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教科書

杏奈にボールペンを投げつけた後、彩夏にも八つ当たりをしてしまった柚月。

モヤモヤしたままの道徳の授業、他の人の教科書を使うことに。その教科書は奏でのものだった。驚きながらページをめくると、あるものを見つけてしまう。


結局わたしは、ネコのストッキングに短パンという無難な服装に決めた。

「はああ」

勢いよくベットに飛び込み、枕に顔をうずめる。

「いぎだぐないよお〜」

できることなら、映画になんて行きたくない。好きな映画は今上映しているが、内容なんて頭に入らないだろう。だって…



杏奈にボールペンを投げつけたわたしは

「あんなこと、言わなきゃよかった!こんなKYに!」

と言って、トイレに駆け込んだ。

昼休みの時間だったことが、幸いだった。30分間の休み時間だから、みんな騒いでいて、このことは誰も気づいていないだろう。

「柚月!出てきて!柚月」

声からして、彩夏だった。 彩夏にだけは今の顔を見られたくなかった。

「…何番目のトイレ?」

「…3番目っ」

声の震えを聞かれたくなくて、強い口調で言ってしまった。

「柚月、あんなことって何?そのことと、映画に伊吹と奏が来ることが関係するの?」

声が近くで聞こえる。

「彩夏には、関係ない」

「え、でも、奏のことはあたしは関係ありでしょ」

「…杏奈に、奏と付き合う前、何か言われた?」

「いや、別に…」

驚きで声も出なかった。

とびらを開け、

「本当に何にも言われてないの?」

肩を勢いよくつかむ。

「う、うん」

もう、裏切られているとしか、考えられなかった。

「彩夏は…伊吹のこと好きなんじゃないの?」

目があつい。

「え、急になに。あたしは奏と付き合っているんだから、伊吹のことなんて好きじゃないよ。

伊吹だって杏奈と付き合っているんだから、ありえないよ」

涙がにじんで視界がぼやける。

「っ…奏の事なんて好きじゃないでしょ」

昼休み終わりのチャイムが鳴る。

彩夏の肩を強く押して、トイレを出た。


「次道徳やります。教科書配ってください」

5時間目は道徳だった。そんなことはどうでもいい。それよりも、卒業前に親友の彩夏に、八つ当りをしてしまったことが気がかりでならない。

でも、八つ当りじゃない。彩夏も悪いんだ。奏も。

「あ、やっぱいいや。時間ないからてきとうに配って自分の教科書じゃなくても使って下さい。読むだけだし、いいでしょ。」

伊吹も悪い。杏奈も悪い。いやだ。友達が全員憎たらしくなる。

自己中心的。空気読めない。男好き。ビッチ。八方美人。二股女。女たらし。浮気男。

「はい。柚月」

確か、自分のじゃない教科書でも、使えって言っていたはずだ。誰のだろう。汚れもなく、きれい。

ー 瀬尾奏ー

「へっ⁉︎」

驚きのあまり、思わず声が出てしまった。

「なに?誰だったの?」

前に座っていた女子が振り向く。まさか、「奏の事好きだから」なんて言えない。

「奏のだった。なんかもっとボロボロかなって思ってたんだけど、きれいだからびっくりしたー」

「どれ?うわ、あたしよりきれいかも」

奏は男子なのに机の中がきれいだ。余計なものは入っていなくて、きちんと整理されていた。

きれい好きなのだろうか。

「教科書開いてー」

奏でのことを考えていると、午後の暖かさにまぶたが下げってきた。

「5時間目道徳ってヤバイわー」

「みんな寝てるしね」

「俺も寝るわー」

眠くならないようにしゃべっていた隣の男子も教科書をたてに机に突っ伏している。流石に今私も教科書たてたら、先生に怪しまれる。寝ないようにとひたすらページをめくっていると、鉛筆の文字が目に入った。

ームリ。絶対教えない

ー瑞樹から教えてよ

ーえ!マジかどこが好きなの?

ーイニシャルでいい?

バタンッ

「ん?どした?」

勢いよく教科書を閉じ、音を立ててしまった。

「ごめん。なんでもないよ」

「寝てんだから静かにしろよなー」

「はいはい。」

平常心を装ったが、内心はドクドクしていた。

この話って好きな人の話だ。話がとびとびだから、お互い自分の教科書に返答を書いたのだろう。だとしたら、イニシャルでいい?の次の言葉は…

ー好きな人のイニシャルー

見たい。いつ書いたのかはわからないけど、彩夏と付き合ってからは今日が初めての道徳。

だから、付き合う前ー私と付き合っていたときか、別れた直後ーに書いたのは確かだ。

知りたい。君の本意を。

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