気が付いたら僕には何もなかった
綺麗な、というより可愛らしい女の子だった。
透き通るような白い肌。今にも折れてしまいそうな華奢な手足。腰まである長い黒髪。
まるで幼い妖精のような女の子だと僕は思った。
彼女の顔を見ると、彼女はにっこり微笑んでとても満足気な顔をしている。
僕はそんな彼女を大事そうに、大事そうに抱えて芝生の上で正座していた。
けど、どうして僕はこんな可愛らしい女の子を抱きかかえているのだろう。
その経緯がまるで思い出せない。
いや、それどころか自分が何者であるかすら思い出せない。
けど、この子が僕にとって、とても大切な子だということはなんとなく覚えている。
なぜかわからないが、彼女の顔を見ると今にも泣き出してしまいそうな気持ちになった。
しかし、もう泣くことは出来なかった。
目がかゆくて、喉が痛い。
まるで泣き叫んだ後のようだ。
体中の水分が無くなり、声を出すこともできそうにない。
今まで気がつかなかったが、体中血まみれで何箇所か傷があった。
しかし、傷は大したことはないがその割に体に付着している血の量が異常に多かった。
嫌な考えが思い浮かんだ。
返り血……
もしかしたら僕は多くの人を傷つけしまったのかもしれない。
そのことに気がついた瞬間、とても恐ろしい気分になった。
どうして自分の記憶がないんだ。どうしてこんなにも多くの血を浴びているんだ。
そもそもこの女の子は一体誰なんだ。
わからないことが多すぎた。
怖くて叫びそうになったがそんな体力はもう残されていない。
叫びそうになったことでとうとう体力がなくなり、今まで大事に抱えていた女の子を離して倒れてしまったそのとき。
「早く来てアラン! 人が二人、倒れているわ!」
一人の女の子の声が聞こえた。
とても綺麗な声で、僕の体に優しく馴染んでいくかのように感じられた。
「お待ちください姫様! こんな夜中に人がいるなんて怪しすぎます」
次の声は力強い芯の通った声だった。特に大きな声を出してるわけではないのだが、ずっしりした重みのある声だった。
「女の子もいるのよ! 助けてあげないと!」
「わかりました。しかし、姫様は一旦離れてください。この宮殿に入り込んでいる以上、ただ者ではないはずです」
姫様? 宮殿? わけがわからないが助けてくれるならそれでいい。
誰でもいいからこの子をたすけてくれ。
僕は二の次でいい。
僕は自分のこともこの抱きかかえていた女の子のことも姫様と言われた人のことも何もわからなかったが、女の子を助けたかった。。
だから最後の気力を絞り出した。
「こ……の子を……たすけ……」
結局、最後まで言うことができずに僕の意識はここで途切れた。
一話読んでいただきありがとうございます。
一話ということで、下手くそな日本語で読みづらいかもしれませんがこれからも読んでいただけると光栄です。