幕間
前話で出てきた主人公の幼馴染の名前を一部間違えていました。
今は修正しましたが、すでに読んでくださっていた皆様、申し訳ありませんでした。
ここはヴォルガラード帝国との戦争を三ヶ月後に控えたエスタシア王国――その王都に存在する王城の一室。そこではこの国の統治者である国王リカルド・フォン・エスタシアが貴族・騎士を含めて、国の中枢を担う役割を持った重鎮達と今まさにその戦争について険しい表情で話し合っていた。
「どうやら帝国が異界より勇者を召喚したと言うのは事実らしいな」
「はい。報告書を作成した者の見間違いでないのだとしたら間違いないでしょう」
「やっかいな……しかも、この報告書の通りなら勇者達が身に付けているのは奴隷の首輪で間違いない……! 外道が! そうまでして王国を滅ぼしたいかっ……!」
リカルドが苦々しい表情で吐き捨てると、傍に控える貴族が口を開いた。
「おそらく帝国の本当の目的は魔人領でしょう。我が国に戦争を仕掛けて来たのはその前準備かと……」
「数百年前の偉人達がようやく手に入れた平和だと言うのに……それが全て無に帰すことになるのだぞ⁈」
「……あの国は建国当初から魔人領への侵略を念頭に置いて発展して来ました。奴隷の首輪の技術が失われたことと我が国の存在が牽制となっておりましたが……奴隷の首輪の復元に成功し勇者を召喚した今、皇帝は躊躇わないでしょう」
「……王国に戦争を仕掛けるのは後顧の憂いを絶つためか……何と愚かな」
リカルドは疲れた様に額に手をやると深い溜息を吐く。
その様子を見た一人の貴族が一歩進み出て、リカルドに控えめに進言する。
「陛下……やはり我々も勇者召喚を行うべきでは……?」
そう進言して来た貴族をリカルドは鋭い眼光で睨み付けると、腹の底に響いて来る重苦しい声で問いかける。
「召喚して……それでどうするつもりだ?」
リカルドに問われた貴族はその眼光に気圧されながらも何とか声を振り絞ろうと口を開くが――
「我らの代わりに帝国と戦えと言うのか?」
リカルドに機先を制され口をつぐむこととなった。
黙り込んだ貴族の様子にリカルドはまたも溜息を吐く。
「異界の住人にとってはこの世界の事情など全く関係がないのだぞ? それなのに見ず知らずの国のために命をかけろと言うのか? そもそも彼等にだって家族や友人、恋人がいるのだ。それを切り捨ててまで戦ってくれなどと言えるものか」
リカルドの言はどこぞの皇帝に聞かせてやりたくなる程正しい物だった。もしこの場に雄二達がいれば拍手喝采が起こったことは間違いないだろう。
勇者召喚を口にした貴族もそれがわかっているのか完全に黙ってしまった。彼とて自分の言ったことがどれだけ理不尽かは理解していた。だが今の王国と帝国の戦力差を鑑みるとどうしても言わずにはおれなかった。彼にとっては国のためを思ってこその発言だったのだ。
リカルドにも彼の愛国心はわかっていたのでそれ以上責めることは言わなかった。
だが、勇者を召喚しないとなると益々王国の勝機は薄くなる。
王国は帝国と違い、国の税金の大半を軍備よりも民がより快適に生活を送るための施策や公共施設などの建設に割いて来た。
その結果、元々の軍事力ですら帝国に劣ると言うのに、向こうには切り札となる勇者がいる。
異界より召喚された勇者は召喚の際に様々な恩恵を授かり、その結果一人一人が一騎当千の猛者と言われる程の力を持つ様になる。
帝国が勇者を何人召喚したのかはわからないが、それが例え数人だったとしても王国にとっては途轍もない脅威となりえるのだ。そんなのが帝国兵と共に一斉に王国に攻め込んで来たらと思うと……そのことを想像したリカルドは頭を抱えたくなる想いだった。
「陛下、よろしいでしょうか?」
リカルドが本当に頭を抱えそうになっていると、室内にいた騎士の中でも一目で上質だとわかる白銀のフルプレートメイルに身を包んだ壮年の騎士がリカルドに発言の許可を求めた。
「……グラハムか。何だ?」
男は一歩前に進み出ると騎士の礼を取る。
王国には国を外敵から守護する軍として第一から第四までの騎士団が存在しており、それぞれの騎士団のトップには四人の騎士団長がいる。そして、戦時においては第一騎士団長が第二から第四の騎士団長を統括し、全騎士団への指揮権を持つ総騎士団長となる。
そして、グラハムと呼ばれたこの壮年の騎士こそが、王国軍第一騎士団団長グラハム・アインバーグだった。
「私は勇者召喚を行うべきと判断します」
グラハムの発言にその場にいた者全員が驚いた。
ついさっき国王自ら勇者召喚の理不尽さと、それを行わない意志を示したというのに、グラハムの発言はそれに真向から異議を唱える物だった。この場にいる者は全員リカルドとグラハムの間にある信頼の強さは百も承知だった。だが、グラハムの不敬と取られてもおかしくはない発言に、二人を見ている者の中でも気の弱い者は顔を青褪めさせていた。
だが、リカルドはみなの表情が強張り緊張が高まっている中、冷静にグラハムの目を見詰めていた。
今までの長い付き合いの中で、リカルドは目の前の騎士が常に王国の繁栄と平和を第一に考え動くことはわかっていた。だからこそ今の発言には何か理由があるのだろうと静かに問いかける。
「勇者召喚はしないと私自ら言ったはずだが……どういうつもりだ?」
「まず、今の王国の戦力では戦争で帝国に勝利することは不可能でしょう」
グラハムがはっきりと王国が戦争で負けると言ったことに眉を顰める者がいたが、国王が黙って聞いているというのに自分達が怒鳴り声を上げて話を中断する訳にはいかなので、開きかけた口を閉じてグッと我慢した。
「さらに帝国は自国の兵に加えて勇者という戦力まで手に入れている。このままでは確実に王国は滅びます。村を焼かれ、民を殺され、全てを奪われる。それが今の王国に待つ未来です」
「そうだな……だが、だから勇者を召喚すると言うのか? さっきも言ったはずだ。彼等には彼等の生活があると。例え我らが滅亡の危機に瀕していると言っても人道に悖ることは出来ん」
リカルドはもうこの話は終わりだという風にグラハムに向けてぴしゃりと言い放つ。
だがグラハムの次の言葉に瞠目することとなった。
「もし、彼等が望んだとしたら?」
「何だと……?」
グラハムの台詞にリカルドだけでなく周囲にいる者達も困惑した。グラハムの台詞はこの場の誰もが全く考えもしないことだった。
「……どういうことだ?」
リカルドはその言葉の真意を探るためにグラハムに問いかける。
「勇者を召喚した際に、我々は決して彼らに戦争への参加を強要しない。あくまで自分から望んだ者のみに戦争に参加してもらうのです」
グラハムの提案に周囲がにわかにざわめくが、リカルドが一言「静まれ」と言うと、それだけで静寂が戻った。リカルドは周囲が落ち着いたのを確認し、視線をウェイバーに戻す。
「勝手に召喚すること自体が問題なのだが……まあ、確かにそれならば最低限彼等の権利を侵害することにはならんかもしれん……だが、わざわざ見ず知らずの国の戦争で命を懸ける物好きがいるとは思えんな」
リカルドの意見に、グラハムの提案を聞いて「それなら」と期待していた一部の者達が落胆し肩を落とした。
だが、グラハムはリカルドがそう返してくることは予想出来ていたのかすぐに反論する。
「勇者である彼等は召喚の際に恩恵を得る。その力はどれもが強力無比と伝えられています。ならば例え戦争に参加したとしても滅多なことで命を落とすことはないはず。そこに加え、戦争に勝利すれば彼等の望む報酬を出すと言えば……どうでしょう?」
「……」
リカルドは腕を組み、目を閉じて考え込み始めた。それはグラハムの意見が一考の余地ありと判断した証。
室内にいる勇者召喚派の者達は固唾を呑みながら、僅かに期待の籠った目でリカルドを見守っていた。
やがてリカルドは閉じていた両目を開き。
「……確かにその条件ならば彼等を召喚することもやぶさかではない」
その言葉に周囲で期待していた者は「おおっ」と湧きあがる。だが、リカルドの次の言葉に彼等は一瞬で沈黙することになった。
「だが……望まなかった者達にはどう対応する? そして戦争が終わった後、彼等が元の世界への帰還を申し出た時は?」
そう、戦争に勝利すればそれで終わりではないのだ。むしろ問題は戦争が終わった後にこそ現れる。特に問題になるのがリカルドが今言った様に召喚された勇者が元の世界に帰還したいと言い出した場合だろう。
この国には勇者を召喚するために必要な儀式の方法が記された資料は保管されている。だが、召喚された者達にとって最も重要であろう帰還のための送還魔法の方法が記してある資料がない。資料自体は存在している。だがその場所は――
「戦争で国力が疲弊した状態で、今度は彼等を帰還させる方法を得るために数百年前に魔人族と結ばれた条約を反故にしてまで魔人領に攻め込むのか?」
リカルドの言う様に送還魔法の方法が記された資料は実は魔人領に存在していた。
元々、王国と帝国が保管している勇者召喚の儀式が記された資料とは、数百年も昔に人族と魔人族による種族間の抗争が最も激しかった頃、強大な力を持つ魔人族との戦争に勝利するために、魔人領に攻め込んだ人族が魔人族に伝わる勇者召喚の儀式が記された資料を奪った物だった。
その際に奪われたのは勇者召喚の儀式ための資料のみで、送還魔法の資料は魔人領に残されたままだったのだ。
当時の人族は完全な性能を誇る奴隷の首輪の製造方法の知識を持っていたため、召喚した勇者を無理やり従わせ魔人族との戦争に大量に投入していた。だが、魔人族の持つ力は人族の予想以上に凄まじく、勇者の力を持ってしても魔人領を制圧することは敵わなかった。
結局、双方の被害が甚大になり、このままでは種の存続に関わるという段階まできてようやく両種族が停戦と互いの領土への不可侵条約を結ぶことで戦争は終結した。
だが、戦争が終結したことで人族の間で新たな問題が発生した。それは今後の魔人族への対応について。
人族の中からは二つの意見が出た。
一つは、『もう魔人族と関わることはせず、ようやく訪れた平和を維持し繁栄させていこう』という意見。
それに対して友人や家族、恋人を失った者達による『人族に多大な被害を出した魔人族を許すことは出来ない。戦力を整えて今度こそ滅ぼすべき』と言う意見に分かれた。
それは個人間の争いに留まらず、ようやく魔人族との戦争が終わったと言うのに今度は人族を二分する争いへと発展していった。やがて二つの主張の代表となる者が現れ、二人が率いた勢力は時を経て王国と帝国という二大国家と呼ばれるまでに至る。その二大国家の土台を築き上げた人物の直系こそが代々に渡り王国と帝国、それぞれの国家の王として君臨して来た。
そして、それぞれの思想の元で異なる道を歩み始めた二つの国家は、大規模な戦争へと発展することこそなかったものの、小競り合いを繰り返し、自国への飛び火を恐れた王国が帝国の魔人領への大規模な進軍を牽制するという一種の睨み合いが続いて来た。
だが、その均衡は現代になって崩れようとしていた。
時代を経る毎に力を蓄えて来た帝国の軍事力と、初代皇帝の思想を受け次いできた先代の皇帝達。魔人領の制圧という、もはや呪いや怨念とも言える意志を受け継いだ現皇帝がついに数百年に及び研ぎ続けられた毒牙を魔人領に突き立てようとしていた。
そのため、帝国は魔人領への進軍の際に、背後を突かれる可能性を消すために邪魔な王国を滅ぼそうとしている。
王国側としては、帝国との戦争に勝利し国力を疲弊させることで魔人領への進軍を阻止したい。
だが、戦力差で劣っている上に帝国は勇者という切り札を所持している。
このままでは間違いなく王国が敗北する。だが、人道に反してまで勇者を召喚することは出来ない。
そもそも勇者を召喚して帝国との戦争に勝利しても、彼等を異界へと送還するためには魔人領に存在する資料が必要不可欠。帝国の魔人領への進軍を阻止するために戦争を行うというのに勇者を送還するために王国が魔人領に進軍しては本末転倒である。
リカルドはそう考えていた。
「戦いを望まぬ者には戦争が終了し、送還魔法の資料を手に入れるまで王城にて好待遇にてもてなしましょう。そして……戦争終了後に我々は魔人領に赴きます」
「だからそれでは――」
「侵略するのではありません」
リカルドの言葉を遮りグラハムは続ける。
「陛下、我々は魔人族との和平を結ぶべきです」
「……!」
グラハムの言った台詞にその場の全員が絶句した。それはリカルドですら例外ではなかった。
それも当然だろう。過去、人族と魔人族は種の存続が脅かされるまで戦争を続けた上でようやく停戦協定を結んだものの、それは互いの種が滅ぶのを防ぐためであって互いに遺恨を残したまま仕方なく終戦を迎えたに過ぎない。さらにそれ以来、数百年の歴史に置いて人族と魔人族は一切の交流がないのだ。
この場にいる者、いや人族全てにとって魔人族とは不倶戴天の敵として認識されていた。
そこに突然魔人族との和平を言い出されればみなが絶句するのも致し方ない。
グラハムの発言から十数秒の時が経ち、ようやく衝撃から復帰した貴族の一人がグラハムを怒鳴り付けた。
「な、何を考えているのだ貴様⁈ 魔人族との和平だと⁈ そんな物結べる訳がないだろう!」
その貴族を皮切りに他の貴族達も次々とグラハムを非難する声を上げる。
「馬鹿も休み休み言え! 奴らは我らの……人族の敵なのだぞ! そんな交渉決裂するに決まっている!」
「何という浅はかな考えを……⁈ 魔人領に赴いた時点で殺されるのが関の山だ! 人族と魔人族の戦争の歴史を知らんのか!」
口々に上がるグラハムへの非難は留まらず、もはや誰が何を言っているのかも判別付かなくなりかけた時、ついにこの部屋の主が口を開いた。
「――静まれ」
それは決して大きな声ではなかった。だが、喧騒で満たされていた室内に不思議な程よく響き、一切の反抗を許さない圧力を持って室内にいる全ての者の脳に届いた。
その結果、グラハムを非難していた貴族たちは軒並み黙り込み、その視線は先程の声の主――リカルドへと集中していた。
「へ、陛下! しかし――」
「静まれと言った」
「……っ!」
まだ何か言おうとする貴族を黙らせると、リカルドは再びグラハムへと視線を向けた。
「グラハムよ……正直に言って私もそれは不可能だと思うが?」
「陛下、私はそうは思いません」
「……何故そう思う?」
グラハムは軽く息を吸い込んでから言葉を続ける。
「陛下は魔人族を恨んでおりますか?」
「はっ?」
グラハムの質問にリカルドは普段なら決してしない様な間の抜けた返事をしてしまった。
周りにいる者も……さっきまでグラハムを非難していた貴族達でさえポカンとした顔をしている。
「……どういうことだ?」
「質問した通りです陛下。陛下は魔人族のことをどうしても殺してやりたい程……滅ぼしたいと思う程憎んでおりますか?」
「いや、それ程までに憎んでおる訳ではないが……」
グラハムはリカルドの返答を聞くと振り返り、室内にいる者達全員を見渡し問いかける。
「この中にどうしても魔人族を滅ぼしたい者はいるか?」
問いかけられた貴族や騎士は、互いに困惑した顔を見合わせながらも答えていく。
「い、いや……別にそこまでは」
「私も……いい感情はありませんがどうしても殺したい訳では」
「そうですな……」
その答えを聞いたグラハムは満足そうに頷きリカルドに向き直る。
「陛下、つまりはこういうことなのです」
「……」
リカルドは黙ってグラハムの話を聞いている。
周りの者はまだ意味がわかっていない様で困惑気味だが。
「人族と魔人族が互いを滅ぼしたい程憎んでいた時代はとうに終わっているのです。確かに過去の時代には彼等と人族の間には血で血を洗う歴史が存在したのでしょう。ですが……それは私達の親や祖父、曽祖父の時代よりもさらに遡った遙か昔のことです」
「……」
「さらに戦争が終結してから現在に至るまで、人族は魔人族と何ら関わることのない歴史を歩んできました。ならば過去の遺恨も、怒りも、憎しみも……全てはその時代を生きた者達の物。今を生きる我らにとってはただの歴史の一部に過ぎない」
リカルドはまだ何も言わない。目を閉じ、ただ黙ってグラハムの話を己の中で咀嚼している。
グラハムの話を聞いているうちに、何が言いたいのか意味を理解した周りの者達もジッと聞き入っている。
「私達が魔人族に感じる敵愾心はただ歴史がそうであったからに過ぎない。何故なら私達は彼等に何も奪われてはいない。そして……それは魔人族であっても同じことです。ならば……帝国の様な国は無理かもしれませんが、我が国ならば魔人族と和平を結ぶ余地はあるのではないでしょうか?」
「……」
グラハムが話し終わった途端、室内には静寂が満ちた。誰も何も言わない。
そんな時間が数分続いた頃。
リカルドは閉じていた両目をゆっくりと開け、グラハムの目を真っ直ぐに見詰める。
「……もし、魔人族が我らの話を聞かず剣を向けて来たら? さらに交渉が上手くいかないことが原因で勇者たちが反旗を翻したら? 帝国と違って私達には彼等を御する手段はないのだぞ。止められるか?」
「……それに悩む権利は戦争に勝利し生き残ることで初めて得ることが出来ます」
リカルドの言っていることは行きあたりばったりに等しい無責任な物だった。だが、リカルドは瞑目し、僅かに逡巡する様子を見せた後、小さく溜息を吐き――
「……生き残らなければ悩むことも出来んか……いいだろう」
リカルドが口にした肯定の言葉にみなが息を呑む。
「我が国は準備が整い次第、勇者召喚の儀式を執り行う! だが戦争参加への是非は全て勇者に委ねることとする。いかなる事項に置いても勇者に強要することは許さん! もし違反した者には厳罰を下す! すぐに城内全ての者に周知せよ!」
リカルドの宣言後、いくつかの命令を聞いた者達が一礼すると、命令を遂行するため素早く退室する。
「グラハム!」
「は!」
「最終的に私に勇者召喚の判断を下させたのはお前だ。ならば戦争に参加する勇者の面倒はお前が責任を持って見ろ」
「承知しました! ……陛下、ありがとうございます」
グラハムは残っていた者が全員退室したのを確認するとリカルドに向かって深く頭を下げる。
「……構わん。遅かれ早かれお前の意見を実行する以外に王国が存続する道はなかったのだろう」
リカルドは背後にある大きな窓に歩み寄り、眼下に広がる王都の景色を一望する。
「……魔人族との和平か。考えたこともなかったが……場合によっては歴史が動くかもしれんな」
民が生活を営む街並みと、遙か遠くに霞んで見える魔人領と王国との国境線でもある大陸を横断する山脈を眺めながら、リカルドは口の中だけで小さく呟いた。