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 黒崎さんを抱えてやって来ました芸能事務所。さすがは大手プロダクションと行った趣の建物です。

 その前で私は、もはやモノを投げ捨てるかのように黒崎さんをおろします。当然黒崎さんは着地などできません。そのまま投げられた姿勢のまま地面にべちゃりと落っこちました。

 良い気味です。少しそこで痛がっていればいいです。私の心の痛みはそんなものではありません。


 それにしても……ふう、流石に疲れました。成人した三十路手前のオッサンを運ぶのは、どう考えても乙女の仕事ではありません。労働過多でしょう。賃上げを要求します。

 あ、駄目? まだ助手らしい仕事をしていないから? では、残業扱いは……ああ、ダメですか。そうですか。私の大損です。この心の傷はどうすば良いのでしょうか。


「い、いえ、がんばりましょう」


 さ、気を取り直し、私たち、私と黒崎さんは事務所の中に入ります。

 流石は大手プロダクション、なかなかの建物です。壁は真っ白でシミ一つありませんし。タイル張りの床はぴかぴかに清掃されています。

 うちの事務所とは大違い。雲泥の差です。うちもこれくらい掃除したいです。


「ああ、探偵さんに助手さん待っていたわ」

「どうも、鈴木と申します。名取さんのマネージャーをしています。こちらへどうぞ。小会議室で詳しいお話を致しましょう」


 名取さんとも合流。どこか中性的いえ、女性のようにも見える鈴木というマネージャーさんがとっくに準備してくれていたので、早速話を、ということになりました。小会議室に移動します。

 黒崎さんは、相変わらずやる気なさげです。事務所内禁煙だと言われてるとかなり嫌そうな顔をしてから煙草を直し、今度はお酒を飲み始めました。完全に仕事する気0です。


「彼、大丈夫かしら?」


 名取さんに大丈夫か聞かれたので、大丈夫ですとはぐらかす。本当は、わかりません。私がいるときは基本煙草しか吸っていませんし、お酒も少ししか飲みません。

 そのため、黒崎さんがどれくらい飲めるのか私は知らないのです。

 これはどうやら、私が話を聞くしかないようです。仕事をさせようにも人前。殴るわけにはいきません。あとで殴っても効果は薄いので、もう仕方ないです。


「えっと、それで、ストーカー被害とのことですけど、具体的には私たちは何をすれば良いのでしょうか?」

「そうね、ストーカーの特定とこの手紙の真偽を確かめてほしいの。それが正式な依頼」


 はあ、何とも探偵らしい仕事です。まさか、こんな仕事が私の初仕事になろうとは、予想だにしてませんでした。人生何があるのかわからないものです。

 これで黒崎さんがもっとまじめに働いてくれたのなら私の人生は薔薇色なんですけどね。儘ならないものです。


「これが送られてきた手紙です」


 マネージャーさんがあらかじめ用意してあったダンボール箱の中から13通の手紙を出してきます。これが件の殺人予告の手紙ということなのでしょう。

 渡された手紙の内容は、到底公開できるような代物ではありませんでした。私もできれば読みたくなかったです。要約すると、あなたが好きなので殺しに行きます。これに尽きるでしょう。


 本当、実文は、余計なことが多く書かれすぎてて何が何やらといった感じです。読み返したくないのに何度も何度も読み返してようやく要約できたのです。

 それが13通。苦労は半端ではありませんでした。くじけそうです。


 また、手紙はまったく同じ文面というわけではありませんでしたが、送られてきた手紙13通のうち7通は同じ内容の文面、その他の手紙は、あなたが好きなので殺すと言ってはいますが、文面はバラバラでした。


「うわあ……」


 まあ、ともかく思わずそう呟いてしまった私を誰が責められましょう。というより、これ以外に思うことはありませんでした。私も警察と同じく悪戯で済ませたいくらいです。

 しかし、送られてきた7通の同じ内容の手紙が私を不安にさせます。それに、1度、依頼を受けた以上、途中でやめることなどできるはずがありませんでした。


 また、マネージャーさんの話によればストーカー被害は最近ひどくなってきたようです。酷く加工された写真やらがごくまれに届くそうです。

 用意してもらったダンボール箱の中身がこれでした。酷い物でした。吐き気がしましたから。


 ただわかったのは、この犯行予告が本当ならば動くなら花祭りということです。私たち一般大衆が名取さんのようなアイドルに殺せるほど近づける機会などそれ以外にはありませんから。

 おそらくはそれに合わせてのストーカー被害の増加という過程なのでしょうか。


 だとしたら犯人は愉快犯でしょうか。そうでないなら、そもそも国民的アイドルを殺そうなど思う人は……まあ、いないはずです。何かすればするほど殺すための障害が増えるわけですから。

 恨みを持つ人間の仕業ならば、もっと綿密で確実な計画を立てるでしょう。探偵助手マニュアルにそうありました。ライセンス試験の時もそんな問題があったはずです。


「黒崎さんはどう思います?」


 ともかく私の下手な推論よりは、専門家であるプロの探偵黒崎さんに意見を求めます。腐っても探偵。何かいい妙案や考えを持っているかもしれません。まあ、期待するだけ無駄かもしれませんが。


「さあな……」


 ですよねー。

 まあ、予想してました。黒崎さんがこの程度のことで何か思うわけないですよね。そもそも考えてすらないんじゃないでしょうか。

 本当、この人よく探偵になれましたね。はあ、人前でなければ、殴って考えさせるのに。


「えっと、心当たりとかは、何か手がかりになるようなことはありますか?」


 ともかくは情報が必要です。調べるにしても、今の状態では砂漠から落とした砂粒を探し出せと言われているようなものです。

 名取さんのファンなど腐るほどいるのです。そんなの我々探偵では調べようがありません。絞り込む必要があります。

 そのための情報です。情報を制する者は戦いを制するのです。あれ、なんか違いますね。でも、良いのです。ともかく何か手がかりを。それさえあればなんとか調べられるはずです。


「そうね……ああ、なんだったかしら、ほら、鈴木君、あのえ~っと」

「親衛隊ですか?」

「そう、それ」


 親衛隊? 親衛隊ってあれですよね。


「熱狂的なファンたちのことです。親衛隊を自称していたいろいろとしてますよ。専用のサイトもあるようで。行き過ぎて注意しましたが、確かに彼らなら怪しいですね」


 おお、マネージャーさんの重要な意見です。

 ふむ、その親衛隊の誰かが手紙の犯人なのでしょうか。それともほかの誰か?

 ……やはり、国民的アイドルともなるとストーカーの特定が難しいですね。しかも、手紙が送られてきた場所は13通とも中央郵便局で、文面は全てパソコンによって書かれている。手紙自体も同郵便局で買えるもの。


 さて、どうしたものでしょう。やはり、ここは親衛隊の人たちに実際に会ってみるのが一番でしょうか。

 探偵省の権限を使えば令状がなくても家宅捜索できますし。事情聴取もできますから。その前に絞り込みは必要ですけど、それは手紙があるので、どうにかなりそうですね。

 それをマネージャーさんに伝えると。


「それなら、お願いします。あの親衛隊の人の住所はわかりますから」


 それなら行けそうですね。ついでに探偵省の方でも調べてみましょう。少しはわかるはずです。


「御願いね探偵さん」

「おーう」


 やっぱりやる気はないようです。


********


 そういうわけで、私たちは調査のため、事務所で聞いた親衛隊という熱烈なファンという方々の家に向かっています。


 事前に探偵省で親衛隊のことを調べたのですが、関連性という関連性は、名取さんのファンということ以外皆無ということが判明しました。

 これなら親衛隊が共謀して殺人を行うということは考えないでよさそうです。犯罪歴もありませんし、年齢も、職業も何もかもがバラバラですし。

 これで関係性などでもあればまだよいのですけど。それに人数が人数です。親衛隊の人数14人。帝都外に住んでいる人を除外しても10人。


 更に脅迫状というか殺人予告状に、探偵ツールでしか見えれない中央区在住者印があったので、中央区以外に住んでいる人も除外してようやく6人。

 まったく、やはり現実は推理小説のようにはいかないようです。


「……で、黒崎さんはいつまで私におぶわれているんですか」


 やはり事務所を出発してすぐに行動不能に陥った黒崎さんを私は運ぶことになってました。今度はお姫様抱っこではありません。

 あれは私が恥ずかしいです。では、なんであの時はしたのか? あの人が動かなかったからです。ですが、今度はちゃんとおぶりました。はい、きついです。視線が。

 まあ、事務所から最初の人の家が近かったからよかったですけど。いえ、よくはありません。私の精神衛生上本当によくありません。


 えっと、まず私たちが最初に会いに来た親衛隊の方は柱間隠(はしらまひそむ)さんという学生の方です。なんと私と同じ高校に通ってるみたいです。同級生というやつですね。いや、同じクラスではないですけど。

 これが分かった時は会いたくなくなりました。同じ高校の人とそれも、こんな駄目人間を連れて会うなど、登校したときにはどんな噂が流されているか、知れたものではありません。


 まあ、それはそれとして、学生ですので、あまり犯行予告などをしているとは考えにくいです。

 しかし、何度も言いますが、これは仕事です。仕事は必ず果たさなければなりません。労働に対して、その労働に対する相応の対価が支払われるのです。働かずに対価だけ頂くのは、外道がすること。

 そうならないように、私はこの駄目人間黒崎さんに代わり頑張らなければなりません。


「よぉ-し」


 気合いを入れなおしたところで柱間さんの家についたので黒崎さんを捨てて、インターホンを鳴らします。中央区の住宅街の中に建つ一軒家。結構なブルジョアですね。……忌々しい。


「はーい、どなたですかー?」


 さっそく本人の登場でした。想像していたのとは違いますが扱いやすそうな普通の黒髪パッツンの眼鏡男子ですので良しとします。

 さっそく身分を証明する探偵手帳を見せて捜査協力を願います。


「黒崎探偵事務所の者です。私は助手の赤野椿姫、こっちは黒崎さんです。少し捜査に協力してもらえませんか?」

「なんで、僕が」


 あまり乗り気でないご様子。まあ、いきなり探偵が来て捜査させろとやってきたら、渋りますよね。何か容疑がかかているのでは、と邪推もするでしょうし。到底乗り気にはなれないでしょう。

 しかし、ここは何が何でも捜査させていただく必要があります。名取さんのためです。


「名取さんに関する捜査なのですが」

「名取さんの!? わかりました! 僕にできることならなんでもします!」


 おやおや、やはりファンですね。名取さんの名前が出た途端素直に協力してくれるようになりました。これは、良い情報です。他の5人に話を聞きに行く時には有効に使わせてもらいましょう。

 ネームバリューとはすばらしいものです。


「中でお話しても?」

「ええ、どうぞ。どうせ両親は海外なんで」


 ほう、両親が海外とは、ますますブルジョアな匂いがします。まあ、私が言えた義理ではないんですけどね。

 ともかく、自宅へ入ります。なかなか良い家じゃないでしょうか。一人で住むには広すぎると思いますけど。


 リビングに行くと、そこでコーヒーを出された。

 うぅ、私コーヒー苦手なんですよね。しかし、せっかく出されたもの。飲まなければ失礼です。角砂糖を5個ほどいれてミルクを入れて飲みます。

 なんか柱間さんが微妙な顔してますが良いのです。飲めたことが大事ですから。


「おい、酒はねえのか」

「あるわけねえよ!」


 なんと、柱間さんにはツッコミの才能があるようです。じゃなくて、黒崎さんです。なんで人の家で酒を要求してるんですか。常識を考えてください常識を。


「あ、すみません。つい癖で」


 ツッコミが癖。いったいどんな人生を送ってきたんでしょう。私、気になります。

 いえいえ、そんなことを気にしている場合ではありませんでした。捜査、捜査。軽く概要を説明して質問を始めます。

 疑っているんですか? と聞かれたので、容疑者には上がってますと答えました。でも、学生なので、ありえないと考えているとも言ったので問題はありませんでした。


 さて、何を質問しましょう。私、こういうの初めてなんで、黒崎さんがしてくれるといいんですけど。

 ちらりと黒崎さんを見るが、あさっての方向を見てお酒を飲んでいます。とりあえず中央郵便局に最近行ったか、手紙に心当たりはないか、親衛隊に何か心当たりはないかを聞くことにしましょう。それで、十分と思います。


「では、ここ最近中央郵便局を利用しましたか?」

「いえ、してませんよ」


 ふむ、嘘をついているようには見えませんね。ですが、心が読めるわけではないので、本当かどうかはわかりません。

 中央郵便局に確認をとっても無駄でしょうし。犯人なら変装くらいするでしょう。変装を見破れるほど私は優秀ではないです。


「じゃあ、これらの手紙に見覚えは? または、親衛隊にそんなことをしそうな人の心当たりは?」


 借りていた手紙を見せます。柱間さんはそれを見てから、


「あれ?」


 おや、反応あり?


「いえ、なんで、この7通だけ同じ内容なのかなって、気になっただけです。とくに心当たりはないですね。親衛隊の人との交流なんてライブの時以外ありませんから」

「そうですか」


 やはり、わかりません。まあ、学生ですし、そんなに警戒することもないですね。家宅捜索は……しなくていいでしょう。学生ですし。


「ありがとうございす。黒崎さん、何かしておくこととかありますか?」

「あ~、勝手にしろ」

「そうですか。じゃあ、時間がないので、今日はすみませんでした」

「いえいえ、僕も役に立てなくてすみません」


 さて、次です。次は、ここから離れているのでタクシーですね。黒崎さんが乗り物酔いでやばいですが、気にしている暇はありません。


ご意見、ご感想お待ちしてます。

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