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人外勇者の魔調合  作者: 木ノ下
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プロローグ

 不定期更新となりますが、よろしければご覧になってください。



 その日も俺――霧島 雄二(きりしま ゆうじ)はいつもと変わらない日常を過ごしていた。

 俺が通っている学校はどこにでもある普通の公立高校で、今年入学した一年生だ。

 今は一日の最後の授業終了を知らせる鐘が鳴り響き、ようやく退屈な授業から解放されることに安堵の息を吐いていたところだ。

 それは俺だけではないようで、あちらこちらから解放感に満たされた溜息が聞こえてくる。

 この後五分の休憩を挟み、ホームルームで明日の連絡事項を聞けば今日の日程は終了となる。

 ホームルーム終了後にさっさと帰れる様、今のうちに荷物をまとめていると、背後から俺の名を呼ぶ声が聞こえた。


「ユウく~ん!」


 聞き慣れた声と共に背中に感じた軽い衝撃に振り返ると、そこにはニコニコとした笑みを浮かべた女子生徒――源 唯(みなもと ゆい)が俺の背中に抱き着いている姿があった。

 黒髪ロングのおっとりした顔立ちをした美少女で、本人が醸し出す雰囲気と少したれ目なところが優しそうな印象を強めている。だが彼女の中で何よりも目を引くのは、メロンでも入れているんじゃないかと勘違いしそうになるほど自己主張が激しいその豊満な胸だろう。さらに腹部などの引っ込むべき所はしっかりと引っ込んでいるので余計に強調されてしまい、よく周囲の視線を集めていた。

 今も俺の背中と唯の体に挟まれてムニュムニュと形を変えているそれにクラスの男子の視線が集まっている。

 唯が抱き着いて来るのはいつものことなので割と慣れているが、俺も男だ……いい加減背中の感触が気になってきたのでそろそろ離れてもらおう。周囲の男共の視線に殺気が混ざり始めたしな……。


「唯、そろそろ離れてくれ」

「え~っ」

「え~、じゃない。これじゃ話がしにくいだろ。何か用があるんじゃないのか?」


 俺の言葉で本来の目的を思い出したのか、ハッとした様子を見せた後に唯が背中から離れた。

 ……こんなにあっさり忘れていてこの子の脳みそは大丈夫なんだろうか? 学校の成績はいいはずなんだが……。

 そんな失礼なことをつい考えながら身体ごと振り返ると、何かを期待する様な眼差しをした唯が話しかけてくる。


「ユウくん、今日この後暇?」

「特に用事はないけど……」


 俺の返事を聞いた唯は実に嬉しそうな笑顔になり、弾んだ声を出した。


「ほんと! じゃあ、この後学校が終わったら久しぶりにみんなで遊びに行かない?」

「ああ、別にいいけど。ところでみんなってのは……」

「……私」


 皆と言うのは誰のことか聞こうとすると、今まで唯の背中に隠れていたのか姿が見えなかった少女がひょっこりと顔を出した。


「雪か」


 彼女の名は雪白 雪(ゆきしろ ゆき)

 常に眠たげな目と無表情な幼い顔立が印象的な黒髪ショートの、こちらも美少女だ。

 ただ……身長がかなり低い。おそらく百四十センチにギリギリ入っているか入っていないか位だ。本人も気にしている様なので雪の前で身長の話は禁句だ。

 普段からあまり自分から積極的に話すことはしない子なのだが、俺達の様に昔から仲がいい相手にはそれなりによく話す。


「俺達もな」


 雪の相変わらず眠そうな顔を眺めていると、少し離れた所から二人組の男女が近づいて来た。

 この二人も俺にとっては見知った顔だ。

 男子の方は天野 誠(あまの まこと)

 成績優秀、容姿端麗、スポーツ万能という、もはや神に愛されたとしか思えないスペックを持った完璧人間だ。当然ながら女子からは凄まじくモテるので毎月の様に告白されているのだが、こいつは女子から受けた告白を全て断っている。何故かと言えば――


「皆で出掛けるのは久しぶりね」


 誠と一緒に来た少女の方が声を上げる。

 彼女の名は琴峰 鈴音(ことみね すずね)

 茶色がかったセミロングの髪をポニーテールにまとめた活発そうな少女だ。無駄な肉のないスレンダーな体型は同姓の羨望と嫉妬の対象になっている。人当たりがよく、誰にでも分け隔てなく接する彼女は男女問わず人気がある。

 当然の様にこちらも美少女だ。

 そして彼女こそが誠が数々の女子からの告白を断っている理由でもある。

 まあ、ようするにこの二人は恋人同士なのである。

 こいつらは中学の頃から付き合っていて、お互い相手にぞっこん状態なので他には目もくれないのだ。

 ちなみに俺達は全員家が近所で小さい頃からよく一緒に遊んでいた幼馴染だ。


「なんだ、結局いつもの面子か」


 まあ、予想通りではあるが。


「お前ら部活はいいのか?」

「ああ、日曜に大会が終わったばかりでな。今週は疲労回復ってことで休みになったんだ」

「部活が休みならマネージャーの私もお休みってわけ」

「そっか」


 誠は一年生ながらすでにバスケ部のスタメン。鈴音はバスケ部のマネージャーなのだがどうやらしばらくは休みになった様だ。


「んで? どこに遊びに行くんだ?」


 肝心の場所を聞いていなかったことを思い出し、唯に問い質したのだが……。


 キーンコーンカーンコーン――。


「あっ、ホームルーム始まっちゃう! ごめんユウくん、終わってから話すね!」


 タイミングの悪いことに休憩時間が終わってしまった様だ。遊びに行く場所を聞く前に唯は慌てて自分の席に戻って行ってしまった。


「……また後で」

「私達もいったん席に戻りましょう」

「そうだな。また後でな雄二」


 そう言い残すと三人とも自分の席の方に向かって離れてしまった。

 まあ、ホームルームが終わってからの方がゆっくり話せていいだろう。

 俺は窓の外をぼんやりと見やった後、教室内に視線を向ける。

 クラスメイト達は全員席に着いた様でホームルームの担当教師が来るのを待っている。

 少し離れた所に座っている唯はどこかそわそわとしていて落ち着かない様子だ。

 そんなにこの後のお出かけが楽しみなのかとつい苦笑が漏れる。

 そんな幼馴染の姿を眺めながら、俺はぼんやりとこんな平和で何気ない日常がずっと続いて行くんだろうなと思っていた。


 ――この直後、教室内が白く激しい閃光に包まれるまでは。


「は?」


 教室内が光に満たされたと認識した瞬間、俺の意識はふっ、と途切れて闇に落ちて行った。


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