12 二人で
どうしてこうなった……?
「うっ、うっ……ぐすっ!」
俺は今、地面に仰向けになって横たわっている。
背中には砂利が当たってザラザラした感触が伝わるが、俺の後頭部は引き締まっている中にもしっかりと柔らかさを含んだ、男なら一度は夢見るだろう極上の物体の上に乗せられているためとても気持ちいい。
閉じていた目を開けて空を見ると、そこには赤く泣き腫らした両目から今もホロリホロリと涙を流す白井さんの顔が見える。
……まあ、要するに俺は今、白井さんに膝枕をされているんだが。
もう一度言おう。
どうしてこうなった……?
今から十五分程前のことだ。
白井さんを質問攻めにした俺は、今度は自分のことを話すべく帝国に召喚された当時のことから今に至るまで順に説明していった。
帝国が俺達に行った非道を聞いた白井さんは、帝国に対してそれはもう大層憤慨していた。可愛らしい顔を怒りに真っ赤に染め、眉を吊り上げて激怒していた。
何とか宥め、次に俺が両足を斬り落とされた時のことを話したら、今度は真っ赤な顔から真っ青になって卒倒しそうになっていた。
その様子を見て刺激の強い話をするのが心配になったんだが……本人は教えてくれと言うし、俺もここまで話したのでもう最後まで言ってしまうかと思った。
結局、魔物の体になった理由も話したのだが……。
その話をした直後、白井さんの大きな瞳からボロボロと大粒の涙が滝の様に流れて来た。
その様子を見た俺は突然のことにギョッとして固まってしまった。すると、白井さんは不意に立ち上がって固まったままの俺に近付いて来た。
何をするのかと思っていると――そのまま俺の頭部を自分の胸元にギュッと抱きしめて、わんわん泣き出してしまった。
予想外の事態にどうしようかと途方に暮れていたのだが……白井さんは何を思ったか、地面に正座すると俺の頭部を自分の膝に引き寄せて強制的に膝枕モードに移行。
……そして、今に至ると。
「うっ、ひっく! うう、ぐすん……」
「……」
こういう場合、俺はどういう行動を取ればいいんだ……?
自慢する訳ではないんだが、膝枕なら過去に唯に何度かされたことはある……。だが、女の子に泣きながら膝枕された経験など一切ない。
……と言うか、そんな経験をしたことのある男の方が希少だろう。
白井さんが泣いているのは……まあ、俺に同情でもしてくれたんだと思うが。
それにしたって……まさか魔物の姿をしている俺を躊躇いなく抱きしめて膝枕までするとは思わないじゃないか。……母性にでも目覚めたのか?
いやいや、とにかく、このままでいたらずっと泣いていそうでキリがない。
取り敢えず何でもいいから声をかけるか。
「なあ、白井さん……?」
「……ふあい? ぐすっ、なんでしゅかあ?」
「いや……そろそろ起きてもいいか?」
「ダメですよぉ……」
「……」
……まあ、いいや。俺も久しぶりの人の温もりでホッとするし、このまま話を続けよう。
「この後のことなんだけどな……白井さんはどうしたい?」
「ふえ?」
白井さんは「何が?」と言う風に、ぱちくりと瞬きしている。
その様子を見てつい苦笑が漏れる。
自分でも何故そんなことを聞いているんだと思うが……俺は、目を逸らさずジッとこちらを見詰めて来る白井さんを、どこかボンヤリと眺めながら考える。
最初は俺の元から白井さんを解放する訳にはいかないと考えていたが……今は解放してもいいかなと思っている。
別に白井さんを解放することで俺に利があるからとか、そういうことを考えた訳じゃない。
久しぶりに幼馴染以外の人間の優しさに触れて情が移ったというのもある。
だが、何よりも……俺の話しを聞いて、怒り、涙し、心配してくれる白井さんを見ていたら……俺の都合で白井さんを振り回している今の状況が酷く申し訳なく思えてきた。
一時の情に絆されて、わざわざ自分の身が危険に曝されるかもしれない道を選ぶなんて我ながら甘いとは思うが……一度考えてしまうとそれ以外の道を選ぶことはもう出来そうになかった。
「もし、白井さんが仲間の所に戻りたいって言うなら……俺が近くまで連れていくぞ?」
「……」
白井さんはすぐに返事をせず、口を閉じて考え込んでしまった。
(? 意外だな……? すぐにでも戻りたいって言うと思ったんだが)
そのまま暫く考え込んでいたかと思うと、何か決意した様な表情を俺に向けて来た。
「いえ、私は戻りません」
「は?」
何だと? 戻らないって……じゃあ、どうするつもりなんだ?
何を考えているのかわからずにいると、自分の膝に乗っている俺の顔に自分の顔をグイッと近付けて今日何度目かの驚くべきことを言われた。
「その……霧島君がよければなんですけど……私も、一緒に連れて行ってくれませんか?」
「は……?」
ああ……俺はきっと間抜けな顔を晒しているに違いない。……と言うか、晒している。間近まで迫った白井さんの強い光を宿した瞳に間の抜けた顔をした俺が映っていた。
この人は一体何度俺を驚かせれば気が済むのだろうか。王国の勇者という話から始まって、すでに何度も俺の精神は衝撃に襲われているというのに。
「一応聞くが……何でだ?」
白井さんが仲間の元に戻ることを拒否したのは俺にとっても都合がいい……だが、俺と行動を共にしようと思った理由は聞いておかなければなるまい。
「私は、一緒に召喚された人達を仲間とは思っていません。王国の人達の危機を知っても弱味に付け込んで、自分の立場を利用して好き勝手に振る舞う様な人たちと一緒になんていたくありません。それに……」
そこで一度言葉を切ると、白井さんは嫌なことを思いだした様に表情を歪め――
「もう、あんな目に遭うのは嫌です」
「……」
白井さんが考えているのは俺が殺した男達のことだろう。
確かに、白井さんの話を聞く限りではあの男達以外にも目を付けられないとは限らないからな。
一応王国の騎士達が目を光らせている様だが、それも絶対ではない。現に白井さんはこの森で他の勇者に襲われたのだから。そんな経験をしているのにわざわざ野獣が蔓延る場所に戻りたくはないか……。
だが、他の勇者はともかく王国のことはいいのかと思い、聞こうとしたのだが――
「それに、私が霧島君と一緒に帝国に向かって、帝国に囚われてる勇者を解放するお手伝いをすれば……それは王国を救うことにもなると思うんです」
「何?」
どういうことだ?
「帝国の勇者は奴隷の首輪っていう道具で無理やり従わされてるんですよね? なら、解放さえ出来れば帝国に従う理由はなくなりますし、帝国は戦争で使うはずだった切り札を失うことになります。そうなれば帝国側の優位は覆って王国側の勝機は一気に上がりますから」
「……」
「それだけじゃありません。解放された勇者がそのまま王国側に付いてくれれば間違いなく王国が戦争で勝利することが出来ます。そうなれば、国を救ってくれたお礼に霧島君達が元の世界へ帰るために強力してくれますよ!」
「……」
……素直に凄いと思った。
俺と行動を共にしたいというのは、単に他の勇者と一緒にいるのが嫌だからだとばかり思っていたが……そうではなかった。
勿論それもあるだろう。だが、白井さんは王国のことも、それだけじゃなく俺達のことまで……解放された後に元の世界に帰ることまで考えてくれていた……。
地球にいた頃も肩身の狭い思いをして、こっちに来てもいいことなんて殆どなかっただろうに……器の大きい人だ。
「手伝ってくれるのか……?」
「はいっ!」
真っ直ぐで、一切迷いのない目だ。
……この人なら信じられる。俺は自然とそう思っていたが、最低限の確認は必要だろう。
俺はゆっくり体を起こし、白井さんと向かい合う。
「凄まじく危険だぞ? 捕まれば白井さんも奴隷にされるかもしれない」
「わかっています」
「人を殺すことになるかもしれないぞ?」
「必要なら……私も覚悟を決めます」
「……たった二人で一国を丸ごと相手にするんだぞ?」
「それもわかっています。どうせ、私が戻っても今のままでは王国は間違いなく戦争に勝つことは出来ません。死ぬのがわかっているのにそんな道は選べません」
「残ってる勇者が戦争に参加しても?」
「はい。……おそらくですけど、彼らは戦争が始まっても自分達が不利になったらすぐに逃げ出すんじゃないかと思ってます。元の世界でもこっちの世界でも自分より立場の弱い人ばかりを狙って暴力を振るい、傷付けて来た人達が、例え凄い力を持っていたとしても本当に命を懸けた戦場で戦えるとは思えません」
「……」
「だから、帝国の勇者を解放するしか王国が生き残る道はないんです」
……これ以上試す様なことを聞くのは白井さんに失礼か。
俺は深く息を吐き出しその場に立ち上がる。
白井さんも理由はわからなかったのだろうが慌てて立ち上がった。
「もう余計なことを聞くのはやめだ」
「……」
「どこにいても命の危険があるのは変わらないなら――」
俺は右手を広げて白井さんの前に出す。
「俺に力を貸してくれ」
「はい!」
白井さんも自分の右手を差し出して俺の手をガシッと握る。
この瞬間、王国の勇者と元勇者の魔物、二人の同盟が結ばれた。
「それで……これからどうしましょうか?」
帝国に囚われた勇者を救出するため、同盟を結んだ俺と白井さんは今後の方針について地面に広げた地図を睨みながら額を突き合わせて話し合っていた。
「当初の予定としては帝国に向かいながらレベルを上げて、充分だと思った段階で帝国に侵入して仲間を救出するつもりだったんだ。そこで上流に向かって進んでいたんだが、その途中で白井さん達を見つけたんだ」
「そうだったんですか……じゃあ、このまま帝国に向かうんですか?」
「そのはずだったんだけどな……」
「何か問題が?」
「実は――」
俺は上流に向かって進む程魔物が弱くなってレベルが上がりにくくなっていることを話した。
その話を聞いた白井さんは、顎に人差し指を当てて「う~ん」と考えた後、
「多分なんですけど……それは魔素が原因だと思います」
「魔素?」
何だそれ? 初めて聞くが……。
「私に訓練の指導をしてくれた騎士さん達に聞いたんですけど、この世界の大気中には魔素と呼ばれる魔力を構成する元になる物質が存在するらしんです」
「ほお……」
「それで、私達が魔法を使ったりして魔力を消費すると、その魔素と呼ばれる物質を大気中から吸収して新しい魔力を作り出しているんです」
「成程……でも、それが魔物の強さとどう関係あるんだ?」
魔力の元になるってだけなら魔物とは関係ないと思うんだが?
「実は、この世界に存在する魔物の肉体は全て魔素を元にして構成されているらしいんです」
「そうなのか?」
「はい。霧島君が最初にいたのはこのバロール山脈の割と付近ですよね?」
そう言いながら、白井さんは地図に記されている大陸を横断する巨大な山脈を指さした。
間違いない。俺が最初に目を覚ました時、確かに下流の方にバカでかい山脈が見えた。ここからでも霞んでいるが見えなくはない。
初めて知ったがバロール山脈と言うのか……。
そう言えば……今まで気にしなかったけど、俺ってこの世界の大陸の名前とか地名も殆ど知らないよな。
地面に広げられた地図。その中で今俺達がいる大陸に目を走らせると、大陸の真上に「ファラード」と書かれている。おそらく、これが俺達のいる大陸の名前だろう。
地図の中心、その上端に割と大きく「アトラ」と書かれた文字がある。これはこの世界そのものを示す名前か。
バカでかい地図上には王国や帝国の他にも、かなり規模は小さいが周辺国家がいくつか存在している。
だが、いくつかの小国と国境が隣接しているのは王国だけで、帝国は王国とバロール山脈としか国境が接していない。
大雑把に見ると、バロール山脈を挟んで右半分の大陸を上下に二分割したうちの下側が帝国領で、上が王国領になっている。帝国領は丸の様な四角い様な形をしているのだが、王国領は長辺と短辺の長さが逆になったL字型の様になっていて、直角に曲がった王国領の内側に小国は存在しているのだ。
見かたによれば、王国が帝国から小国を保護している様に見えなくもない。だが、案外その考えは合っている気がする。あんな、戦争だの制圧だのばかり言ってる奴らなら、隣に手ごろな国があれば領土拡大のために侵略戦争を仕掛けそうだ。
王国は帝国に匹敵する大国だったから今まで迂闊に手出し出来なかったんじゃないだろうか。
地図を見て、この大陸の情勢に想像を巡らせながら白井さんの話しに頷いていたのだが――
「この山脈の向こう側が全て魔人領になっています」
「は?」
いきなりサラッと重要な情報が出て来たが……山脈の向こう全部って、大陸の半分じゃねえか。
どこにあるのかもわからなかった魔人領が意外と近い場所にあったことにも驚いたが、その規模にはさらに驚愕させられた。
「それで、この世界にある魔素は魔人領に近くなる程濃度が高くなるそうなんです」
白井さんの知っている範囲でも魔人領のことを聞きたかったが……まあ、いい。そっちは時間のある時に聞こう。今は何故魔物が弱くなっているのか、その理由が先だ。
「魔物の体は魔素で出来てる訳ですから、濃度が高い場所程その肉体を構成する魔素の密度は大きくなるんです。そして、魔素密度の大きい魔物程強力な個体となるそうです」
そういうことか……。
俺の流れ着いた場所はバロール山脈の割とすぐ傍だったから、魔人領程ではないにしろそれなりに魔素濃度が高く魔物も強力だったと。で、上流に向かうに連れて魔人領から離れていったから魔物は弱くなったってことか。
しかし、そうなると……
「計画を変更するべきか……」
「と、言いますと?」
「帝国に向かうのは一旦中止して、一度バロール山脈付近まで戻ってレベル上げに専念した方がよさそうだ。白井さんの話しが確かなら、このまま帝国に向かいながらレベル上げをするよりもその方が遙かに効率がいい」
「確かにそうですね。帝国に向かいながら弱い魔物を倒してチマチマ経験値を稼ぐよりそっちの方がよさそうです。ですが、それなら急いだ方がいいですね。戦争まであと一ヶ月ちょっとしかありません。レベルが充分に上がったら帝国まで勇者を解放しに行って、今度は王国に戻って戦争に参加と。やることは多いです」
王国か……。
「そもそもなんだが……帝国から俺の仲間を解放出来たとして、王国は受け入れてくれると思うか?」
「? どういうことです?」
「いや、王国は自分達が召喚した勇者のせいで逆に被害を受けてる訳だろ? なら勇者に対していいイメージは持ってないよな? そこに、さらに帝国から来た勇者を素直に受け入れてくれるのかと思ってな……。入国を拒否される位ならまだいいが帝国の間諜や斥候だとでも思われて攻撃されたら堪らんぞ」
「それは……」
王国にとってはすでに勇者は碌でもない存在として認識されている。
あの国では先に道理を欠いたのが王国側であるから召喚された勇者は今ものうのうと暮らしていられる。だが、帝国で召喚された勇者は王国にとって何の関係もなく、通すべき義理もない。ならば最悪のパターンの勇者しか知らない王国が、わざわざ厄介者としか思えないだろう勇者をこれ以上自国に受け入れるとは思えん……。
例え王国のために戦争に参加して戦いますと言っても信じてもらえるのか?
それに――
「正直言うと……帝国から俺の仲間を解放して王国が受け入れてくれたとしても、王国側に付いて戦争に参加させるのは反対だ」
「えっ」
白井さんは俺の発言に目を丸くして驚き、慌てて言い寄ってくる。
「な、何故ですっ? 戦争に参加して王国を存続させなければ、元の世界に帰るための協力を取り付けることは出来ませんよ?」
それはわかっている。わかっているが……
「別に王国を見捨てるつもりはない。ただ、仮に戦争に参加したとして……今まで平和な日本で暮らしていた学生が、敵とはいえ簡単に人を殺せると思うか?」
「っ!」
「もし殺せたとしても、その経験が地球に戻った時にどう影響するかもわからないんだぞ? 仕方がないとはいえ人殺しの罪悪感に耐えていつも通りの日常に戻れるか?」
「……」
俺に言われて彼女も気付いたのだろう。険しい顔つきになり考え込み始めた。
この世界に来てからは訓練の過程で普通に魔物を殺していたから忘れそうになっていたが……人と魔物では殺すことの重さが違う。
俺は魔物になったからか特に衝撃は受けなかったが……唯達は違う。人を殺せばその分精神に負担がかかる
しかも、戦争で相手にするのは一人二人じゃなく、何千何万もの人間だ。
しかも、唯達はそれだけの数を相手にしても全員でかかればまともに戦えるだろう力を与えられている。一体戦争が終結するまでにどれだけの数を殺すことになる?
終わった後に唯達はまともな精神状態でいられるのか? 俺は幼馴染が廃人になるところなんか見たくないぞ。ん? 他のクラスメイト? あいつらは……まあ、一応助けるがが割とどうでもいい。帝城にいた時も俺を馬鹿にしていたからな。
「そう、ですね……霧島君の言う通りです。すみません……私、地球にいた頃ではあり得ない様な力を得て戦争という物を軽く考えていた様です……」
「いや、俺の方こそ責める様な言い方をして悪かった。ただ……そのことがどうしても気掛かりでな……」
「いえ……。ですが、そうなると余計に難しい状況になりますね」
「ああ……」
少し整理するか。俺に取っての最終目標は唯達を地球に帰すことだ。なら、そのために必要なのは――
一:帝国から唯達を解放する。
二:戦争で王国が帝国に勝利する。
三:王国に唯達を受け入れてもらい協力を取り付ける。
四:魔人領に行って送還魔法の資料を手に入れる。
大雑把に分ければこうなるが……。
まず、一は当たり前。
とにかくレベルを上げまくって、帝国に乗り込んでも生き残れる位には力を付ける。乗り込んだら……奴隷の首輪を外すには鍵があるはずだからそれを探そう。……鍵の場所に関しては立場の偉そうな奴を適当に拉致って吐かせるしかないか。
二は送還魔法を手に入れる際に帝国が邪魔にならない様に潰しておきたい。その際に唯達は戦争に参加させたくはない。
三は必ずしも必要という訳ではないが……自力でどうにかするには難易度が高過ぎる。魔人領と魔人族の情報を全く持たずに行くのは危険だ。
四は……行ってみないことには何もわからんし、まずは一から三までをどうにかしてからだ。
はあ……やはり元の世界に帰るには一度王国に唯達を受け入れてもらうことは必要になる。だが、唯達に王国に何も貢献させずに受け入れてもらうなんてこと――
「くそっ……!」
駄目だ……! そんな都合のいい方法どこにあるってんだ!
「あの……霧島君、ちょっといいですか?」
どう頭を捻ってもいい方法が思いつかず頭を掻きむしりそうになった寸前、白井さんが険しい表情のまま話しかけて来た。
「……なんだ?」
「上手くいくかはわかりませんが……一つだけ思い付きました」
「本当か⁈」
なんだ⁈ どうすればいいんだ⁈
「あの……今から私が言うのは、とっても酷くて、本当に馬鹿げてて、あり得ない位危険な方法です。と言うか普通死にます。それに……霧島君に途轍もない負担が掛かります。それでもいいですか?」
「ああ、何でもいい! 何か方法があるなら教えてくれ!」
白井さんは一瞬だけ迷ったが、今までで一番真剣な表情になり、意を決して口を開いた。
「わかりました……。それは――」
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「……冗談?」
「……すみません、本気です」
確かに白井さんの提案は、馬鹿げてて、危険で……正気を疑う物だった。
……この人こんな過激派だったのか? 若干遠い目になったわ。
だが――
「それなら……穏やかじゃないが、王国側の心情はともかく形だけは俺の仲間を受け入れさせることは出来るか……」
向こうが素直に納得してくれれば物騒なことにはならないが、最悪の場合は殆ど……いや、完全脅迫だと思う。
「はい。霧島君の話とステータス、この世界の人達の実力を考えて、もしかしたら可能なんじゃないかと思って。それで……王国の勇者なんですが」
「仲間を助けても王国が勇者共のせいで滅茶苦茶にされてたら困るし、王国にとってもすでに害にしかなっていない勇者共は邪魔だ。まあ、話を通しやすくするためにも暫くの間は王国の騎士団に頑張ってもらうとして。その時になったらこっちで始末しておけば王国の面子も守れるだろう」
「はい……。あの、やっぱり私が――」
「いい。その時は俺がやっておく」
「で、でも! 自分で提案しておいて霧島君にだけ負担を押し付けるなんてっ!」
納得がいかなかったのか、白井さんは必死の形相で俺に噛み付いてくるが――
「俺は、もう元の世界には帰れない」
「っ⁈」
「でも、白井さんは違うだろ? さっき俺の仲間が元の世界に帰った時のことを心配したが、それは白井さんにも言えることだ。白井さんの御蔭で仲間を助ける方法と元の世界に戻る手掛かりも得られたんだ。それだけでも充分だ」
「……っ」
白井さんは唇を噛み締めて俯いている。目尻には薄らと涙が溜まっているのが見えたが、前言撤回するつもりはない。
この話はもう終わりだ。また何か言われる前に話を進めよう。
「時間が惜しい。そろそろ移動したいんだが……他に何かあるか?」
「……いえ、特には……あっ! ……えっと、一つだけ……」
「何だ?」
「その……一緒に来てた騎士団の人達が心配していると思うので……一応、私が生きていることを知らせておきたいんですが……出来ますか?」
おずおずと切り出された要望は何というか白井さんらしい物だった。
「ふむ……」
丁度いい機会だ。少し勇者と騎士とやらの実力を見ておくか。今後、俺のレベル上げをする際に必要な基準になるかもしれないしな。
白井さんの話では、今この森にいる戦力は勇者九人に騎士団長一人。それから部下の騎士が十数人。
勇者は今回の実戦訓練でそれなりにステータスが上がっているが、俺には遠く及ばない。
騎士の方は、団長は一番高い項目で1700前後。他の騎士は500~800。半数は小隊や中隊の指揮官クラスらしい。
ちなみに、今来ている団長と言うのが白井さんの話しに出て来たグラハムという男だ。
これならスキルをフルで使えば何とかなるだろう。
「ここに残すのも危険だからな……一応白井さんも近くまで連れて行くが危ないから隠れていてくれ」
「わかりました。……あの、私から頼んでおいてこんなことを言うのもあれなんですが……大丈夫ですか?」
「大丈夫だ」
心配は無用だ。
俺は白井さんの前に屈んで背中を向ける。
「乗ってくれ」
「! は、はい。失礼します……」
白井さんは頬を染めながら、おずおずと俺の背中に乗って来た。そんな表情をされると俺まで恥ずかしくなるんだが……。
「よし、しっかり掴まってろよ」
「はい」
首にしっかり腕が回されたのを確認し、俺は勇者と騎士の元を目指して駆け出した。
次回の投稿は水曜か木曜です!




