初めての教室
「ま~た、私とアクトルはアグラヴェインと同じクラスね」
「結局、俺とワクナは六年間同じクラスか」
ワクナと呼ばれた女の子はどうやらアグラヴェインとはずっと同じクラスらしい。
ワクナは僕の初めて見る赤髪で、その艶のある綺麗な赤髪を後頭部の上の方を一つにくくりあげている。
彼女が動くたびにワンテンポ遅れて、ゆらりと髪の毛が揺れる。
髪が揺れるたびいい匂いがした。
身長は女性の中では高い方だろう。
スタイルが良く、見とれてしまう。
「アクトルとは二年連続か」
「そうだなぁ~。最後の学年くらいクラス代表なりたかったけど、お前と一緒じゃそれも無理になっちまうよ」
「譲ってやろうか?」
「やめてくれよ。こっちが惨めになる」
そう言うとアクトルはアグラヴェインの肩を軽くたたいた。
アクトルは少し細いが筋肉がしっかりしている。
背も僕やアグラヴェインと同じくらいか少し低いぐらいだ。
クラス代表になりたいということはそこそこの実力者だろうか。
「ハハハッ。まぁ、今年は俺が学年トップになるつもりだからな。クラス代表は俺がやるよ」
学年トップ?
これは聞き捨てならないな。
「悪いがアグラヴェイン、首席には僕がなる」
いきなり会話に入るのには緊張したが、これは譲れない。
急に会話に入った僕に他の三人は困惑した。
「なんだよなんだよ、好戦的だねぇ? で、君誰?」
「アグラヴェイン、あんたの友達?」
「ちょっとこいつは置いといてくれ、それよりも俺はそっちの子を先に紹介してほしい」
アグラヴェインはもう一人の女の子を指さす。
その子はふんわり柔らかな茶髪が肩のあたりまで伸びている。
背は低いが胸が比較的大きい。
見ていて癒される、かわいらしい女の子だ。
「なんだよ、アグラヴェイン。はぐらかされると余計に気になるじゃんか」
「いいじゃない、アクトル。楽しみは取っておきましょ。紹介するわ、この子はパルテノペ―。魔術師希望よ」
「よろしくお願いします。アグラヴェインさん」
「ああ、よろしく」
「じゃあ、アグラヴェイン。早くそいつを紹介してくれ」
「待ちなさいよ、アクトル。まだ、パルの紹介が全然できてないじゃない」
「私はいいですよ、ワクナちゃん。私も彼が気になりますし」
「パルがそう言うならいいけど…」
「じゃあ、紹介させてもらおう」
そう言うと、アグラヴェインはおほんとわざとらしい咳ばらいをした。
「こいつはノーン。ノーン・アベル。俺の生き別れの兄弟にして、この学校初の編入生だ!」
3人は目を見開いて驚いた。
「マジかよ……。何から驚けばいいかわからねぇぞ」
「ほんとよ。パル、あなた先に紹介されといてよかったわよ」
「はい、ノーンさんの後じゃ紹介されにくかったでしょうね」
三人は相当驚いているようだ。
「ほらな、俺の言った通りだっただろ?」
「俺の言った通り、じゃないわよ。詳しく説明しなさい」
「アグラヴェインが言ったことのまんまですよ、ワクナさん」
僕が答えた。
「そのままって、本当にそのまま?」
「はい、全部本当ですよ? 嘘にしたらアグラヴェインはバカすぎます」
「アグラヴェインはバカなんだけどね……。まぁ、それもそうね。よろしくノーンさん、私のことはワクナでいいから」
「あっ! 俺も俺も! 俺はアクトル。よろしく。俺のこともアクトルでいいから」
「はい、よろしくお願いします。僕もノーンで構いません」
「敬語もやめて、パルと違ってそういうタイプでもないんでしょ?」
「いや、敬語で話すことも多いよ。でも、そうさせてもらう」
「私もよろしくお願いしますね、ノーンさん」
「うん、よろしく。いつでも呼び捨てにしてもいいからね」
「……はい」
僕がそう言うと、パルテノペーは急に顔を赤くしてしまう。
何かまずかったのだろうか。
「あれ、ノーンってちょっとプレイボーイだったりする? いいじゃん、いいじゃん! 俺と気が合うじゃん」
アクトルは何かに察したらしく、なぜか僕をからかった。
「別にそういうわけじゃないでしょ。それに、アクトルはプレイボーイじゃないんだから見栄張るな。パルもいちいち照れないの」
「「はい、すみません」」
なんだ照れていたのか。
正直、めちゃくちゃかわいいじゃないか。
「呼び捨てにしていいよ」は今後とも活用しよう。
それにしても、アクトルはあれだな。バカだな。
こんな奴がクラス代表狙ってたのか。
笑わせる。
キーンコーンカーンコーン!
キーンコーンカーンコーン!
やばい! 警報だ!
学校全体に警報がびびき渡った。
何か起きたのだろうか?
「みんな! 警報だ! 早く逃げないと!」
「は? 何言ってるの、ノーン」
「ふふ、ノーンさんって面白いんですね」
笑われた。
なんでだ、なんで誰も逃げようとしない。
普通パニックで学校が大混乱になるはずだ。
ここの連中は鍛えられすぎているのか。
警報くらいでビビる僕は割られるのか?
こいつらは僕の思っている以上にたくさんの修羅場を潜り抜けてきたというのか!?
僕があまりにも焦った顔をしているので、他の四人がなんだか心配している。
「もしかして、ノーンはチャイムを知らないの?」
切り出したのはワクナだった。
チャイム? なんだそれ。
「授業の始まりと終わりの合図ですよ。ふふふっ、まさかチャイムの説明をすることになるなんて」
「天然すぎだぜ、ノーン」
アクトルが腹を抑えて大爆笑する。
こいつに笑われるのは異様に腹が立つな。
僕はアクトルの足を蹴ってやった。
「いてっ! なんだよノーン、悪かった悪かったから」
そう言いながらアクトルは必死に笑いをこらえようとしているが、全然こらえられていない。
もういい、無視だ無視。
「はーい、みんな席について」
イスメネ先生が教室に入ってきた。
「先生が来ましたし、とりあえず座りましょうか」
パルテノペ―がそう言うと四人は席に座る。
そういえば、僕はどこに座ればいいんだ?
「なぁ、アグラヴェイン。好きな席に座っていいのか?」
「ああいいぞ、とりあえず俺の隣にでも座れ」
「ああ、わかった」
僕はアグラヴェインの隣の席に座る。
「はい、みんな席に着いたわね。今日から七組の担任になったイスメネです。みんな、一年間よろしく」
「「「「「しゃあーーー!!」」」」」
イスメネ先生が挨拶をするとクラスの男子が活気ついた。
「あの美人教師が俺らの担任!」
「退屈だった学校生活に希望の光が見えてきた」
「教師と俺の禁断の恋が始まるんだな!」
なるほど、イスメネ先生は男子から人気があるらしい。
確かに、イスメネ先生は美人だし男子から人気が出てもおかしくないな。
ちなみ、最後のはアクトルだ。
「ハイハイみんな落ち着いて。私が担任だからってそんなに喜ばないの」
どうやら、ちょっと先生も調子に乗っているようだ。
「今日はランキングテストがあるから、みんな頑張るようにね」
「なぁアグラヴェイン、ランキングテストってなんだ?」
「名前の通り、ランキングを決めるためのテストだ。筆記と魔法量測定、最後に戦士志望と魔術師志望に分かれて実技テストがある」
「筆記と実技テストはともかく、魔法量も測れるのか?」
「ああ、測れるぞ。ちなみに、筆記は二百点満点、魔法量は三百点満点、実技は五百点満点の計千点だ」
魔法量を測れるのか、なかなか楽しみだ。
ランキングにかかわるなら、本気でいかないとな。
「あと、このクラスには編入生がいます。ノーンくん、前に来てもらえる?」
イスメネ先生に呼ばれたので、僕は前に出る。
「ノーン・アベルです。よろしくお願いします」
とりあえず、軽く頭を下げて挨拶してみる。
百人近くの人に見られると緊張する。
みんな、僕が編入生ということに驚いているようだ。
ひそひそと話し声も聞こえる。
「学校初の編入生ということでみんな、思うところもあるかもしれないけど仲良くしてあげてね」
「「「「「は~い」」」」」
流石はみんな大好きシスメネ先生。
先生の鶴の一声で、クラスの男子は静まり返えり、自然とひそひそ声もなくなった。
「じゃあ、みんなランキングテスト頑張ってね~」
そう言うと、先生は僕を前に残して教室から去ってしまう。
それと同時にクラスのみんなが僕のもとにどっと押し寄せた。
質問攻めにされて、ぼろが出ないか心配だったが、大抵はアグラヴェインの兄弟だというとそっちに食いついて僕が学校に来た理由も何となく勝手に察してくれた。
アグラヴェインの生き別れた兄弟だということも、ガウェインさんの愛人の息子と言ったとたん、みんな僕のことを同情しながら軽く肩をたたいてくれた。
このクラスは結構優しい奴らが多いらしい。
ある程度経つと、みんな自分の勉強があるからと僕から離れていった。
「お疲れ様」
みんながいなくなると、ワクナが僕のところに来てくれた。
「こっちに来て私たちと勉強しましょ」
おお!
誘いに来てくれたのか!
「ありがとう。お邪魔させてもらうよ」
「いいのよ、別に。私たち、あなたが気に入ってるんだし」
ワクナは僕をほかの三人のいるところに連れていってくれた。
「お疲れ、ノーン。お前、いきなり人気者じゃん」
「おっノーンのお帰りか、軽く範囲を教えてやるからこっちに来い」
「わかったありがとう」
軽く出題範囲を確認する。
「もうすぐテストですけど、いきなりで大丈夫ですか?」
「あっ、うん。これなら大丈夫そう。これくらいなら知り合いに教えてもらったから」
実際、このあたりの理論魔法学なら何とかなりそうだ。
これなら、もうすでに習ったことばかりだ。
「知り合いに教えてもらったって、魔法は軍人以外が学ぶのは禁止よ? あなた別の国から来たの?」
ああ、そういえばそんなルールがあったな。
向こうでは、軍に入るために養子になったから別にどこで学んでも一緒だろってガウェインさんに言われて勉強してたけど、これって言ってもいいんだろうか。
「ああ、それなら―――」
キーンコーンカーンコーン
僕が説明しようとしたら、ちょうどチャイムが鳴った。
「あ~~、もうチャイムなっちゃったじゃない。いい、ノーン? 後で詳しく聞かせてもらうから」
「ああ、別に構わないよ」
別に話しても大丈夫だろう。
養子だってことをうまく隠せば何とかなる。
「じゃあ、いっちょかましますかぁ」
「皆さん、頑張りましょうね」
アクトルとパルテノペ―が席に着く。
「ああ、頑張ろう」
俺に合わせて僕も自分の席に着く。
よし!
編入生の実力とやらを見せてやるか。
僕の第一回ランキングテストが始まる。