登校
アマニタ・ヴィロサは朝から急いでいた。
「うー、やばいやばい」
山岳学園の制服に身を包み、ヴィロサはパンを口にくわえながら街中を走る。
「遅刻しちゃう」
現在八時。山岳学園までは、ここから二十分かかる。
肩まであるキレイな白髪を乱し、ヴィロサは必死に走った。
走ってもギリギリ間に合うかどうかだった。
ヴィロサは目の前のT字路を右に曲がる。
「って、嘘!」
曲がった先で道路工事をしていた。迂回路の看板が置いてあり、ヴィロサはそれを見る。
「ちょっと! こんな遠回りしていたら遅刻しちゃうじゃない!」
遅刻決定。
ヴィロサの脳裏にその四文字が浮かぶ。
「これはまずい」
ヴィロサは看板の前で、パンを食べながら途方に暮れた。
今日の一時間目は、遅刻者にバケツを持たせて廊下に立たせる先生だ。
絶対に遅刻するわけにはいかない。
ヴィロサはパンを全て食べ、ごっくんと飲み込んだ。
「……しかたない」
ヴィロサは道を引き返すと、少し前にあった狭い路地の前に立った。
ビルに挟まれた暗く湿った路地で、路地の中には誰もいない。
ヴィロサはキョロキョロと周りを見回し、誰も来ないことを確認した。
「……よし」
ヴィロサはこそこそと路地に入って行く。その数秒後、路地からバフンと砂煙が出てきた。
そして、路地から空に向かって何かが飛び出てくる。
それは、ヴィロサだった。 大きなつばの帽子をかぶり、肩丸出しのワンピースでホウキに乗り、空を飛んでいた。
さっきまで着ていた制服とはまるで違う。
制服のスカート丈は膝上だったが、ワンピースのスカートは脛まであり、ジグザグとボロボロを交互に段々としたデザインで、大きく広がっている。全身白で統一され、靴まで白のブーツに変わっていた。
そして、何より違うのは、背中に生える大きな翼。真っ白でキレイな対の翼が、ヴィロサの背中に現れていた。
「さあ! いっきに行くぞ!」
ヴィロサはそう叫び、風を切りながら学園に向け、飛んで行く。
一瞬の変身。
空飛ぶホウキ。
ヴィロサは魔法が使える魔法娘だった。