招集
午前中の授業は終わり、昼休みとなった屋上で、ファロイデスとヴェルナは弁当を食べていた。
空は晴れて雲一つない。暖かな日差しの中、二人は向かい合って座っている。
会話は全くないが、ファロイデスとヴェルナは気にする風でなく、もくもくと弁当を食べる。
そこに、ヴィロサが買い物袋を手に持ってやって来た。
「やっと買えたー」
遅刻ギリギリだったヴィロサはお弁当を忘れ、購買にパンを買いに行っていた。
「もうすっごい混んでてさ」
ファロイデスとヴェルナの近くに腰を下ろし、袋からパンを取り出す。
「さーて、いただきまーす」
ヴィロサが手を合わせて食事の挨拶をした時、ゴーンという寺の鐘の音が聞こえてきた。
ヴィロサは手を合わせた形のまま嫌な顔をする。
「えー……。こんな時に?」
ファロイデスとヴェルナは手早く弁当を片付ける。
「ヴィロサも行くよ」
立ち上がったファロイデスが、まだ座ったままのヴィロサを促した。
「せめてパンを一つだけ」
そう言ったヴィロサを、ヴェルナがじっと見る。
表情はいつも通りなのに、ヴィロサは立たないことを責められているように感じた。
「う……」
「ほら、移動するわよ」
ファロイデスの追い打ちにヴィロサはしぶしぶ立ち上がり、駆け足で階段に向かうファロイデスとヴェルナの後を追った。
「まだ何も食べてないよ……」
「さっさと終わらせれば食べられるわよ」
階段を一階までいっきに下り、三人は下駄箱に行く。下駄箱の上に荷物を置き、外履きに履き変え、外に出て校舎をぐるっと回りこみ、学校の裏山の前に立った。
ここは校舎からちょうど死角になっていて誰にも見られない。
三人は手を上げて、呪文を唱える。
「メタモルピルツ」
三人の周りにボフンと白い煙が出て、三人の姿を隠した。その中から最初に出て来たのは、ヴィロサだった。全身白の魔法娘の格好をしており、大きな鎌を持っている。
続けてファロイデスが出て来た。
ファロイデスは襟のある上半身丈のマントで身体を包み、オリーブ色のストライプのネクタイと袖が広がった長袖のヘソ出しブラウスを着ている。オリーブ色のダメージジーンズに、ドクロの大きなバックルのベルトをし、ファー付きの白いブーツを履いていた。
ファロイデスは首元にある卵形のネクタイピンをキュキュッと動かし、位置を整える。両手には一本ずつ大きな鎌を持っていた。
そして、煙が晴れ、最後にヴェルナが現れる。
ヴェルナは袖のない真っ白なロングコートを着ていた。襟と裾にはファーが付いており、前からチラリと出した腕にもファーが付いている。白いブーツを履き、全体的にシンプルな格好だったが、その全てを帳消しにするほど特徴的な帽子をかぶっていた。
その帽子は球型の帽子で、真ん中からガパリと大きく裂けると、中は鋭く大きな牙が並んでいた。そこからは白い煙が吐き出され、煙がうねうねと動いている。
『さあ、準備はいいなお前ら』
帽子が動き、そこから声が発せられた。
それに驚くでもなく、ヴィロサとファロイデスは頷く。
三人は空に向かって手を伸ばし、二人と帽子が大きく叫んだ。
「開門!」
その声を合図に、空から大きな赤い鳥居が三つ落ちて来る。三人の目の前にそれぞれドシンとそびえ立ち、鳥居の内側の空間がグニャリと歪んだ。
三人はお互いに目を合わせ頷き合い、その鳥居の中に入っていった。
三人の姿は歪んだ空間に吸い込まれ、消えていく。そして、鳥居も三人を吸い込み満足したのか、煙のように霧散し、消えていった。
後には、いつもの風景が残り、何ごともなかったかのように木々が風に揺れ、その場に静寂が戻った。