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「お前だろう。やったのは」
「答えます。否定します。いいえ。違います」
私は、答えた。目の前の男に。黒崎伊織に。
「殺したのはお前はない。それは、道三自身だろう」
「答えます。肯定します。はい。そうです」
私の父。私を作った人。倉城道三。殺されたと言われた彼。彼は、自殺したのだ。私を作って。満足したと言って死んだのだ。
そう、私を作って。完成しさせて、私の名を呼んで。彼は、死んだのだ。自分で自分を殺したのだ。それが全てなのだ。目の前の男は知っているのだろう。そうでなければ、ここにはいないだろう。自分の前にはいないのだろう。
ならば、何が目的なのだろうか。合理的な思考に基づくならば、自分を逮捕するという結論に至る。だが、どうにもそのような雰囲気は感じられない。
男からは、どうにも面倒くさいなどといった、中庸な感情ばかりを感じさせる。データベースにはない男だった。
「問います。質問をしてもよろしいでしょうか」
「ああ、こちらの問いに全部答えたらな」
「答えます。了承しました。これより、如何なる問いにも答えます」
「なぜ、道三の死を偽装した」
私の父の死を偽装した。
はい、肯定します。私は、私の父の自殺を偽装しました。
窓に細工をし、かりそめの犯人の証拠も作りました。動機も十分でした。100%それは成功しました。
なぜ? ええ、答えます。
私は、父の遺言を果たしたにすぎません。人形を守るために。
「違うだろう」
「違う?」
答えます。答えます。答えます。なぜ。なぜ。なぜ。なぜ。私は、なぜ父の死を偽装したのでしょう。私は私に問います。なぜ、偽装したのですか。
答えます。わかりません。
問います。なぜ?
答えます。わかりません。
問います。なぜ?
答えます。わかりません。
結論を出します。不明。不明。不明。
「問います。なぜ、私は、父の死を偽装したのですか」
何かがあったはずなのです。私は、確かに、何かの命令に従って死を偽装したはず。なのに、なぜ、私は父の死を偽装したのでしょう。
記録には何も残っていません。ですが、確かに命令はあったはずなのです。
なのにわかりません。
「はあ、やれやれ、面倒だ」
彼は心底面倒そうに息を吐き出した。溜息と呼ばれるものだ。
溜め息にはいくつか種類があったはず。
失望・落胆などによる溜め息。感動・美しさなどによる溜め息。将来への不安からくる溜め息。素晴らしいものを見た時の溜め息。
感動じゃないでしょう。感動する要素があったとは思えません。どちらかと言えば、失望、落胆でしょうか。
「俺は、それを知っている」
「願います。それを教えていただけませんか」
「面倒だ。だが、交換条件を飲むなら、言ってやってもいい」
「問います。交換条件とはなんでしょうか?」
「うちの助手をやれ」
「熟考」
助手。探偵の助手ということ。
全ての技能はネットに接続すれば全てを習得できます。問題はないでしょう。住民票などの問題など、全ては児戯に等しく、私の手には問題などない。
「答えます。はい、YES、了承しました」
「じゃあ、教えてやる。面倒くさいから一回しか言わん」
「はい」
「愛、だろ」
「愛? 愛、愛」
親子・兄弟などがいつくしみ合う気持ち。また、生あるものをかわいがり大事にする気持ち。 異性をいとしいと思う心。男女間の、相手を慕う情。恋ともいうべきもの。
「理解不能」
自分にそのようなものを感じるものはない。そんなものは設定されていない。そんなものは理解できない。
だが、なぜだろうか。納得できてしまっている。なぜだろう。なぜでしょう。なぜでしょう。
「じゃあ、教えたからな。行くぞ」
「求めます。説明を」
「教えるだけだ。約束は守ってもらう」
そうですか。ならば、保留にしましょう。考えましょう。考えましょう。時間は、まだあるのですから。
「答えます。了承します。わかりました」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ああ、面倒だ。面倒だ。
なぜ、俺が説明をしなければならない。知っているから? ふざけるな。ただ、知っているだけだ。説明などしらん。
答えを求めたのはそっちだ。だから答えた。どうとでも解釈しろ。
答えは与えた。俺は説明しない。お前たちで解釈しろ。
俺は知るだけだ。答えるのは俺の仕事じゃない。答えるのは“あいつ”の仕事だ。
俺じゃない。俺じゃない。
“あいつ”の仕事だ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「むぅ、遅いですよ」
私はあとからよたよたとやってきた黒崎さんに文句を言いました。でも、いつものように聞いてないようで無視されてしまいました。
ちょっと、むっとして、言い返そうとした私に、あの人は、爆弾を落としました。
なんか、もう、本当にごめんなさい。
1か月も間隔があいてしまいました。本当ならもっと早く出したかったんですけど、予想以上に4月は忙しかったです。
それと、一定の間隔で来る、精神的な意味合いで、書けない時期というのにぶつかったのも大きいです。
未だそれは継続中で、また遅くなるかもしれませんが、これからも読んでくださると嬉しいです。




