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親玉

 缶の大群を切り抜け、斜面を登りきったヴィロサたちは広い丘の上にいた。

「あれが親玉ね」

 丘を陣取るように、巨大な缶が脇から生えている両腕を大きく振って暴れていた。

 その缶の周りを、月夜が鎌に乗って飛び回り、戦っている。

「先を越されてなるものか。ファロ! ヴェルナ! 行くよ!」

「はいはーい」

『おうよ』

 三人は缶に向かって走った。

 ヴィロサとファロイデスが正面から鎌で切りかかる。

「ちょっと! 横取りしないでくれる!」

「落とし穴なんて卑怯な真似したあんたに言われたくないわ!」

「落とし穴に引っかかる方が悪いのよ!」

 ヴィロサと月夜は言い合いながら、缶の親玉に攻撃を繰り返す。しかし、その全てを缶の親玉は手で弾いていく。固そうな外見のわりに、親玉の両腕はヌルヌルと滑らかに動いていた。

「今日のはなかなか手ごわいわね」

 缶の親玉は三人の攻撃をものともしない。

『ここは俺様の出番だな!』

 ヴェルナが缶の正面に陣取った。

『お前ら巻き込まれたくないなら引け!』

「え、ちょ、待って!」

 ヴィロサとファロイデスは慌てて缶の親玉から離れた。

「え? 何?」

 何が起こるか分かっていない月夜だけ、ヴェルナと缶の親玉の直線上に残される。

『くらいやがれ!』

 ヴェルナがコートの正面を大きく割り広げた。

 コートの中はへそ出しタンクトップと短パンという薄着で、いくつものベルトやバックル、銀ボタンで飾られていた。

 そして、コートの内側が無数にキラリと光り、そこから片手で扱えるサイズの鎌が、大量に飛び出してきた。

「キャー――!」

 飛んでくる鎌を見て、月夜が真っ青になる。月夜は自分の鎌を盾にして、その場に縮こまった。

 鎌のいくつかは月夜の鎌にも当たったが、ほとんどは缶の親玉に向かっていった。

 しかし、その全てが防がれる。

「げ、何だあれ」

 缶の親玉からは、両腕の他にいくつもの腕が生えてきていた。最初に生えていた二本の腕と同じように、新たに生えた複数の腕もヌルヌルと動いている。ヴェルナの攻撃はそれに防がれた。

「きゃああああ」

 缶の親玉の近くで蹲っていた月夜が、缶の腕に捕まった。足を掴まれ、逆さまに吊るされる。

「ちょ、離して!」

 月夜は暴れるが、缶の腕は月夜を離そうとしない。それどころか、月夜を振り回し始めた。

「やめてえええ」

 しばらく振り回され、缶の腕が止まった頃には、月夜はぐったりとして目を回していた。

「月夜は脱落のようね」

「早めに助けてあげましょうか」

「気が進まないけどね」

 ヴィロサとファロイデスは改めて缶の親玉に攻撃を加える。

 同時に鎌で切りかかるが、やはり増えた腕ではね返される。

 何度切りかかっても同じで、全くダメージを加えられない。

 ヴェルナの鎌による一斉射撃も効かなかった。

「うーん、全然ダメね。攻撃が通らない」

 ファロイデスが缶の親玉から離れて唸る。

「わわわっと」

 ファロイデスが離れたことで、ヴィロサに缶の親玉の攻撃が集中する。

「くっ」

 ヴィロサは鎌を横に構え、襲いかかる何本もの腕を防いだ。

「これは」

 なんとか全ての腕を弾き返すものの腕の数が多く、ヴィロサは防戦一方となる。

「ちょちょちょっと! これ一人じゃ無理よ!」

 ヴィロサはファロイデスに向かって叫んだ。

「あー、ごめんごめん」

 ファロイデスは缶の親玉の背後から切りかかる。それさえも腕で防がれてしまったが、ヴィロサに攻撃する腕の数は減った。

「これはもう全員同時攻撃しかないね」

「それでこの腕がどうにかなるのファロ?」

「うーん。たぶん?」

「たぶんって何だか心配になるわね。でも、それしかなさそうね。次でいくわよ!」

『おう!』

 ヴィロサとファロイデスはいったん缶の親玉から離れる。

「ヴェルナお願い!」

『いくぞ!』

 ヴェルナがコートを開き、そこから無数の鎌が飛び出す。その後ろから、ヴィロサとファロイデスが続く。

 缶の腕はヴェルナの鎌にかかりきりになり、隙が生まれた。

「ファロ! 中央突破で行くよ!」

「はいはいよ」

 ヴェルナの鎌を相手に踊りくねる缶の腕を潜り抜け、缶の親玉の真ん前に出る。

「いける!」

 ヴィロサが缶のど真ん中に切りかかろうとすると、そこに缶の腕が左右から襲いかかってきた。

「まかせて!」

 ヴィロサのすぐ後ろにいたファロイデスが、両手に持った鎌でガードし、缶の親玉までの道を作った。

「これで終わりよ!」

 ヴィロサは缶の頭から鎌を思い切り振り下ろした。

 缶がぱっくりと二つに割れていく。そして、そこから黒い煙となっていった。

 煙が晴れたそこには、気を失った月夜と手のひらサイズの光り輝く緑色の石が転がっていた。

「ミネラルゲット」

 ヴィロサが緑色の石を拾う。

「さっさと奉納して、お昼ご飯食べよ」

「そうね」

『そうだな』

 三人は天に向かって手を突き出し、同時に叫んだ。

「閉門!」

 三人の目の前に、大きな鳥居が落ちてきた。

 三人がそれぞれの鳥居をくぐり姿が消えると、鳥居も白い煙となり消えていった。

 そして、倒れている月夜だけを取り残し、丘の上は静かな平穏を取り戻した。


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