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背の高い木々が所狭しと生え、光が足下まで入り込まない鬱蒼とした森の中を四人の男女が道なき道を進んでいた。


パーティーの最後を行く大柄の男は全身を黒い鎧と黒いフルフェイスで身を包み、樹齢100年を越える木の幹のような太くごつい身長よりも大きい黒い両手剣を背に担ぎ立派な装飾を施された同じく黒い大きな盾を携えていた。


パーティーの前の行く背の高い精悍な顔立ちをした女は強い動きやすさを重視した革の鎧を纏い、腰には幾多の用途に分かれた業物と思われるナイフを下げていた。


息を切らしながらも懸命に遅れまいと後を追っている少女は頭に魔女特有のとんがり帽子を被り様々な魔方陣の刻まれたマントを身に纏い、背には大きな純度の高い魔石が埋め込まれた彼女の背丈ほどもある杖を背負っていた。


そんな彼らのなかでも一際目を引くのは鋭い目をした、十代後半程に見える少年だった。


彼は特殊の彫刻もなければ特殊の魔方陣も刻まれてはいない鎧と一見ただの片手剣を身に着けてるように見えるが、それらは明らかに他の彼らとは異質な異常とも思える魔力を纏っているのが感じ取れた。


そんな彼を中心にして進んでいた一行はやがて大きな岩に道を阻まれた。


「これどうする、壊す?」


前を行っていた女、盗賊のリーリエは後ろを歩くリーダーである少年、教会から勇者の称号を与えられたアルバにそう尋ねた。


「障害物など全て壊せ。いちいち無駄なことを聞くな。」


そんなことも聞かねばわからないのかとうんざりしたような表情を浮かべるアルバに対してあくまで飄々とした態度でリーリエは対応した。


リーリエは盗賊のために探索や斥候、奇襲といったものは得意ではあるが岩をこわすなど本来の仕事ではないために、内心ではアルバに毒づきながらも、腰から一本のナイフを抜き取ると、すっと前方の岩へと投げつけた。


岩に直撃すると辺りには爆音と共に焔の柱が巻き起こり、周辺の木々すら纏めて焼き払った。


だが煙が晴れると共に姿を表したのは、道を塞ぐ、壁のごとき岩が残っていた。


この岩が異質であると感じとると共に、自分達のいる土地を考えれば当然だろうと思うとリーリエは後ろに控える大柄の戦士ゴラムに声をかけた。


「この岩は私の攻撃力じゃ無理みたい。ゴラム、代わりにやってくれない?」


リーリエはそう頼むとゴラムに場所を譲り、後ろに下がった。

後ろからこの程度もできないのかと舌打ちが聞こえるが何も気にはしなかった。


ゴラムは無言で頷くと背から両手剣を抜き取ると、上段に構え魔力を練った。


極限にまで魔力を練り上げると鎧と魔力により底上げされたパワーを降り下ろされた大剣は、やはり辺りに被害をもたらすだけで岩に傷がつくことはなかった。


ゴラムはフルフェイスで覆われた顔を無言で横に降り、否定の意を表すと共に、力ではどうにもならないと告げた。


「この程度の岩すらなんとか出来ねーのかよ。」


眼前の岩すら突破出来ない味方に対して盛大に苛立ちを醸し出し始めたアルバをリーリエを無視しながら残る一人の仲間、魔導師の少女、エリザになんとかならないかと尋ねた。


エリザはその問いには答えず、岩に近づきそっと手を這わせると目を閉じ、思考を巡らした。


そしてそれから数分の後、閉じていた目をゆっくりあけ、顔をあげると三人のほうへ向けて声をかけた。


「これは魔力と鉱石を混ぜて作られてる。それに魔力の量も魔術式も尋常じゃないわ。通るにはコードを見つけ出して突破するしかない。」


出来るのかとリーリエが尋ねると、


「恐らく五分五分。時間がかなりかかる。」


エリザはそう答えると岩へと向き合い黙りこむとすぐに作業に取りかかった。


残された三人は特に会話をすることなく各々が好きな所に座り、重苦しい空気が漂い始めた。


それから1時間程が経ち、アルバが苛立ちを隠さずに辺りの木に八つ当たりをし始めたころ、エリザは珠のような汗を浮かべた顔をあげ見つけたと伝えた。


「コードがわかった。これでなんとかなる。」


その言葉に三人は顔を向けると、エリザは一つ頷き操作を開始する。


だが、エリザが操作を終えたと言った岩は先ほどと変わりがあるようには見えずアルバは苛立ちとともにいぶかしんだように吐き捨てた。


「何も変わってねーじゃねーかよ、ほんとに出来てんのか?」


岩を見ながらエリザにそう食って掛かるアルバに対してエリザはこくりと小さく頷いた。


「なんなら普通に岩を殴ってみるといい。」


ゴラムにアルバが岩を壊すように命令をすると、ゴラムは無言で前に進み出ると腕を振り上げ、岩を勢いよく殴り付けた。


それまで傷一つつかなかった岩は何事もなかったように無惨にも粉々に砕け散っていった。


岩により閉ざされていた道が開けると先にはそれほどとはうってかわって鬱蒼としていた森は消え、光溢れる広大な平原と遠くには小高い丘に緩やかな川が流れていた。


「これは……目的地見たいね。」


それまで光すら届かない鬱蒼とした森のなかを歩き続けていただけに久し振りの光に目を細めつつ、リーリエは新鮮な空気に一つ息をつくと目の前のなだらかな景色に心を和ませた。


それまで無表情であったエリザの目にも心なしか喜んでいるような色が見えた。


だがそんな景色など一切眼中にないアルバはズカズカと歩みを進め平原を横切ると共に、あたりを見渡した。


「浮かれてないでさっさと仕事をしろ。お前らにはそれくらいしか能がないだろーが。」


アルバの言葉に肩を竦める動作をしながらも特に気にした様子が見えないまま、リーリエはアルバについて行き、索敵をこなしていった。


他の二人もまた特に何もない様子で後ろを追随していった。


するとほどなくして、リーリエの索敵に人影が引っ掛かり、そちらには一つのこじんまりとした小さな木の家と耕された畑が姿を表した。


「おい、奴が住んでるって言うのはここか?」


そうアルバが尋ねた問いに他の三人からなにか答えられるよりも早くにその答えが出された。


「あら、お客さんかしら?わざわざこんな辺境までご苦労様ね。家の中に招待するから休んでいって下さいな。」


そう言って現れたのは40代程に見える取れたての野菜が入った籠を脇に抱えた村の婦人の服装をした一人の女性だった。


即座に四人は武器を構える、臨戦態勢に入るとその女性に向け、目を細めたアルバが問いかけた。


「お前が例の狂乱の魔女か?70過ぎの老婆と聞いたんだが。どちらにせよお前の首は頂くまでだ。」


アルバの問いには答えず、女性は背を向けると家の方へと歩いていった。


「こんなところまで来るのに疲れたでしょ?紅茶くらいしか出せるものがないけど大丈夫かしら?」


そう言って後ろに笑顔で問いかけると家の前でゆっくりと手招きをした。


興を削がれたといった表情をアルバは浮かべると剣を下ろし、一つ舌打ちをするとなんとなくといった様子で歩んでいった。


他の三人にはそれを諌める権利もなく、何を考えているのかわからないアルバに対してため息を一つつくとリーリエもまた先についていった二人の後を追った。

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