が受け流されるなり、さらに肉体強化の強度を高めアグラヴェインに反撃する。

 これにはアグラヴェインも反撃できずにしりもちをついてしまった。


「よくやったぞ、アグラヴェイン。わずかだが、魔法量の調整ができている」


「はい、ダニエル先生のご指導のおかげです。ありがとうございました!」


「ああ、よくやった」


 ダニエル先生がそう言うと、会場のみんなは拍手でアグラヴェインを称える。


「さ、次はお前の番だぞ。ノーン」


 アグラヴェインが戻ってきて僕にそう言った。


「ああ、行ってくるよ」


 僕は首席になるんだ。

 少なくとも今以上の戦いを見せてみせる。


「ノーン・アベルです。よろしくお願いします」


「噂の編入生だな。いちいち説明もいらないだろ、かかってこい」


「はい、行かせてもらいます!」


 僕はそう言うと、ダニエル先生に攻めかかる。

 僕は意識して肉体強化していない。

 基本的に思い描いた通りに体を動かせる。

 まずは普通に襲い掛かる。

 しかし、ここで馬鹿正直に攻めるだけじゃ他の連中と同じだ。

 僕は一度攻撃を払われると無理に追撃せず、一度距離を取った。


 一度深呼吸する。

 ある程度距離を取ると、自分が加速する姿を思い浮かべる。

 攻めたてるプランを立てたら、もう一度攻撃を仕掛けた。


 今度は攻めると見せかけて一度フェイントしかける。

 ここだ。

 ダニエル先生にフェイント読まることを承知で僕はフェイントを仕掛ける。

 プラン通り、フェイントは読まれていた。

 ダニエル先生は次の攻撃に備えようとする。

 しかし、ここで僕はイメージ通り加速してみる。

 

 その瞬間、会場から「おお!」という声がちらほら聞こえた。

 どうやら、肉体強化の調整が自然とできたようだ。


 ダニエル先生はたまらず、攻撃をガードする。

 これが僕のプランだった。

 しかし、僕はあまりにもうまく行き過ぎていたようだ。

 ダニエル先生が一瞬焦った顔をしたと思ったら、アグラヴェインの時とは比べ物にならないレベルでダニエル先生は加速し、僕の攻撃を避けた。


 ここで終わるならまだよかっただろう。

 しかし、焦ったダニエル先生はそのまま僕に回し蹴りをしようとしてきた。

 顔面直撃コース。

 食らったら、まずしりもちでは済まない。

 やばい! と思ったその時だった。


 僕は自分でも意識していないレベルで加速し、ダニエル先生の回し蹴りをしゃがむことで躱した。

 そして、焦ったのはダニエル先生だけではなかった。

 僕も同じだった。

 その感覚はガウェインさんに殺されかけたときに似ていた。


 僕は回し蹴りを躱されたことにより、スキだらけのダニエル先生の懐に下から入り込む、そして僕はあのときのように異常な速さで攻撃魔法を発動させた。

 

「リトルブラスト」


 僕はダニエル先生のあごに手を添え、攻撃魔法をおみまいする。

 リトルブラスト、火の攻撃魔法と風の攻撃魔法などの攻撃魔法を組み合わせて使う爆撃魔法の基本魔法だ。

 基本魔法と言っても爆撃魔法は攻撃魔法の中でも上位のものだ。

 学生で撃つことができるのは魔術師志望くらいだろう。

 本来、戦場では爆撃魔法の中の上位のものを魔術師が戦士に守られながら時間をかけて発動させる。

 それが爆撃魔法の使い方のセオリー。

 

 しかし、僕は接近戦でそれを用いた。

 爆撃魔法は上位のものだと効果範囲が広く、接近戦で使え割れることはまずない。

 けど、リトルブラストは効果範囲が狭い。

 それを撃った僕は何のダメージを受けなかったがダニエル先生はなかなかの重傷だ。


「早く医療班を呼んで来い!」


 叫んだのはアグラヴェインだった。

 

 その後、医療班がダニエル先生を保健室に運び、何とかダニエル先生は意識を取り戻したようだ。

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