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お待たせしました。

 名取さんの事件から一ヶ月が経ちました。特に私の生活に変わりはありません。いつものように学校へ行き、学生生活を満喫しています。

 はい? 探偵事務所には、放課後に行きますよ? そんな毎日入り浸っているわけがないのです。何で平日の日中から黒崎さんに会わなければ行けないんですか? 勘弁してください。


 さて、私の通う学校ですが、中央区から離れた海島区(かいとうく)にあります。ええ、名前の通り海の上に浮かぶ島ですね。それなりに大きいです。紛いなりにも区なのです、学校以外にも色々あります。教室の窓側に座れば、美しい海が見て取れます。今の見てますよ。

 で、そこにある海島学園が私の通う学校です。リニアレールで、本土と繋がってますし、リニアレールが10分に1度の割合で出るので、あまり不便ではありません。定期便が1時間に1度、悪ければ半日に1度の割合でしか出ない京都よりは遥かに便利です。


 まあ、全ての最先端で、まさしく、文字通り、その言葉通り、雲の上(・・・)の京都と、ほかの有象無象の町を比べるのはお門違いなんですけとね。

 今や大戦傷後から立ち直り、首都として発展している帝都が、京都から見ればセピア色の古ぼけた町に見えるとか言うのですから、その凄さがわかるでしょう。今でも凝り固まった貴族社会を形成している古ぼけた町だというのに、最先端を突き進んでいるとはこれ如何に。


 ああ、そういえば、あの事件のあと、黒崎さんが京都について、なんか電話してましたね。帰る寸前でよくわかりませんでしたけど。あの時の黒崎さん、いつもと何か違ったような……。


「授業中に考え事とは、良い御身分だな。赤野?」

「あたっ」


 突然の教師の声と私への打撃音、それと同時に、くすくすと笑い声が響きます。

 うぅ、しくじりました。何を誰にに説明していたのか。本当、授業中だというのに、考え事をするとか。しかも黒崎さんのことなんて。

 ふう、ちょっと、気が緩んでますね。引き締めましょう。笑われてしまいましたし、ちょっと恥ずかしいです。


 それからは普通に授業を受けて、休み時間になりました。学生の憩いの時間、お昼ご飯の時間です。ここの食堂は安いし量が多いことで有名なので、本当、貧乏人には大助かりです。タッパーも持参していますから、準備は万端です。さあ、いざゆかん!

 と、私が、お昼ご飯兼夕食の調達に意気揚々と出かけようとしていると、


「ああ、赤野さん、ちょっと、待ってくれる?」

「はい?」


 背後から呼び止められました。なんなんですか? 人間は生きるのに食が必要なんですよ。今日を生きるのに必死な私にとって、この時間は貴重なのです。くだらない理由だったら、どうしてくれましょうか。

 などど、思いはしますが、そんなことは臆面にも出しません。クラスでの評判は可もなく不可もなく、良い方だと自負している身としては、程よい陽だまりでゆったりしていたいですからね。


 振り返ってみると、そこにいたのは、樫野(かしの)君でした。学級委員をしている男の子です。性格は温厚で優しく、お人好しで、容姿もそれなりなので異性にモテる優しい人らしいですよ。いつも笑顔で、なかなかの好青年ともっぱらの噂だそうです。

 ただ、私はあまり彼のことが好きでは、ありません。ああ、語弊、誤解のないように言っておくと、別に私が他の有象無象の女子のように彼のことを愛の関係のある好きではないということです。恋愛に興味がないのかと言われれば、あると答えますが、今は正直それどころではありませんので。


 話を戻しますが、樫野君のことが好きでない理由は、なんというか、ちょっとした感覚の違和感でしょうか。

 確かに私の眼から見ても、彼は誰にでも優しく、お人好しで、人当たりの良い非の打ちどころのない好青年です。

 ですが、私はなんだかそれが、っと、そんなことより話を聞かなければいけませんね。


「なんですか?」

「仕事だよ。忘れちゃった?」


 ああ、そうでした。思い出してうんざりします。臆面にも出しませんが。

 私も学級委員なのでした。学期初めに休んだのがそもそもの間違いでした。欠席裁判で学級委員にされてしまったのです。欠席裁判ダメ、絶対。まあ、樫野君が学級委員で正確には副学級委員ですが。

 それで、仕事ですか確か書類を生徒会室まで運ばなければいけないんでした。朝言われたのにすっかり忘れてましたね。いえ、別に行きたくなかったわけではありませんよ。絶対です。


「いえ、覚えてます」

「じゃあ、行こうか?」

「はい」


 というわけで、食堂に行く前に職員室によって、生徒会室へ書類を持っていくことになりました。さあ、さっさと行きましょう。お腹がすきました。


********


 さて、そういうわけでやってきました生徒会室ですが、この学園の一番高いところにでかでかとあります。しかも、無駄に開放的な作りをしてます。至る所がガラス張りで、どこからでも海が見えます。どんだけ海が好きなですかね。

 そして、眼鏡の男が生徒会長の入江先輩です。この学園でも変人ぞろいの特待生の中でも一番すごい人らしいです。どういう意味かはわかりません。


「書類を持ってきました」

「ああ、ありがとう。そこに置いておいてください」


 言われた通り、机に置いておく。これで、仕事は終わりです。さあ、食堂に行きましょう。

 それにして、思っていたよりもまともそうな人です。あの変人集団の中でも断トツだと聞いていたので、身構えてましたが、拍子抜けです。


「あの、何の書類なんですか?」


 おい、樫野君。何聞いちゃってるんですか。私は今すぐ食堂に行きたいですよ。昼食ついでに夕食を確保しに行かなければならないんですよ。それなのに、どうして、そんな余計なことを聞いちゃってるんですか。

 いえ、確かに私も気にならないと聞かれれば気になりますけど。それとこれとは話が別です。


「おや、知りたいのですか? 良いでしょう。教えて差し上げます。これはですね。彼の有名な人形職人倉城道三(くらしろどうざん)の講演会に関する書類ですよ。担当教諭が貴方方の担任だったので、運ばされたのでしょうね」


 倉城道三。

 有名な人形職人。

 彼の作る人形は、生きているとさえ言われるほど精巧さを誇っているらしいです。

 政財界の大物から、芸能界の大御所、一般市民に至るまでが、彼の作品に魅了され、それを集めんと欲するほどの至高の芸術品。

 その作品は、国を問わず作品は流通し、高値で取引されていると聞きます。勿論私なんかが持っているはずもありません。


 また、彼は様々な分野でも有名で、特に人工知能について、素晴らしい成果を残していると聞いています。

 それもこれも、彼の最終目標とされている生きた人形。自動人形の作成のためだそうです。何かの雑誌でそう言っているのを聞いたことがあります。もうすぐ成功するとか、しないとか、言ってましたね。

 成功したらどうなるんでしょうね? まあ、庶民には到底関係ないことなんでしょうけど。庶民に降りてくるころには、私はきっとおばあちゃんですよ。梅さんみたいに元気でいたいですね。


「なるほど、倉城道三の」

「そういうことです」

「ありがとうございます。それでは、僕たちはこれで」

「失礼します」

「ああ、待ってください。赤野椿姫さん」

「はい?」


 出て行こうとしたら呼び止められてしまいました。


「あなたに渡すものがあります」

「?」


 何でしょう。わかりません。生徒会長から渡されるものなど、私にあるはずがないのです。

 何か問題を起こしたはずもありません。ラブレターとかなどもってのほかでしょう。

 何せ、生徒会長と会ったのは今日が初めてなのですから。


「どうぞ」


 差し出されたのは封筒。A4サイズの何の変哲もない茶封筒です。

 困惑した顔を向けると生徒会長が説明を始めてくれます。


「留学の為の書類ですよ」

「留学?」

「ええ、知りませんか? 毎年一名選ばれるんですよ。我が同盟国英国(イギリス)蒸気魔導機関都市倫敦(ロンドン)にあるうちの姉妹校との交換留学に行く生徒が。今年は君です」


 生徒会長の言葉を反芻する。


 英国。倫敦。

 帝国とは違った全く真逆の発展を遂げた最先端の技術大国と聞きます。倫敦はその首都で、帝都とは違い最も進んだ街だそうですね。

 帝国の場合は京都ですし。

 産業革命の後に最大級の蒸気魔導機関工業都市として発展した、霧と排煙の満ちる国らしいです。


 倫敦は、日々、工業と文化の発展を続ける科学都市であるといわれていますが、同時に《魔法》と呼ばれるものが存在する二面性を持った都市だとか。

 小説の中にありそうな古風な街で、そこには確かにうちの姉妹校があります。毎年一人うちから留学していますね。

 で、今年は私と。


「えっ…………」


 あまりのことに困惑です。更に困惑です。困惑し過ぎて混乱です。

 他人を敬う私が、敬うべき生徒会長を前にして困惑100%の言葉を吐いたのが証拠です。


 何せ、留学生は、その年で最も優秀(・・)な生徒が選ばれるからです。私如きが選ばれるはずがありません。

 きっと何かの間違い。そう言おうとして、


「間違いじゃありませんよ」


 生徒会長に遮られました。

 心を読まれた。表情にも何も出していないはずなのに。完璧に読まれました。


「選ばれるのは優秀(・・)な生徒。あなたが選ばれても何も問題はありません」


 いえ、問題だらけでしょう。私のどこが優秀というんですか。


「私は何も学業が優秀とは言っていませんよ」

「はい?」


 じゃあ、何が優秀だというのですか。と、そこまで思って気が付きました。

 学業以外。私が他者に誇れることなど、あとひとつしか持ち合わせていません。


「ええ、正解ですよ」


 現に、生徒会長は、私が思い浮かべたことを肯定しました。


「断ることは……」

「三食付きの下宿に入ることになりますが」

「行きます!」


 そうなれば、行くしかありません。

 詳細な打ち合わせは、後日ということになりました。ええ、いや、良いことを聞きました。


「では、また今度」

「ええ、ありがとうございました」


 そうして、私は生徒会室を出ました。

 その瞬間、私は風になりました。樫野君なんて知りません。背筋を伸ばし、きちんとしたフォームで階段を駆け下ります。


 足のバネを最大限駆使して、半ば飛び降りるかのように階段を下り切ります。その瞬間、一階の床に足をついた瞬間、床を蹴りました。

 食堂は、もう目の前でした。


まずは、謝罪を。更新が遅れて申し訳ありません。

少々煮詰まっていました。これからは、なるべく更新できるように頑張りたいと思います。

こちらは、ゆっくり更新していきたいと思いますので、更新が遅いのはご了承ください。

なにぶんミステリー初めてで試行錯誤中なので、生温かく見守ってくださるとうれしいです。


感想、ご意見などお待ちしてます。


では、また次回。

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