エレベーター
その日は彼女と初デート。浮かれた俺はおめかしをして出かけた。
デートのディナーは高層ビルの12階にある展望レストラン。
かなり高めのイタリアンレストランだ。ここで雰囲気を造り、今夜で決めてしまおうと計画していた。
そのビルの最上階に展望台が有り、良くカップルがデートに利用していた。
ビルの屋上から眺める眺望は、二人の世界に入るにはぴったりだからだ。
一階から他のカップルと共にエレベーターに載り、全員を載せたエレベーターは上昇を始めた。
途中の階でエレベーターが開いた。しかし、誰も載って来ない……
”?…… 何だよ、あったま来るなあ”
頭に来た俺はちょっとした悪戯心を起こし、エレベーターの奥を見てから13階を押した。
自分たちが降りる階のひとつ上の階だ。
「…… ちょ、ちょっと…… なんで、13階押すのよ……」
一緒に居た彼女が小声で聞いて来た。
「え? 今、載って来た女の子が13階お願いしますって言ってたじゃんか……」
まるでヒソヒソ話する様に彼女に話した。
「…… だ、誰?」
彼女は振り返ってエレベーターの奥を見て、それから不安そうに俺の方を見た。彼女の瞳孔が開いてる。うん、可愛い。
「奥の隅に居る、白いワンピースの女の子だよ」
小声の振りをしてエレベーター内にワザと聞こえる様に言った。
俺たちの内緒話の内容に気が付いたカップルたちがお互いに顔を見合わせている。
そしてチラチラとエレベーターの隅を見始め、奥の方から少しづつ前に詰めて来た。
やがて、奥の方には誰も居なくなり、エレベーター内に不穏な空気が流れていく。
やがて自分たちの降りる階に到着したので、彼女を先に降ろし、自分は降り際にエレベーター内に向かって言った。
「うそだっぴょ~ん」
そのままだと悪いので、エレベーターのドアが閉まる前に種明かしをしてあげたのだ。
中のカップルたちは俺の悪戯に気が付いたらしく、ドアが閉まる時には全員爆笑していた。
俺って良い奴、これで彼女からの好感度がアップしたに違いない。
「んもう~、人がわるいんだからあ」
彼女は俺の肩をこづきながら照れ笑いをしていた。うん、可愛い。
「あははは、白いワンピースの女の子なんていねぇよ」
エレベーターのカップルたちの怯えた表情を思い出しながら俺は言った。
「そうだよね。 あの子、赤い服だったもんね~」
彼女はにっこりと微笑みながら言った。
「……え?」