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ノーン物語〜記憶のない復讐〜  作者: さ上
第0章
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アラン・サランドラスの実戦講座

 この一か月はあっという間に過ぎてしまった。

 この一か月で、ついに理論魔法学の勉強を終え、ここ数日はアランさんに実戦での戦い方を教わっている。

 

 華麗に魔法をぶっ放してみたいのだが、魔法を実際に戦闘中に使おうとしても撃ち出すまでの隙を与えてもらえない。

 魔術師ではなく神剣使いになるものには、いかにして速く、かつ正確に魔法を使えるかが重要らしい。


 神剣は魔法量を高めて、魔法の威力と使用回数を増やしてはくれるけど、魔法の上手さを高めてはくれないとのことだ。


 僕は今、落ち着いた状態でも中位魔法を使うのに5秒。上位魔法に関しては十秒以上かかる。

 ガウェインさんの攻撃をしのいだときは、中位魔法である ”フレア” を一瞬に撃ち出すことができたが、意識してあれぐらいの速さで撃つことはできなかった。


 軍人学校を卒業するだけなら、魔法を撃てるだけでいいのだそうとか。

 しかし、それだと軍人になったとき、ろくに隊に入ることすらできない。


 スウィッツ王国は大・中・小の三種類の隊があるらしい。


 まず、大隊は3つあり、そのそれぞれに一人ずつ神剣使いの隊長がいる。

 ちなみにガウェインさんは一番隊隊長だ。


 大隊は7つの中隊からできていて、その中隊のそれぞれに一人ずつ隊長がいる。


 そして、その中隊は九個の小隊からできている。


 小隊は一つちょうど四百人。もちろん、小隊にも一人ずつ隊長がいる。


 戦闘は基本的にこの小隊が基本単位となり、小隊ごとに行動することが多い。


 しかし、小隊はぴったし四百人と決められていてこれより増えることはない。


 小隊の上限が決められているので、かなりの数の兵が今はあふれてしまっているらしい。

 四百人の小隊が百八十九個あるので、約七万五千人の兵が隊に配属されているが、三万人近い兵士は小隊にも配属されず学校よりもハードな訓練を続けている状態だ。


 ちなみに、この小隊制はガウェインさんが考えたらしく、兵士を待機させるようにしたのもガウェインさんの考えらしい。

「弱いものは兵士になることすらできない」

 これがガウェインさんの口癖らしい。

 あんまり本人と話したことがないのでわからないが……。


 この一か月間もガウェインさんはほとんど家に帰ってこなかった。

 どうやら、宮殿の快適さに慣れてしまうとなかなか帰るのが辛いらしく、帰りたくないのだそうだ。

 シャロットさんもガウェインさんに合わせて、宮殿にずっといるがたまに僕の顔を見に来てくれた。

 軍の構造もシャロットさんから教わったものだ。

 

 話を戻すが、僕が軍人学校の首席になるには魔法を使いこなさないといけないらしい。

 今の首席は強さだけならすでに小隊の隊長に匹敵してもおかしくない逸材で、次席であるアグラヴェインもそれに近い実力があるらしい。例年はこんなことはなく今年は化け物ぞろいらしい。

 

 彼らは十七歳にして、この国に百八十九人しかいない小隊長にも引けを取らない実力があるということだ。

 つまり、僕はそんな奴らに勝たないといけない。

 

 そいつらを倒すべく今もアランさんに直接、実践を教わっているわけなんだが……。


「遅いっ!」

 

 魔法を撃とうと伸ばしていた腕を払われ、そのまま胸を強く押され僕は後方に飛ばされてしまう。


「ごふっ」


 もろに背中から地面にぶつかり、そのままの勢いで後頭部も地面に強くぶつけてしまった。

 痛みが後頭部に集中し、頭の中がクリアになり強く目が醒めるような感覚が僕を襲った。


「はい。これで六十二回目ね」


 そう言いながらエレイン様は木の棒で地面に印をつけた。

 

 そうだ、僕はすでに今日だけで六十二回もアランさんにぶっ飛ばされている。

 しかし六十二回も飛ばされて、僕はまだ一度もアランさんに魔法を撃ちこむことができていない。

 僕は天才だとこの数か月言われてきたが、まったくその予兆が見られなかった。

 誰だ、僕が天才なんて吹き込んだ奴は。全然そんなことないじゃないか。


 実際、アランさんと実践形式で稽古をつけてもらってこれで五日目だが、まともに攻撃できたのは一発パンチをおみまいしただけだった。


 実をいうと、そのパンチもガードされてすぐに反撃されている。

 魔法なんて、撃たせてすらもらえなかった。


「立ってください、ノーン様。それじゃあ、首席になるなんてまだまだ先ですよ。明日には学校に行くんですから、少しでも私から盗めるものを盗んでください」


 そう言うとまた、アランさんは僕に向かって走ってきた。

 僕は体勢を立て直そうと立ち上がろうとしたが、アランさんはすでに間合いを詰めていた。

 間に合わないと判断した僕は、そのままの体勢でアランさんの足を魔法で攻撃しようと構えた。

 が、その瞬間、アランさんは一気に加速し僕の懐に入るなり蹴りを入れてきた。

 魔法を撃とうとしていた僕はガードが間に合わずまた吹き飛ばされた。


「六十三回目っと」


 エレイン様が慣れた手つきで地面に印をつける。

 今回は比較的きれいに受け身が取れたので、それほど痛くはなかったが、さすがに六十三回目となると心のほうが折れてしまう。


「また攻撃魔法を撃とうとしましたね? ノーン様」


「はい。たちがる時間がないと思ったので」


「はぁ。それはあなたが自身に肉体強化魔法をかけていないからですよ。戦闘中は常に肉体強化魔法をかけていないとまともに戦闘はできませんよ」


「でも、アランさんもいつも肉体強化してるわけじゃないですよね?」


「今はあなたに合わせているだけです。私も本気で戦うときは常に強化魔法をかけますよ」


「でもそれじゃあ、魔法量が途中で尽きてしまうんじゃ……」


「攻撃魔法を撃たなければ、案外持ちます。それに、魔法量が足りていたとしても、戦闘中に何秒も攻撃魔法に使う時間がないことはこの数日で身に染みてるはずです。発動までに一秒以上かけているようでは、すぐに防がれてしまいますから」


 発動までに一秒……。

 僕はまだ、初歩の攻撃魔法ですら発動まで二秒はかかる。それにそんな初歩の攻撃魔法じゃ、普通に殴ったほうが効果があるかもしれない。

 

「まだまだ僕には先の話ですね。発動までの一秒で効果のある魔法を僕はまだ撃てません」


「何言ってるのよ、ノーン。ガウェインの攻撃を防いだときは、腕が上がるころにはもう、中位魔法を撃てていたじゃない」


 確かにエレイン様の言うとおりだ。あのときだけは、この国最強の男に攻撃魔法をクリーンヒットさせてやることが出来た。それなのに今はお姫様の執事相手にですら一発も撃ち出すことができない。


「そうなんですよねぇ。どうしてあのときだけはあんなに速く攻撃魔法を撃てたんでしょう?」


「おそらく、それがノーン様の本来の実力だったのではないでしょうか? 記憶を失う前のあなたはリブニアでもエリート学生だったのかもしれないのでしょう?」


ああ……。そう言えばガウェインさんがそんなことを言っていた気がする。あのときは色々あって覚えてなかったが、僕はリブニアの軍人生だったのかもしれないんだったな。


「かもしれませんね。それなら、早く本来の力とやらを取り戻したいものです」


「それもそうですね。ですが、そろそろ日も沈みますし今日はこの辺にいたしましょう」


気づかなかったが、もうそんな時間か。

太陽もすでに半分ほど山に隠れ、オレンジ色の光が辺りを照らし始めていた。


「そうですね。明日もよろしくお願いします。もう、明後日の朝にはここを出発しないといけないので」


アランさんに教わるのも明日で最後。

それまでに僕は少しでも強くなるためのヒントを得ないといけない……。


「何を言ってるのよノーン。明日に出発ならはその準備をしないといけないじゃない」


「いえ、それくらい家に帰ってからにでもすぐにできますし、少しでも早く僕は強くならないといけないので……」


そう言うとエレイン様は呆れた様子でため息をついた。


「あなた、そんな簡単な準備でいいわけないじゃない。一年間も寮生活をするのよ。いくらあなたが良くても、この私が許しません」


 エレイン様は少し怒った様子で腰に手を当てた。


「エレイン様には、申し訳ありませんが僕には本当に時間がなくて……」


実際、本当に時間がないんだ。首席になるためには1日だって無駄にはできない。

エレイン様には、僕のこの覚悟が感じられないのだろうか? これだから、お姫様という奴は男心がわかってない。


「いいえ、私は明日王都へ買い物に行きます。あなたは明日、私とお買い物デートするんです」


は? エレイン様とお買い物デート……?

なんて甘美な響きなんだ。そんなイベントが僕には残されていたのか。

僕の覚悟なんてものはすぐに消え去り、残ったのは可愛い女の子とデートしたいという単純な男心だけだった。


「はい! 喜んでお付き合いさせてもらいます!」


「付き合うのは私の方なんだけどね。じゃあ、明日は10時にここで集合しましょ」


僕が喜んでデートを受け入れると、エレイン様もなんだか嬉しそうに頬を赤らめていた。


 なんて、可愛いんだ。この瞬間を切り取っていつまでも眺めていたい。


「了解しました!」


不甲斐ないことに、ノーン・アベルの意思は弱い。



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