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第20話

「一応訊いておきたいんですが」

「なんだ?」


 子爵邸の廊下を歩きながらレイガは騎士団長に訊ねた。


「えっと、お嬢様?の病気って何なんですか?具体的な症状とか」

「魔力が無くなり全く回復もせず、高熱と吐き気、そして関節痛に痙攣だ」

「ありがとうございます」


 レイガは顎に手を当てて記憶の中から一致または類似するものを探し出す。


「あ、あれか」

「なんだ?」

「いえ、子爵に会ってから話します」










「失礼します、依頼を受けた冒険者を連れてきました」

「ああ、ありがとう。君が?」

「はい、依頼を受けたレイガ・T・ ヴァレンシュタインです」


 騎士団長に連れられ、子爵の部屋へ入ると、中に赤い髪の筋肉質な男がいた。40歳ほどのイケメンである。そして、レイガがチラリと見た手には剣胝があり、相当な強さを持つのだろうと予想が付く。普通なら剣胝があった程度で分かることでは無いが、強者の雰囲気というものがあった。だが、何処か無理をしていそうだとレイガは感じた。今の彼の様子を表す言葉として一番有効なのは悲壮感だろう。


「そうか。では依頼の説明をしたいからヴァレンシュタイン君、座ってくれ」


 レイガはその言葉に従い、ソファに座る。

 騎士団長は子爵の後ろで控えている。


「まずは自己紹介をするか。

 俺はヨハン・カルマート・フォン・スカルハと言う」


 この世界の貴族の名乗りは「名・姓・フォン・領地」となる。しかし、「フォン」を付けるのは当主とその妻、嫡子のみで他の者は「ツー」を付けて名乗ることになる。また、準男爵や騎士等の準貴族は「コル」を付ける。


「依頼内容は娘の治療又は治療薬の材料または治療薬自体の手配だ」


 ヨハンは手を組みながら言う。

 レイガはそれを「机のところで口を隠してそれをやったら完全に某シンジの親父みたい」と思いながら口を開いた。


「【急性魔力霧散体異常死血症】」

「え?」

「恐らくですがそれがお嬢様を苦しめています」

「……」

「【急性魔力霧散体異常死血症】、通称【魔死症】。症状はまあ、最終フェーズ直前まで行ってるので、分かるでしょう。はっきり言ってお嬢様は長くないです。そして、最終的に身体中から血を噴き出して死に至ります」


【急性魔力霧散体異常死血症】。

 その名の通り発症した者の魔力を霧散させ体に異常を起こす病である。だが、病とは言っても元は魔力過多等の魔力障害からの派生であるため、感染はしない。しかし、その影響はかなり大きく発症すれば100%死に至る。そして、治療法は魔力の異常などを治すしかないのだが……


「……それが、ソフィーを苦しめているのだな。治療法は?」

「実現可能な範囲では無いです。普通は」

「なっ!それじゃあソフィーは!」

「落ち着いてください。普通はと言ったでしょう。やろうと思えば簡単ですがとてつもなく難しいんですよ」

「すべて教えてくれるか」

「ええ。

 まず、一番簡単なのは神話級治癒魔術を二週間休まず掛け続け、同時に体内の少ない魔力を活性化させ安定、そしてゆっくりと回復へという感じです。

 まあ、簡単とは言っても不可能です。もっと言えばお嬢様は末期なので間に合いません。

 次に簡単なのはエリクサーですね。まあ、調薬や魔術薬作成スキル等レベル8以上の者がいなければ造れませんし、材料も知られていないので不可能です。

 そして、最後は龍薬を造ることですね」

「龍薬?」


 レイガは人差し指を立てて言った。

 ヨハンは困惑した表情で聞き返す。


「はい。

 材料も名前もほぼ知られていません。

 まあ、材料を言うと【聖光龍の涙】【聖光龍の血】【聖光龍の爪粉】【エルダーマンドラゴラ】【神託の聖水】【神水】【聖龍酒】【神酒】【霊草】【魔龍草】【生命草】【煌めきの華の蜜】【エリクサー】が必要です。他にも作成に【聖光釜】【聖龍焔】【光龍焔】等が必要です」

「……ふ、不可能だ…。【霊草】はまだ用意できるかも知れないが……他のは全て神話や伝説にしか。それに聖光龍様のものなど……」


 レイガの言った材料を聞いてヨハンは声を震わせる。それほどまでに材料がデタラメな価値なのだ。さらに多くの国で信仰される【聖教】の聖書に出てくる一対の守護龍の内の一体【聖光龍】の素材など集めようものなら教会に殺害される。体内に含んだらなんて知れたら監禁され実験体となる。


「だから、普通はって言ったでしょう?秘密を守るなら治せるんですよ、俺が」


 そんなヨハンにレイガが声を掛ける。


「ほ、本当か!?」

「はい。さあどうしますか?」

「守ろう!秘密を守ることを誓う!」

「良いでしょう。それじゃあ此方を」


 レイガはそう言いインベントリから青い液体の入った繊細な装飾の施された瓶を取り出し、一緒にナイフの【龍雅】を取り出した。


「これが龍薬の完成一歩手前の品です」

「手前?」

「最後の仕上げがまだなんですよ。しかもそれは使用する直前の方が良い」


 レイガは瓶の蓋を開けると、龍雅に魔力を通し自分の指先を切った。そして、瓶と中の龍薬に魔力を流し、指先から出る血を龍薬へと落とした。


「な、何を」


 その様子を見てヨハンが困惑する。

 そして、そんな反応とは裏腹に龍薬は一度光ると青から赤色へと変わった。


「完成です」


 そして、レイガの声が響いた。

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