第44話
「いや、だからなんで俺達が拘束されなきゃならないんだ?」
レイガは自分達を囲む商人ギルドに所属する私兵、その指揮官と思われる男に問いかける。
あくまで穏やかに。そうしたいとは思ってはいるが、レイガは冒険者ギルドであったことから立て続けにこんなことがあり、気付かぬうちにストレスを溜めていた。
本当に面倒くさい。いっその事こいつらを全員黙らせてやろうかなどという考えがレイガの脳裏にうかぶ。
レイガは特になにも行動を起こそうとはしていないが、必要ならばほぼタイムラグ無しで刀を抜き全員を黙らせることなどは容易だ。それはハクアも同様。
変な動きでもしようものならこの辺りは血で染まることになるだろう。
まさに一触即発といった雰囲気だ。
なぜ、こんな事になっているのか。
少し時間を遡ってみるとしよう。
◇◆◇◆◇15分前◆◇◆◇◆
〔商人ギルド〕
金貨の山の乗った天秤の紋章。それの描かれた商人ギルドという看板をレイガは見上げていた。
「ここか〜」
周りから見て少し浮いている……白い建物。それこそが商人ギルド帝国本部である。
この帝国本部というのは帝国にある支部の本部ということで、商人ギルドの本部であるというわけではない。というより、基本的に大手ギルド──冒険者ギルド、商人ギルドなど──は本部をとある場所に置いている。そのとある場所についてはいつか話そう。
「いらっしゃいませ。どのようなご用件でしょうか」
ギルドに入り、ロビーを抜け受付へと向かったレイガ達に、受付嬢が声を掛けた。ギルドの顔となるというのもあるのだろうが、国柄かこの受付嬢の容姿はかなり整っている。そんな者に相手をされれば、客の機嫌もよくなるだろう。実際、少し離れたところに居るレイガと同じくらいの年頃の青年はだらしなく顔を緩めている。
一方、レイガはその表情に大した変化はない。というより、この受付嬢レベル以上の女性を見慣れているからだろう。どこぞのストーカー子爵令嬢やら某SSSランク冒険者やら異世界人やら女神やら。流石に女神やらと比べられるのはこの受付嬢が可哀想ではある。
「あぁ、ええと……これをギルドマスターに渡してもらえますか?」
「かしこま……申し訳ありません、これはどちらで手に入れられたのですか?」
「ん、普通に冒険者ギルドで貰ったんですが」
なにやら、嫌な予感を感じながらもレイガはそう返答する。
「なるほど……貰った。奪ったのではなく?」
「は?」
「ですから、他の持ち主から奪ったのではないかとお聞きしているんです」
「いや、そんなわけ無いだろ」
レイガの口調が変わる。
「これはそこらの人間が貰えるものではないんです。それも、貴方のような若い人間が」
「だから、奪ったと?」
「ええ。正直に言ったほうがよいのでは?」
「アホか。なんで進んで冤罪を被らなきゃならないんだ」
「……そもそも、レイガは人間じゃない」
「話がややこしくなるからハクアは黙ってようねー!!」
ボソリと呟いたハクアに軽いチョップを食らわせると受付嬢を見る。
「なら、これでいいだろ」
レイガは身分証明たる冒険者ギルドのプレートを取り出し、それを元の形態に戻して提示する。
「SSSランク……流石に嘘もここまでになると滑稽ですね!警備の方、この人を拘束してください!」
提示されたそれを見た受付嬢の反応は上の通り。
そして、最初の状態へと戻る。




