ボールペン
わたしはこんなにも優柔不断な人間だったのだろうか。
その日、わたしは何度も鏡の前に立った。黄色いスカートをはいてみたり、ジージャンを着てみたり。
甘々コーデは気がひけるし、ロックな服装は似合わない。
明日は、友達3人と映画を観る約束をしていた。3人とも気をつかわず居られる友達なので、普段ならジーパンにパーカーといった服装でいいが、明日は違うのだ。
わたしは一週間前に親友の彩夏に映画に誘われた。もうすぐ卒業だったので、同じグループの友達も誘い、4人で行くことになった。
「映画を観るついでにプリクラもとろうよ」
「あーいいね。だったらゲーセンにもいくんでしょ?」
「どうせなら、そこの駅から電車に乗って行こうよ」
「金がねえ。お父さんにねだろう」
こうやって予定を立てている時間はとても楽しい。休み時間のたびに集まって、ここも行きたい、そこも行きたいと話しているうちに、 次の日には「映画を観る」だったのが「駅前周辺で買い物、そして映画」まで膨れ上がった。 そうやって立てた予定も、楽しければ楽しいほど、終わる時間がはやい。一瞬で「楽しかった思い出」だ。小学校生活が一瞬で終わるように。
「じゃあ、10時に駅前集合!」
「おっけー」
決めたことをメモしていると、前に座っていた杏奈が何も書いていない。杏奈はグループの中で一番しっかりしていて、こういうときにはテキパキ決めてくれる。
顔をあげると、杏奈がキョロキョロとあたりを見まわしていた。
はっきり言おう。わたしは杏奈が嫌いだ。その理由はいくつかあるけれど、一つはキョロキョロしているときだ。たいていこの時は、伊吹のことをさがしている。伊吹は杏奈の彼氏だ。彼女が彼氏の姿をみるのが苛つくというわけではない。杏奈は伊吹を見つけると目が合うまで見続けて、目が合うと笑い合うのだ。
それも、にこにこというよりは声に出して。少女マンガだったら2人の間にはピンクのきらきらした空間があるだろう。
これだけを聞いたら、ただわたしが2人を妬んでいるように見えるだろう。確かにわたしは誰とも付き合ってはいないが、2人のことを妬んではいない。
2人は3週間ほど前に寄りを戻した。以前も付き合っていたからか、初々しさは全くない。手をつなぐのも、ハグをするのも普通のようだ。だからか、友達としゃべっていても、伊吹と目を合わせては笑い合っているし、大切な時間を友達ではなく、彼氏に費やしているのだ。わたしたちは予定がなかなか合わないから、みんなが暇なときは貴重な日なのに。それに、よく2人でアイコンタクトをしているから、クラスでは浮き気味だ。だから、みんなからうらやましがられるようなカップルではない。
わたしが呆れていると、
「なに笑ってんの?」
彩夏がにやけながら言う。
「どうせ伊吹だろ」
「違うって!葵はいっつもそうやって」
そう言った後、杏奈はもう1度伊吹の方を振り返ると、
「彩夏、ちょっと来て」
と言い、トイレで話し始めた。
残されたわたしたちは、わざと伊吹の方を見ながら
「葵、反対しような」
「映画は4人で行こう。絶対押し通そう」
わたしはいろんな意味をこめて伊吹を軽く睨みつけてやった。
「柚月、葵。相談なんだけど、伊吹たちも映画一緒に観ていい?」
わたしは葵に、目でほらねと言った。
「今回はうちらだけで行かない?せっかく予定合ったんだし。4月にはバラバラになるかもしれねーじゃん」
「それはそうなんだけど…伊吹ともバラバラになるかもじゃん」
手に握っていたボールペンを投げつけたい気分だった。どこまで杏奈は伊吹を優先するつもりなんだ。でも、卒業間近に喧嘩をすることは伊吹も交えて映画に行くことよりも嫌だった。
わたしは勢いよく椅子から立ち上がり、
「杏奈と伊吹は付き合っているんだから、クラスが離れても会えるでしょ。でも、わたしたちはちがうんだよ」
杏奈にそう言った。座っていると、つい投げてしまいそうだったから。
「杏奈はいいの?お前らだけカップルだぞ」
葵は、口は悪いくせに、相手を気遣ってしゃべれる。でも、オブラートな言葉の裏に本意を隠して話しているから、気遣われているような気になれないのだが。
「それなんだけど、彩夏もだから。」
ついに手から飛び出た。
ボールペンはわたしの汚い気持ちのように、杏奈に当たって、床に落ちた。
少し自分のことを当てはめて書いてみました。
初めてなので、アドバイス等よろしくお願いします。