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君シリーズ

君に届け

作者: みどー

読んで、少しでも何かを感じてもらえれば嬉しいです。

 ガラリと教室のドアが開く。


「おっはよ~!」


 教室に入って来るなり、アイツは僕に元気よく笑顔で挨拶してきた。


「ああ、おはよう!」


 僕もアイツに元気よく笑顔で挨拶を返した。



 ああ―――また、この夢か―――。

 だって、オマエが僕に挨拶なんてするわけがない。

 だって、オマエがそんな笑顔を僕に見せるわけがいない。

 だって、オマエが僕のいる教室に入ってくるわけがない。

 だって、オマエは――――。

 


 僕には幼い頃からいつも一緒にいた所謂、幼なじみが何人かいた。

 アイツもその中の一人だった。

 ただ、他の幼なじみとの関係と、アイツとの関係は僕にとってちょっと違っていた。

 僕とアイツはいつも喧嘩ばかりしていたように思う。

 ほんの些細なことで、すぐに取っ組み合いの喧嘩になって、泣かしたり、泣かされたりしていた。

 小学校の頃なんて、よく先生に二人して怒られてた。

 時には酷い喧嘩をしたこともあった。

 他人の頭でガラス窓をかち割るなんて、今思うとぞっとするよ。

 うん、あれは僕が完全に悪かった。今なら、そう思える。

 でも、オマエも凄いよね。アレで頭に傷ひとつないなんて。ホンット石頭だったんだな。


 僕たちは仲が悪かったんだよな?

 きっと周りはそう思っていたし、僕たちもお互いをそう思っていたんだ。

 でも―――どこかで、お互いを認め合っていたような気がするんだ。

 だからこそ、中学に入ってからは寂しかったような気がする。


 中学に入ってから、僕とアイツは疎遠になっていった。

 僕は親の方針で塾通いばかりしていたし、親の手前、学校では優等生を演じることになってしまった。

 アイツの方は、ガラの悪い連中とばかり付き合うようになった。中学二年の頃なんて、まさしく不良って感じだった。

 当たり前だけど、そんな僕らが仲良くなるなんてことはなくて、会話すらなくなった。

 僕は不良みたいな連中の事を軽蔑していたし、そうせざるおえなかった。

 それでも、なぜだか寂しさだけは感じていた。どうして、そう感じるかも分からなかったけど。

 あの頃の僕はバカだったんだ。何も分かってなかった。自分の気持ちすらも。



 三年の夏、僕はいつものように塾通いしていた。

 塾が終わる時間にいつものように親が車で迎えにきていた。

 忘れもしない。

 車に乗り込むと、父親が僕を睨んだ。いや、僕にはそう思えた。

 僕は何か悪いことでもしたのかと、ヒヤヒヤした。

 けれど、それは一瞬で違うって分かった。

 あの時の父親の眼には、怒りと共に哀しみが同居していたから。

 あんな顔の父親、それまでに見たことがなかったから。

 その後、すぐに父親から知らされたよ。

 オマエが――――死んだことを。



 オマエが死んだと聞かされた日から、オマエの葬式の日まで、結局僕は一滴の涙も流さなかった。オマエの葬式の時でさえも。周りは声を上げて泣いている人もいるのに。

 ある人に言われたよ。あの時泣かなかった人間は、オマエのことをどうでもいいって思ってるからだって。

 その言葉を聞いた瞬間、僕は胸が痛かった。

 僕はアイツのことをそんな風にしか思ってなかったのかな?

 じゃあ、あの時の、アイツの葬式の時に溢れてきた感情はなんだったんだろう?

 ただ、悔しくて。オマエが、棺のなかで穏やかに眠っている姿を見た途端、ただ悔しくて。握った拳が痛かったことを覚えてる。



 葬式から一年ほど経ったある日、夢を見た。

 僕はもう高校生になっているのに、夢の中では中学生のままだった。

 朝、教室のドアを開け、僕に笑顔で挨拶をしてくる奴がいる。

 アイツだ――――。

 僕もオマエに笑顔で挨拶を返す。

 そして、僕らは昼休み、放課後も時間を忘れて一緒に遊んでいる。

 そんな夢だ。

 死んだオマエと仲良く友達のように過ごす夢だ。



 僕はそれから大学生になるまで、同じような夢を何回か見続けた。

 アイツが出てくるたびに、ああ―――また夢か―――と思う。

 夢と分かる夢。

 だってアイツがいるわけないのだから。

 目覚めると決まって、哀しい気持ちになる。

 楽しい夢のはずなのに、起きたらすごく虚しくなる。

 そのうち、夢をみている時ですら、哀しみを感じる。

 

 分かってる。分かっているんだ。

 今、僕の目の前で笑ってるオマエは、幻なんだって。

 これは全部夢で、起きたらオマエがいない現実があるだけなんだって。オマエは死んでいるんだって分かってるんだ。

 それなのに、どうしてこんなに楽しい?どうしてこんなに哀しい?

 夢の中では、それを口に出すことはできない。

 決まった物語が流れるように進むだけだった。



 この夢を見るようになってから、僕にはある習慣がついた。

 自分の家のお墓を参る度、アイツのお墓にも参って線香を立てる。

 そして、その墓石に語りかける。


「オマエは、僕に何を伝えたいんだ?」


 もちろん、答えなど返ってくるわけもない。

 別に霊とかそんなのを信じているわけではないけれど、僕は、アイツが僕に夢を見せているんだって思えたんだ。



 そうしたある日、僕はまた同じ夢を見る。

 でも、どうしたことだろう?今日の夢では、僕は自由に話せる。自由に動ける。

 なぜ――――?

 アイツはいつものように教室に入ってきて、僕に話しかける。

 楽しそうに話をするアイツ。

 僕も最初は楽しかった。アイツとの楽しい時間がいつものように流れるだけだと思った。

 でも、唐突に――――そう、唐突に僕は哀しくなって、そして、泣き出してしまったんだ。


「お、おい、どうしたんだよ?」


 心配そうに僕の顔をのぞき込むアイツ。

 その顔が中学のあの時のままで、僕はその顔を見ると堪えられなくなったんだ。


 言っていけない――――。

 これを言ってしまえば、もう戻れない――――。

 きっともう会えなくなる――――。


 でも、もう辛くて。

 何も言わないでいるのが辛くて。

 僕は言ってしまったんだ。


「オマエはもう―――死んでるんだよ!!」


 瞬間、アイツの顔が哀しみに染まった。

 そして、優しく微笑んで――――。


「知ってるよ。だって、これはお前の夢だもん」


 その顔は哀しそうだけど、どこか安堵した表情だった。


 やっと言ってくれたね――――。


 最後にそんな言葉を聞いた気がした。


 夢はそこで終わった。

 起きた僕は、自分が泣いていることに気づいた。


 ああ―――僕は気づけたんだ――――。

 僕の―――本当の気持ちに―――――。


 それ以降、アイツの夢を見ることはなくなった。


 夢を見せていたのは、アイツの霊なんかじゃない。

 僕自身の心だったんだ。

 きっと、僕はアイツの死を受け入れることができていなかったんだ。

 だから、アイツが死んで、もう伝えることが出来なくなった言葉を、夢の中で見ていたんだ。


 今なら言えるよ。今なら伝えられる。

 もう二度と届くことのない言葉だけど、それでも言うよ。

 オマエに届くと信じて。


 僕はオマエのこと『親友』だって思ってる。



 アナタの側に友人はいますか?

 アナタの側に大切な人はいますか?

 アナタの側に親友はいますか?

 アナタはその人たちと、どんな日常を過ごしていますか?

 その日常は、楽しいですか?辛いですか?悲しいですか?

 アナタが今過ごしている日常は、当たり前の日常です。

 けれど、それは当たり前ではないと僕は思います。

 その人たちと過ごす時間はとても大切な時間だと思います。

 僕は気づくのが遅かったけど、アナタならきっとまだ間に合います。


 あなたが本当に大切なことに気づける時が来ることを祈っています。


読んで頂けてありがとうございました!

いかがでしたでしょうか?

短編は初めてだったので、うまく纏められたか不安です。

感想、評価など頂ければ、すごく嬉しいです。よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 作者様が伝えたいことがストレートに伝わってきました。良かったです。
[良い点] この作品を通して、いかに作者様が読者に何かを伝えたいんだな、と感じさせられました。 [気になる点] 内容は、少し物悲しい結末になってしまいましたが、それでもやはり短編としてのまとまりがあっ…
[良い点] 涙が出ないという所がリアルですね。ほんとの悲しみや悔しさを知っておられるからだと思います。 短編の良さがでていると思います。 長編は時間のあるときにじっくり読みたいです!
2013/12/29 06:59 退会済み
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