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残酷な描写は一応です。


2012年9月3日に修正。

 俺には、親というものがいない。


 初めから居らず、孤児院で生まれ育った。


 その頃は、たくさんの人に迷惑をかけて生きていた。


 そこまでして生きている意味がないと、思っていた。


 でも、自分にもできることがあると知った。


 ある男が言った。


 自分が生きている意味を見いだせないのなら、人のために生きればいいと。


 知らないことが頭に浮かんだ。


 それを紙に書いた。


 それを見た誰かが言った。


 これは人を幸せにする人のためになる発明だと。


 俺は、人のためにという、生きている意味を見つけた。


 そのうち、自分のことを天才だと知った。


 人のために、新しい技術を生み出すことができると俺は知った。


 そうして、俺は、人のためにという道を歩き続けようとした。


 誰かを幸せにしようとした。


 あの日、大戦がはじまったあの日までは。


 大戦は、全てを壊していった。


 俺の日常も、生きる意味も、何もかもを。


********


 春。桜花が咲き乱れ桜色に染まった帝都は、より一層、華やかさを増していました。桜並木は花びらの絨毯が敷き詰められ、河川の水は桜色をたたえています。

 帝都一梨(ひとなし)区は、そんな活気溢れる帝都の中心、中央区から離れた場所にありました。

 所謂郊外という奴です。帝都復興開発から取り残されて以来、人は離れていくばかりで、ほとんどの建物が廃墟となっています。スラムもあるとかないとか。華々しい復興の裏側です。


 そんな廃墟の一つ、元オフィスビルの一室に『黒崎探偵事務所』は細々と存在していました。

 私の仕事場でもあり、一応の雇い主である探偵“黒崎さん”の居城です。

 はっきりいって、商店などが遠く、廃ビルのため瓦礫がそこら中にあり、不便極まりないです。自動販売機もありません。コンビニなど論外なレベルでありません。打ち捨てられた跡ならあります。


 ただ、そんな場所でも私にとって都合のよいことがありました。それは、中央区からかなり遠いこと、それと給料がかなり高いこと。

 こんな場所で働く理由としては十分でしょう。だからこそ働いているのです。そのためのライセンスだって取得するほどです。まあ、期待した通りには行かなかったのですが。


 まあ、それは置いておきましょう。言っても詮無きこと、そんなことをするよりはもっと有意義なことをした方がよろしいでしょう。

 ああ、そういえばまだ自己紹介をしていませんでした。とりあえずここで、自己紹介をしておきましょう。考えても無駄なことを考えるよりは有意義です。


 私の今の名前は、赤野椿姫(あかのつばき)。言うまでもなく女です。17歳のうら若き乙女で、分類(カテゴリ)するなら学生になりますかね。そこそこ良いところの高校に通っています。とある理由で、黒崎探偵事務所で助手として働いています。その理由は追々ということで。


 さて、その間に廃ビルに到着しました。

 ビル入り口に設置された割れた鏡でセーラー服についた桜の花びらなどを払い、乱れを直してからビル内に入ります。


 中は、相変わらず汚い。

 床は黒ずみ、硝子片やコンクリート片が散乱しており、歩く度にジャラジャラといった感じの硝子を踏み割る音が響き煩い。コンクリート片のせいで歩きにくいのも煩わしい。

 こればっかりは慣れそうにありません。人がいないのだから放置されるのは当たり前で、この惨状は必然なのですが、うんざりします。


 本当、何とかしてもらいたいところ。なのですが、上司である黒崎さんに言ったところで意味はいので、私が我慢するしかないでしょう。

 硝子片に気をつけながら奥の階段へ向かう。階段の前には、立て札があり、


『この階段、真ん中通るべからず。崩落の危険あり』


 と、非常に達筆な筆遣いで書いてある。達筆過ぎて読めないほどです。私は読めますけど。

 というか私が書いたので読めるのは当たり前です。書いた本人なのですから。これで読めない方が問題でしょう。


 まあ、私は何て書いてあるか知っているので読めなくても問題はありません。そもそもこんな立て札がなくても真ん中が通れないことは、明らかなのです。

 なぜなら、真ん中は既に崩落していてぽっかりと穴が空いているからです。通る道がないのでは通りようがないのは当たり前。通る奴はよほどのバカでしょう。


 では、なぜこんな立札を置いているのかというと、当初ここで働き始めた時に仕事がなかったので、つまりは暇だったので暇つぶしに仕事っぽいことをしただけです。

 立札を横切り、階段の端を通って、二階へと上がります。ここも一階と似たり寄ったりの有様です。

 床も壁も汚く、オフィスの扉はベコベコでひしゃげてしまっています。本当、無計画な開発というのは、どうしようもないですね。


 私は、それらを無視して一番奥にある他よりマシな状態の扉へ向かいます。あくまで他よりマシな程度であって、この扉もボコボコです。動くのが不思議なくらいですよ。

 扉には、『黒崎探偵事務所』と書かれた、剥がれかけの貼り紙が貼ってありました。私のバイト先です。


「おはようございまーす」


 挨拶をしながら中に入ります。しかし、中に人はいるはずなのに返事はかえって来ません。


「えっと、黒崎さんは……」


 事務所内を見渡すと、雇い主である黒崎さんの姿が見えません。むやみやたらに外を出歩くような人じゃないですから、この事務所内にいるはずです。……そのはず何ですが姿が見えません。

 まあ、何時ものことでだいたい予想はできてました。

 おそらく、何のためなのか不明な書類群の置かれた、部屋中央のテーブルの向こう側にはソファーがあるのでそこにいることでしょう。


 私はテーブルの向こう側に移動しました。

 そこには、ソファーが置いてあり、ヨレヨレの白衣を着た、だらしのない男が眠っていました。髪はボサボサで、無精ひげも生えています。見た目からして駄目人間オーラが立ち上っています。下手すれば変質者扱いですよ。


 この男の人が私の雇い主である黒崎さんです。下の名前は知りません。私がこの人の助手を始めて幾らか経ちますけど、一度たりとも名前で呼ばれているのを聞いたことがありません。本人が名乗ったこともないです。

 興味はないとは言いませんが、こんなオッサンの名前なんて、年頃の乙女が気にするようなことではないので率先して聞こうとは思いません。給料を払ってくれる。それだけで十分でしょう。


 とりあえず今、気にするべきは仕事についてです。

 助手としての責務を果たすことにします。さしあたっては、真っ昼間からぐーすか眠っているこのダメ男を起こすことでしょう。


 私一人でもできることはありますが、それでも他人が寝ているのに自分だけ仕事をするというのは、精神衛生上良いとは言えません。むしろ悪いです。

 なので、とりあえずグーパンをお見舞いしてあげることに致します。さて、最近は一発で起こせるようになってきたので、そのくらいの力加減でやってみましょう。


「えい!」

「のわっ!?」


 グーパンの衝撃で飛び起きる黒崎さん。

 よし、だいたい一発で起きる力加減がわかってきましたよ。これでいつ寝てもたたき起こすことができます。

 しかし、私の楚々とした清楚なイメージを壊さないためにも、人前でやるのは控えるべきでしょう。他人からの印象というのは、考えるよりも大切ですから。


「起きてください」

「いきなり、何をするんだ、団子」


 やる気なさげな声で、頭をかきながら言う黒崎さん。お風呂には入っているのでしょうか。それいかんによっては、少々付き合い方を考える必要があります。ちなみに団子とは私のこと。

 所謂、渾名というやつです。最初に会った時に髪をシニヨンにして、残りの長髪をツインテールのように垂らしていたのが、原因だと思いますが、はっきりいってこの渾名、気に入りません。誰が他人に団子と呼ばれて嬉しい乙女がいますか。


「誰が、団子ですか、誰が。蹴り、喰らいたいですか? 私としては、この頃御無沙汰だったから、ちょうど良いですけど」

「うわっ、何いきなりキレちゃてんの? キレる十代ってやつ? やだやだ、何でもっと大人しく生きれんのか。

 前から言ってるだろう。俺は、睡眠病なんだ。一日二十三時間寝ないと死ぬ病気なんだ」

「はいはい、自称睡眠病ですね。さっさと仕事してください」

「はあ、やれやれ。じゃあ、仕事、なんかあんのか?」


 ようやくやる気になったらしいです。まったく。仕事やるなら最初からやる気をもってやって欲しいものです。私が一々起こす労力も減るし。

 ともかくパソコンに来ている仕事を確認します。相変わらず少ないですね。一件しかありません。もっとまともな仕事を寄越してくれてもよいのに。


「えっと、三丁目の中田さん家の愛猫ジョセフィーヌ三世カタナカが逃げ出したので、探してくれ、という依頼のみですね」

「猫探し……ふあ~あ、団子、任せた。俺は寝る」


 やっぱり駄目ですこのオッサン。

 また、ソファーに寝転がったのでもう一発グーパンをお見舞いしてやろうとした瞬間、事務所の扉が開きました。

 依頼者でした。私が来てから初の依頼者です。しかも、ただの依頼者ではありませんでした。


「黒崎探偵事務所というのは、ここで合っているのかしら?」

「は、はぃ」


 あまりのことに語尾が消え入ってしまったのは仕方ありません。何せ、そこにいた依頼者は、普通ならば、このようなゴミ溜めに来るような、いえ、来て良いような人間ではなかったからです。

 そこにいたのは、名取千(なとりせん)という、今や知らない人はいないという国民的アイドルでした。


 誰もが羨むようなモデル体型で、亜麻色の髪を腰まで伸ばした美女。

 生で見たのは初めてです。何というか直視出来ません。オーラが違うというのでしょうか。それが、こんなゴミ溜めだからか、それが際立っているようです。

 ここまで来ると嫉妬とかはまったく来ませんね。あるのは感心だけです。


「は、はい、合っています」


 柄にもなく慌ててしまうのはこの人の持つ魅力のせいでしょうか。


「そう、ありがとう可愛いお嬢さん」

「えっと、そちらに座って下さい。黒崎さん、仕事ですよ!」


 急いでソファーを消毒して座る場所を作ります。そして、黒崎さんに仕事をさせるように促します。


「はあ、面倒くさい」

「何言ってるんですか! 国民的アイドルの依頼ですよ!」

「ん? 誰だ、それは」


 黒崎さん、駄目な人だと思っていましたけど、まさか国民的アイドルも知らないなんて。

 とか、私は絶句しかけましたが、仕事をしないといけないのでお茶を煎れて持って行きます。お茶と言っても安物のティーパックです。すぐに沸くポットがあるのは楽ですね。


 それを飲みつつ黒崎さんが名取さんに話を促しました。

 別にやる気になったわけではなさそうです。面倒くさいオーラが吹き出していますから。名取さんの話をさっさと聞いて早く帰ってもらいたいようです。

 国民的アイドルにさっさと帰れとか言える人って、たぶん世界中探してもこの人だけでしょう。まったく尊敬できません。


「まあ、良い。で、何だ?」

「あなたが探偵さんなのかしら?」


 まあ、だらしなさ過ぎて探偵とは思えませんけどね。


「ああ」

「簡単な依頼よ。詳しくはあとて話すけど、ストーカーの被害が出てるからどうにかして欲しいの。明日は花祭りでライブだし、不穏な手紙も来ているからこれもね」

「警察にいきゃあいい」


 即答する黒崎さん

 あまり同意したくないですが、確かにそうです。名取さんほどの人なら警察も喜んで対応するでしょう。生のアイドルを見れるんですから。こんなゴミ溜めにわざわざ来る必要もないですし。組織力という点で彼らは探偵をはるかに上回っていますから。


「警察は駄目だったわ。悪戯だろうって取り合ってはくれなかった。だから探偵省に行って、紹介してもらったの」


 なるほど、それでこんなゴミ溜めに行き着いた、と。


 説明しておくと、探偵省とは、内閣にある探偵を管理する公共組織で、探偵に依頼を斡旋したり、捜査するための様々な特権を与えたりする組織のことです。登録された探偵事務所をランク付けしたりもします。

 ランクは、最高のSSS(トリオエス)から最低の(ソロディ)までの合計15ランクあります。探偵事務所は、そのどれかに、功績によってランク付けされるのです。


 一応、黒崎探偵事務所も登録しています。つまりきちんと認められた正式なプロの探偵事務所というわけです。でも、ランクはD。最低の探偵事務所ですけど。

 だから、正直言ってここより他に行った方が良いです。帝都には、ランクSSSの探偵事務所がまだあるのですから。非常に残念ですけど。うちには分不相応です。


「何で、うちにきた。他にもあんだろ」

「他は駄目よ。彼らの私を見る目は、ストーカーと何ら変わりはないもの。邪なの。

 仕事をする以上、労働者には最高の仕事をする義務、責任があるわ。邪な目をした人間が、最高の仕事なんてできると思う?

 無理よ。ここに来たのは半ば賭けだったのだけれど、当たりみたいね。あなたは、私をそんな目でみないもの」


 それは黒崎さんが、あなたを知らないからですよ。まあ、知っていたとしても、黒崎さんがアイドルなんかにうつつを抜かすような人とは到底思えないんですけど。

 アイドルなんかより睡眠をとる人ですから。ストーカーのような欲望丸出しの目なんて出来ないでしょう。できて、死んだ魚の目です。

 そのアイドル的には、死んだ魚のような目でも良いらしいですけど。


「なるほど、よし、こ――」


 私は笑顔を向ける。受けなかったら殺します、とメッセージを込めて。


「――と、思ったが、引き受けよう。はあ」


 よし、色々言ってましたけど、せっかくうちを選んでくれたアイドルの依頼なのです。今逃したら二度とやって来ないような依頼です。受けないと損なのか確実なのです。


「ありがとう、じゃあ、うちの事務所に行きましょう。今、車を呼ぶわ」


 そう言って名取さん一度出て行った。

 ここは非常に電波が悪く、電話をかけるなら外に行くしかないのです。現に、私の携帯は圏外と受信状態の間を行ったり来たりしています。


「はあ」


 その途端の黒崎さんの溜め息。

 黒崎さんは、懐から煙草を取り出して、さっさと火をつけ、あからさまに面倒くさそうに紫煙を吐き出しました。

 嫌な予感、というか、これから先黒崎さんが何を言うのか予想ができました。


「おい、こういうのはお前の仕事だ、さっさと行け」


 予想通りです。予想通りすぎて何にもなりません。ですが、ここで了承しては駄目なのです。何せ、私は探偵助手のライセンスは持っていますが、何分初めてのことです。いまだ私にできるのは探偵省からくる依頼の整理などですから、うまくできるか心配です。

 あとできることと言ったら簡単な掃除くらいです。簡単なのは、あまりやりすぎると逆に汚くなってしまうからです。どうしてでしょうか。私はきちんと掃除しているはずなのですが。掃除して以来黒崎さんから掃除を禁止されています。


 また、同じく料理も禁止されています。まあ、これはしょうがないです。キッチンを爆発させてしまったので。それ以来禁止です。キッチンすら立ち入らせてくれません。まあ、立つべき、キッチンなどないのですけど。黒焦げのままという意味で。

 ともかく、黒崎さんに仕事をさせなければなりません。依頼はきちんと完遂すべきなのです。問題は、色々とありますけど。


「いや、私助手ですよ。黒崎さんが来ないでどうするんですか」

「俺がいても変わらん。行って来い」


 そしてソファーに寝転がる。新聞を腹に載せ、紫煙を吐く。完全に動く気なし。


「はあ、何かあったら連絡しますからね」

「へいへい」


 生返事だ。きっと電話しても出ないに違いない。電波も悪いし。


「はあ、と、私が諦めるとでも?」


 そんなわけはないでしょう。黒崎さんは是が非でも連れて行きます。これは決定事項というやつです。


「ぐはっ!?」

「さあ、行きますよ」


 そういうわけで、私は戻って来た名取さんと、黒崎さんを引きずって一緒に、名取さんの所属するアイドル事務所に向かいます。


書きたい気持ちが爆発して書いてしまいました。改稿を重ねるたびに文字数は増えていき、気が付いたらこんなことになってました。


何か意見や要望などありましたら、気軽に言ってください。

また感想、評価は作者のやる気につながります。


では、初めてのミステリーですが、よろしくお願いします。

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