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 何はともあれ、名取さんの所に行かなければ話は進みません。彼女の所にいけば、親衛隊の方々も探しやすいでしょうから。

 今の時間ならばどこか控えのテントとか建物にいるはずです。場所は事前に調べて来たのでそこに向かいます。

 あと軽く平野刑事にも今までのことを話します。何か半分、いえほとんど聞き流されている気がしますが、もう知りません。この人は何を言っても無駄なさそうのようですから。彼の上司が哀れです。


 …………あれ、もしかしてあの警部補さんが平野刑事をここに派遣してくれたのって、厄介払い?

 一度考えてしまうともう駄目でした。ネガティブな考えが出るわ出るわ。もう、歯止めが利きません。もはや平野刑事の派遣が厄介払いにしか思えなくなってしまいました。

 ああ、そういえば、と思い出されます。あの警部補のどうぞ持って行ってくださいと言わんばかりの声が。つくづく思います。私には男運というものがない、と。

 控え室に向かっている途中で、昨日、調査した親衛隊の方々に会いました。方々と言っても見爪さん兄妹は来ていません。妹さんの風邪のためです。妹思いの良い兄ですよね。行き過ぎな気もしますけど。

 また、会えなかった木隠さんにも会えました。なんとも想像通りの人でした。


「あ、どうもみなさん。これからライブですか?」

「あ?」

「ひっ!?」


 なぜ、私は声をかけただけでそんな殺気を向けられなければいけないんですか。


「あ、申し訳ありません。これから場所取りですよ」


 な、なるほど。積木さんが解説してくれましたが、私涙目です。また、心に傷を負いました。なんで私こんな目に遭うんですか。

 って、そういえば、平野刑事はどこに行ったんですか? あ、また出店ですか、そうですか……。


 てか、ほかの人たちもそれぞれにどっかに行っちゃってます。親衛隊じゃなかったんですか、この人たち。え、なになに?

 積木さん曰く、親衛隊ではあるけど、全員が自主的に集まったのではなく、見爪兄がただ集めていただけだから、いないなら集まる義理はない。とのこと。

 そのため、彼がいないとそれぞれがバラバラらしいです。先ほども偶然集まっただけだとか。他の人を追いかけて聞いても同じ答えみたいです。なんですか、それ……。


「じゃあ、私も行きますね」


 そういって積木さんも行ってしまいます。なんというか、その……うまく言葉にできません。

 それにしても、なんでしょうか。あの人たち、えらく周りを気にしてますね。しきりにきょろきょろしてますし。

 まあ、たぶんいい場所ないか探してるんでしょうね。さあ、私たちも行きましょう。


 それから10分ほどで控えの建物につきました。なのに今の時間は15時。待ち合わせの時間は14時。1時間も遅れてますね。

 本当ならもっと早く来れたはずなのに。

 それにしても、さすが区長。この建物だけでも幾ら税金を無駄遣いしているのか計り知れません。煌びやかですし、とても過ごしやすい建物です。


 ああ、ずっとここにいたいという欲求に駆られてしまいます。良いように区長に踊らされてますね私。でも、いいんですよ。一時の快楽とは、抗いがたいものなのです。

 …………って、いけませんいけません。一時の快楽にふけると、私まで黒崎さんと同じだ…………え?


「な、ななななな!?」


 目をこすります。消えません。瞬きします。消えません。何をしても消えません。つまり、それは現実ということ。紛れもない現実ということ。

 しかし、理屈ではわかっても、心はそれを理解することを拒否します。なぜなら、そんなことあるはずないと思っていたからです。


「何してるんだ。団子」


 私の目の前に、あの黒崎さんがいました。ヨレヨレの白衣、ボサボサの髪に無精ひげ。間違いなく黒崎さんです。


「なんでいるんですかあ!?」


 私が思わずこんな叫びをあげたのを誰が責められましょう。

 だって、ものぐさで、やる気0で、面倒くさがりで、横着で、ニコ中で、アル中で、体力なしで、デリカシーなしで、乗り物に乗ると必ず酔う、自称23時間寝ないといけない睡眠病のあの黒崎さんが、自発的に動いてこんなところにいたんですから。

 叫び声くらいあげてしまいます。いえ、上げなければおかしいでしょう。私はまだ一度も黒崎さんが自主的に動いているとこを見たことがないのですから。


「なんだ、どうした黒崎。ん?」


 更に凄まじい美人さんがやってきました。名取さんと並んでも遜色ないくらいの美人さんでした。長い髪をポニーテールにした如何にもなキャリアウーマンです。

 そんな人が黒崎さんとお知り合い。もう、何が何やらわかりません。誰か説明プリーズ。


「げえ、先輩!?」


 そこに現れる平野刑事。更に状況は混沌化していきます。


「平野か。何が、げえ、なのかはさておくとして、厄介払いしたあなたが遊びほうけながらもここに来たということは、なるほど、彼女が黒崎の助手ちゃんね。

 私は、平野の上司で警部補の不知火葵(しらぬいあおい)よ。黒崎とは、腐れ縁ということろかしら」


 へえ、そんな方がいらしたのですか。とてもまともな方に見えます。なのに黒崎さんがあの状態というのはどういうことなのでしょうか。

 って、警部補なら対応してくれた人じゃないですか。厄介払いって、……ああ、私の考えって当たっていたんですね。

 とと、挨拶されたのだから返さないと。


「これは、ご丁寧にどうも。私は――」

「聞いてるわ。黒崎の助手の椿姫ちゃんでしょう」


 いったい何を黒崎さんから聞いているのでしょうか。ひどく気になります。どうせ碌なことは言われていないと判断できます。

 私って黒崎さんによく思われるようなこと何もしてません。どちらかと言えば仕事の強要やら寝てるのを起こしたりやらばかりですし。


 いえ、黒崎さんの自業自得、身から出た錆なんですけどね。

 でも、自分のことが悪く思われているのは気分のいいものじゃありません。

 そんな気持ちが表に出てたのか、不知火警部補は苦笑する。


「大丈夫よ。あなたが心配するようなことは何も聞いていないわ。良い子みたいじゃない。ねえ、黒崎」

「あ? 聞いてなかったもう一度言ってくれ」

「はいはい、で、それよりも黒崎。早く話をはじめなさい。椿姫ちゃんも来たんだから。私を呼んだ理由をね」


 そうです。それが気になっていたのです。もう、諸々の諸所のことなどどうでもよいです。それこそが、黒崎さんがここにいる理由につながるのですから。


「ああ、なんだったっけな」

「はあ、あんたに期待した私が馬鹿だったよ」


 なんでしょうこの連帯感。私、不知火警部補とは仲良くなれる気がします。ああ、同族連帯感という奴ですか。不知火警部補も苦労したんですね。


「名取さんに会おうにも、ついさっきライブが始まったから会えないわね」


 ああ、もう15時過ぎてるからライブ始まったんでしたね。今は、ライブが始まって20分位です。黒崎さんに驚きすぎました。

 ん? じゃあ、何で柱間さんたち親衛隊の方々は始まる直前に場所取りなんかを? 彼らならもって早くに行くはずでしょうに……んー?


「ん、平野はどうしたの?」


 あり、そう言えばいませんね。どこに行ったんでしょうか? 全然わかりません。

 …………なーんて、私、わかりました。平野刑事の性格とかは、この短い時間でも把握できる程単純でわかりやすいので。


 きっと彼は名取さんのライブに行っているんでしょう。そうに違いありません。仕事中に遊びほうける方ですから。

 親衛隊の方々については置いておくとしても、平野刑事を探すのは少し面倒ですね。国民的アイドルの名取さんのライブですから会場となっている広場は超満員でしょうから。


「まったく、あの馬鹿は」


 心中お察しします。私も短時間ながら苦労させられましたから。それが恒常的ならその苦労は計り知れません。

 その上、黒崎さんと腐れ縁なのですから、苦労は相乗されていても不思議ではありません。


「はあ、わかった。黒崎、あなたにはもう頼らないわ。椿姫ちゃん、簡単にでいいから、ストーカについて説明してくれる?」

「あ、はい、わかりました」


 それくらいお安いご用です。もう、何度も説明しているので慣れていますから。しかし、黒崎さんはどうして、不知火警部補を呼んだんでしょう。

 というか、警察、しかも警部補を呼べるほどのコネ? 腐れ縁とか言ってましたが、そんなものが黒崎さんにあるのが驚きです。

 そんなのとは無縁な人だと思っていましたから。なんというか癪な感じがします。いえ、別にいいんですけどね。


「――というわけです」


 説明をし終わりました。


「なるほどな。その同じ内容の7通というのが気がかりね。まったく、平野め、サボったわね」


 ああ、やっぱりですか。というか、この人まともだ。ものすごい新鮮な感じがします。今までまともな人にはあまり会ってませんから。

 こういう普通の感性の人と話すのはとても楽でいいです。私があまり気をつかわなくても彼女の方が使ってくれますし。


 ああ、大人ってこういう人をいうんですね。決して黒崎さんのような人ではありません。あれは正真正銘の駄目人間です。

 その証拠に人を呼んでおいて何もせず、あとから来た私に説明をさせて、自分はお酒を飲んで煙草を吸っています。あれを大人と言っていいはずがありません。


 平野刑事にもそれは当てはまりますね。私を散々待たせた挙句にあっちへふらふら、こっちへふらふらと出店を渡り歩き、挙句の果て上司がいる前で消えてライブに行ってしまうなど、社会人としてどうかと思います。

 どうしてこうも私の周りにいる男の人というのは駄目人間が多いのでしょうか。そんな星の下に生まれたのなら誰かにパスしてしまいたいです。切実に。


「まあ、何かあるにしてもライブ中はないでしょう。けど、私が黒崎に呼ばれたってことは何かあるってことだから、警戒はしておくわ。

 とりあえず、ライブが一段落するのを待って、名取さんに会いに行きましょう」

「そうですね。って、黒崎さんは疫病神ですか?」


 黒崎さんに呼ばれたら何かあるって、それ、どこのアニメとかの探偵ですか。アニメとか漫画の探偵さんは、死神です。

 彼らの行くところで様々な事件が巻き起こり、たいてい人は死にます。最悪、探偵以外全滅もありえます。

 華々しい活躍に隠されてますけど、もともと彼らが来なければ事件は起きなかったのではとも言えるのです。だから、死神です。言い得て妙だと思います。


「ふふ、面白いこというのね。でも、間違いじゃないわね。黒崎が来るとたいてい大変なことになるから」

「失敬だな。あれは俺の責任じゃない」


 あら、流石の黒崎さんでも疫病神って言われるのは嫌なんですかね。誰かの言葉に反論しているのなんて初めて見ましたよ。


「事件が勝手に起きるだけだ」


 まあ、確かにそうですけどね。


「っとと、それで、どうしますか? ライブの間、暇ですけど」

「そうね。さすがに仕事中だからお祭りを楽しむわけにもいかないわね」


 平野刑事は仕事中にも関わらず満喫してましたがね。今もライブで絶賛満喫中です。減俸でもなんでもなってしまえばいいのです。世の中あくせく働いた者勝ちです。

 しかし、どうしましょうか。ライブの間、正直何をやっていいのかまるでわかりません。不謹慎ですが、何かしら起こればわかりやすいのですけど。


 ライブを監視しようにもこちらは現在3人。まあ、平野刑事を含めてあげれば4人なのです。この人数では意味ないでしょう。全てをカバーしきれません。

 まあ、平野刑事がライブ会場で名取さんを見てるはずなので、そのあたりは大丈夫、と思いたいんですけど。本当に、どうしましょうか。


感想、ご意見、評価などなどお待ちしてます。


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