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 放課後。

 全ての授業を終えた私は、海島(かいとう)区にある自宅には帰らず、1人、リニアレールに乗っていました。周りには、部活動に所属していない、中央区などの繁華街へ遊びに行く生徒たちで溢れています。


 いたる所から楽しげな談笑が聞こえてきてリニアレールの中は結構、騒がしい。このリニアレールは、学生専用車両があり、今いるのはそこ。

 さすが、学生専用車両なだけあって、生徒たちの喋りに遠慮はありません。噂の生徒の色恋話や隣のあの子の悪口。様々です。教師の目もないので態度も悪いですし。やはり、あまり長居はしたくありません。


 私は、幾つものグループが存在しているリニアレール内の端の席に、静かに座っていました。

 ちょうど良く、このリニアレールに知り合いは乗っていないので、声をかけられることはありません。煩わしいお喋りをしなくても良いのは、実に素晴らしいことでした。


 さて、しばらくして、リニアレールは本土に入りました。私が降りる駅はもうすぐです。何の為に存在しているのか不明な一梨(ひとなし)駅。

 一梨区にある打ち捨てられた無人駅が私の降りる駅でした。路線上仕方ないから通る的な感じですが、ここで降りなければならない私にとっては好都合です。


 私は、立ち上がって、さり気なく降車ボタンを押しました。ぽーん、という音と共に、リニアレールは一梨駅に止まる電子車内放送を流します。

 今やバスや電車、地下鉄、飛行機などの公共交通機関は、全てが自動化されていまので、リニアレールは何ら不思議がることなく止まってくれます。

 開いた扉から素早くリニアレールを降りホームに立ち、一息。


「ふう」


 いつ来てもここは相変わらず。黒崎さんの探偵事務所と同じとまでは言いませんが荒れています。

 流石に公共の場所なだけあってそれほど酷くはないですが、閑古鳥が鳴いてます。閑散としちゃってます。ボロボロです。


 私は、階段を下り、改札を出て、誰もいない駅の中を歩く。相変わらず、色々とボロボロです。

 ロッカーは扉が全てこじ開けられていて何ら役に立ちませんし、床のタイルもまったく数があっていません。


 帝都復興計画の為とは言え、あまり見ていて気分の良くなるモノではありませんね。

 さっさと行きましょう。


 そうやって駅を出ようとすると思いがけない人と出会いました。いえ、出会ってしまいました。


「お待ちしてました」


 そう言って、目の前にいるダークスーツの女性は腰を折ります。

 私が逃げ続けている人。何でこんな場所にいるのか。なんて聞くのは愚問なんでしょう。彼女、私のことは何でもわかるそうですから。


「用件だけ言って下さい」

「では、こちらを」


 渡されたのは、古臭い蝋で封印された古風な封筒。どうやら何かの招待状のようです。


「必ず参加するように、とのことです。僭越ながら衣装は選ばさせていただきました。御自宅の方に送ってありますので心配はありません」

「わかりました」


 断ることなんて出来ませんね。無理矢理連れ戻されないだけ、マシでしょう。従わなければ実力行使でしょうから、仕方ありません。


「では、これで」

「出来れば次がないことを祈りますよ」

「…………」


 最敬礼をして女性は、黒塗りの車に乗って行ってしまいます。何か言いたそうでしたが、私に聞く気はありませんでした。

 私の手には招待状だけ。捨ててしまうわけには行きませんから、とりあえず仕舞います。


「はあ」


 溜め息。深い溜め息。空気と一緒に嫌な感情まで出してしまうような深く深い溜め息。

 テンションが下がりました。あまり高いとは言えなかったテンションが更に下がりました。

 とても帰りたいです。でもここまで来たからには事務所まで行きましょう。働けば、少しは気も紛れるはずですし。


 というわけで、私は当初の目的通り黒崎探偵事務所に向かいました。ボロボロの一梨区を1人、歩きます。

 帝都一梨区。活気溢れる帝都の中心、中央区から離れた、所謂郊外。帝都復興開発から取り残されて以来、人は離れていくばかりの廃墟群。


 廃れた商店街を通り抜け、私はオフィス街へと入ります。いつ崩れてもおかしくないようなボロボロの雑居ビルの合間を抜ける。

 一昔前は頻繁に起きていたという地震という奴が起きればきっとこれら全ては瓦礫の山と化すでしょう。まあ、今は起こることはありえませんが。


 黒崎探偵事務所は、そんなオフィス街にあります。他の雑居ビルよりはマシな程度にボロボロのビル。

 入り口で、廃墟を歩いて乱れた制服や髪を整えます。これから会うのが如何に服装などにルーズな黒崎さんでも、女の子としてはきちんとしておかないといけませんからね。

 女子の嗜みという奴です。これを気にしなくなると、おばちゃんになっちゃいます。


「いいかな? ん、良し」


 鏡代わりの銀板に写る自分を確認して、私は中に入ります。


 中は、相変わらず汚いですね。

 床は黒ずみ、硝子片やコンクリート片が散乱しており、歩く度にジャラジャラといった感じの硝子を踏み割る音が響き、コンクリート片のせいで歩きにくい。


 本当に、いつ来ても慣れそうにありません。人がいないのだから放置されるのは当たり前で、この惨状は必然なのですが、やはりうんざりします。

 本当、何とかしてもらいたいところなのですが、黒崎さんに言ったところで意味はないです。何度も言っているのに改善しませんから、私が我慢するしかないでしょう。

 はあ。


 硝子片に気をつけながら奥の階段へ。階段の前には、立て札があり、


『この階段、真ん中通るべからず。崩落の危険あり』


 と、書いてある。

 前は達筆過ぎて読めませんでしたが、今は普通にパソコンで印刷されたものに変わっていました。

 最近、パソコンの練習に作ったものです。これで一般の人でも読めるはずです。


 まあ、読めても読めなくても問題はありません。そもそもこんな立て札がなくても真ん中が通れないことは、明らかなのですからね。

 相変わらず階段の真ん中は既に崩落していてぽっかりと穴が空いています。


 通る道がないのでは通りようがないのは当たり前。通る奴はよほどのバカでしょう。


 立札を横切り、階段の端を通って、二階へと上がります。

 やはり一階と似たり寄ったりの有様。床も壁も汚く、オフィスの扉はベコベコにひしゃげてしまっています。


 私は、それらを無視して一番奥にある他よりマシな状態の『黒崎探偵事務所』と書かれた、剥がれかけの貼り紙が貼ってある扉に入ります。


「こんにちはー」


 返って来ることのない挨拶をしながら中に進む。


「こんにちは」

「えっ……」


 返って来るはずのない挨拶が返って来た。

 黒崎さんの声ではない。どこか気品と生まれの良さが言葉の端々に感じられる女の人の声。


 誰?

 聞いたことのない声。帝都に普通に住んでいる人とは思えない気品の感じられる声。

 ソファーに座っていたのは、眼鏡をかけた優しげな初老の女性。綺麗な人。

 誰?

 私は知らない。

 …………いや、知っている。今の帝国人なら知らないはずがありえません。


 白井京子(しらいきょうこ)。優秀な女社長。

 あの京都に本社を置くニューエイジカンパニーの女社長で、今の帝国を作り上げた功労者でもある。


 何を間違ってもこんな場所には来ないはずの人。文字通り(・・・・)雲の上の人。


 順当に考えれば依頼人のはずです。でも、そんな雰囲気ではありません。それに私がいない間に黒崎さんが依頼人を事務所に入れるとは思えません。

 普通なら居留守を使うはずです。ならば、この人は黒崎さんのなんなのでしょう。

 そんなことを考えていると、


「あらあら、あなた助手さんでしょう? そんな所に立っていないで、此方に来て座ったらどうかしら」


 白井さんが空いている席をさしてくれました。


「は、はい」


 とりあえず座ります。


「えっと…………」


 何を言えば良いのでしょう。わかりません。そもそも、こんな人がこんな場所にいること自体が間違いなのです。

 京都の人は京都から基本的に出ません。京都からこちらに来るのが大変だというのもありますが、京都の人たちの性格的な問題もあるそうです。


 慌ててはいましたが、私はふと、気が付いてしまいました。彼女の視線に。気が付いたのはほんの偶然ですが、私を見る視線が、実験動物を見るような、そんな視線でした。

 まさか、と思いもう一度見た時は、普通の優しげな視線だったので、勘違いでしょう。そういうことにしておきます。京都の人には、あまり関わり合いになりたくありませんからね。


「……ん、なんだ団子か」

「誰が、団子ですか、誰が!」


 今の私の髪型は、尻尾ぴょこぴょこのポニーテールです。まあ、あまり髪は長くありませんから、そこまでぴょこぴょこってわけではありませんが。

 とにかく、団子ではありません。


「ほら、いつもの」


 そんな私の否定発言などなかったかのように、奥の部屋から現れた黒崎さんは白井さんに茶封筒を渡しました。

 それを白井さんは、やたら頑丈そうなトランクに大切そうにしまいました。


「確かに。それじゃあね。助手さん」

「あ、はい」


 そう言って白井さんは帰って行きました。私は、すかさず黒崎さんに詰め寄ります。


「何で、あんな人がここに来てるんですか!!」


 しかし、黒崎さんは欠伸を一つ。まったく取り合う気がないのか、ソファーに寝転がってしまいます。そして、数秒後には寝息を立て始めました。

 揺すっても、声を掛けてもピクリとも反応しません。こうなってしまえば、あとは強い衝撃を与えなければ起きません。はい、つまり殴らなければ起きないのです。


「はあ」


 仕方ありません。どうせ、起きていても話してはくれないでしょう。

 ここはおとなしく引き下がっておきます。給料分は働きましょう。


「とでも、言うと思いましたか!!」


 何が何でも聞き出す為、私は腕を振り上げました。

 しかし、私の拳が黒崎さんを捉えることはありませんでした。


「わわっ!?」


 何かを踏んでしまい、私は盛大にバランスを崩してしまいました。何とか踏ん張りますが、まあ、無理な話で、


「いたたたた……」


 盛大にずっこけでしまいました。

 腰が痛い。


「何なんですか〜」


 そこにあったのは、何かの走り書きでした。拾い上げて見てみると、


「何ですか、これ」


 よくわかりませんが、何かの図面のようです。何か、と断定が出来ないのは、本当に何かわからないからです。

 ゴミ、と言ってしまうのは簡単ですが、何ででしょう。何だか、大切なものような。そんな気がしました。



********


 帰りのリニアレール。

 誰も乗っていないそれに乗って私は海島区(かいとうく)への帰路についていました。夜の帳が降り、外は暗い。車内は明るいですが、誰もいない車内はどこか寂しげでした。

 時間があり、暇を持て余した私は、渡された招待状を見ることにしました。


「これは……」


 それは倉城道三(くらしろどうざん)主催のパーティーへの招待状でした。


遅くなりました。

申し訳ありませんが、今月はリアルが忙しい為、更新が遅くなります。



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