第17話
「さて、戻るか」
レイガは焼肉のために創った竈を消し去ると、残っている100本ほどの虎肉串をインベントリに収納した。しかし、それでもあたりには美味しそうな匂いが漂っていた。
「グルゥ」
「やぁ、冥雅。起こしちゃったか?」
「グルゥ」
レイガが宿の厩舎に行くと、冥雅が小さく鳴き声を上げた。レイガがその様子を見て、声を掛けると、冥雅は首を横に振り、答えた。
そんな冥雅にレイガはインベントリから虎肉串を取り出すと、鋭い嘴の前に持っていった。
「食うか?」
「グルル」
冥雅は嬉しそうに一鳴きすると、肉を食べ始めた。というより、一口で全部食べた。レイガはそれを見ると、暫くの間肉を与え続けた。
「ふぁ、ちょっと早いけどギルドに行くか」
レイガは愛刀【龍天仇桜】の手入れを終えると呟いた。備え付けのテーブルの上には【龍神の革鎧】が置かれている。
レイガはベッドから降りると、戦闘服(といってもあまり変わらない)を着て、テーブルに近付き、革鎧を装備した。そして、ベルトと一体になっている剣帯に刀を装着してから【深淵の外套】を着る。レイガ曰く、コートの下に鎧を着けるのはキ〇トの中層スタイルらしい。確かに言われてみれば圏〇事件の時や、クリスマスイベントの時は着けていた気がする。
というより、レイガはそのスタイルを基にして装備を造っていたのか。驚きの新事実である。
レイガはそのまま右腰にポーション類を装備し、部屋から出ていった。勿論、部屋の中には何も残っていない。盗みにでも入られたら大変だからだ。
ギルド前。
レイガは冥雅を連れて、ギルドへとやってきた。そして、冥雅をギルド前に待たせると中に入った。これが後に面倒事を起こすともしらずに。
「うーん、なんか良い依頼はないかな」
レイガはAランクの依頼が掲示されている場所で依頼を探していた。こんな時、起こるのはもちろんテンプレである。
「おぉーい、お前みてぇなヒョロガキが高ランク依頼なんて無駄だぞ。さっさと低ランクの依頼でも受けてゴブリンのエサになってきな!」
「………」
「無視してんじゃねぇ!ぶっ殺すぞ!」
しかし、レイガは完全に無視である。
それにさらにキレるオッサン。気が短すぎだ。まあ、テンプレ噛ませさんならこんなものなのかもしれない。
「おい!聞いてんのか!この餓鬼!」
「………」
「テメェ!」
どんどんヒートアップするオッサン。
レイガはそのオッサンの口臭に顔をしかめる。そして、遂に動いた。
「ガタガタうるせぇな!さっきからしつこいんだよ!中の人ネタをめっちゃぶちこまれるレベルでウザいから一回『黙れや』!」
素晴らしいお言葉である。しかも然り気無く【神言術】を使っているので、オッサンは強制的に黙らされる。
そんなレイガ達に近づく影があった。
それは金ぴかの鎧にゴテゴテした装飾の儀礼剣とでも言うべき剣を腰に下げた男だった。
「貴様がレイガとかいう者か?」
その男はレイガの近くに行くとレイガに超!上から目線で声を掛けた。レイガが男に頷きを返すと男はその整ってはいるがウザい顔にさらにウザい笑みを浮かべて話し始めた。
「本当なら言う必要もないのだが、私は器の大きい男だから特別に言っておこうと思ってな。いいか?あの外にいるグリフォンは貴様のものらしいな。だが、お前のようなものにあれは勿体無い。だから私が貰ってやる。あの様な威風堂々とした王の風格を持つものは私のような高貴な人間にこそ相応しいのだ!私のようの適したものにあれが渡ることを光栄におもうがいい!」
テンプレきたぁー。
まさか、オッサンが噛ませのための噛ませだったとは誰が予想しただろうか。恐らく、殆どのものが噛ませ乙~とか思っていたところだろう。しかし、彼は噛ませ以上に可哀想な噛ませだったのだ。
と、話がそれた。
「用件はそれだけか?」
レイガが感情を圧し殺した様な声で問う。
男はレイガの口調に眉をひそめると、
「まったく、餓鬼の冒険者というのは言葉遣いも礼儀もなっていないな。だが、まあ許してやる。それと、その問いにかんする答えだがその通りだ!」
ずいぶんと偉そうな言葉で答える。
「そうか、なら良かった。じゃあ、こっちも言っとかねぇとな。テメェの様な者に冥雅を渡すわけがねぇだろ。それに高貴な者?はっ!人の従魔を奪おうとしてる時点で乞食と変わらねぇよ!いや、乞食以下だ。生きるのに必死な者と自らのちっぽけなプライドと自尊心を満たすためにやる者を一緒にしては彼らに失礼だからな。取り敢えず、分かったら今すぐ自殺するか、冥雅の事は諦めて俺らに二度とちょっかい出さないことを神に誓ってお家に帰ってクソして寝ろ」
そんな男にレイガはマジ威圧を掛けながら言う。その証拠か、レイガは銀のオーラを纏いそれらが迸りスパークしている。レイガが初めて見たとき思わず『超野菜人みてぇ、いやワル〇レの方が近いか?』と言った状況である。
「な、何だ、ヒィ!」
レイガを切りつけようとしたのか、男が剣の柄に手を掛け、声をあげようとしたが、レイガの威圧に今さら気付き、レイガのゴミ虫を見るような目を見て完全に恐怖し情けない声を上げて、尻餅をつく。そして、鎧の隙間から水がでてきた。
「男の放尿とか誰も得しねぇよ」
その光景を見ていた誰かが思わず、口にする。周囲の者もみな同調するように頷く。自分達に威圧を向けられていない為の余裕である。因みにこれは男の冒険者だが、女の冒険者や受付嬢はレイガの目を見て、ハアハアしている。
「はあ、あの冷たい目で見られたい!ハアハア」
「あの冷たい口調で罵られたい!ハアハア」
「あ、濡れてる……ハアハア」
受付嬢たちは変態の集まりのようだ。
しかも、一人だけヤバイのが居た。
「ちょ、ちょっとトイレ行ってきます!」
「私も!」
「私もトイレで果ててきます!」
やはりヤバイのがいる。
「おら!さっさと帰れ!」
「ひ、ヒィぃ!」
レイガの怒声を受けて男は情けない姿で扉から出ていった。その後に残ったのは男の汚い尿と、ハアハアしている受付嬢達、男が嫌いだった冒険者達の小さな歓声だった。
「あ!レイガさん!支部長が呼んでるので来てください!」
そんな時、聞き覚えのある声がした。
レイガは声の方へ歩いていくと、少し話をして支部長室へ向かった。




